誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~

平尾正和/ほーち

4-25 ダンジョン制覇

 SPだけじゃなく、お金にも余裕ができたので、たまに州都エムゼタに行っていろいろ魔術を覚えたり服を買ったりした。
 所持品にある傷用ポーションは、回復魔術を施した液体で、飲んでもかけても効く。
 魔力ポーションってのは魔石を溶かしこんだ液体で、くっそまずいけど一瓶(100mlくらい?)でMPが100くらい回復する。
 ヒトにしては魔力が多い俺と、魔力に関しては右に出るもののいないハイエルフのデルフィにとって、魔術なんて使い放題みたいなもんだから、どちらのポーションもあんま出番はないけど、いざというときのために備えてる感じかな。
 その他の荷物は、基本的に収納庫行き。

「ん、紅葉もみじ?」

 20階層台攻略も後半にさしかかったころ、最後にエムゼタへ行ったとき、赤く色づき始めた木が街のあちこちに見えた。

「もうすぐ紅葉こうようの季節なのね」

 なるほど、こちらの世界にも、紅葉とかあるんだな。

「樹海の紅葉は、それは見事なものよ」
「へえ、見てみたいな」
「でも、普通の人には見えないの」
「なんだそりゃ」
「でも私が一緒なら、見られるわ」
「よくわからないけど、一緒に見れるといいね」
「……そうね」

 そんなとりとめのない会話を、ふと思い出した。
 そのとき、デルフィはとても寂しそうな表情を浮かべていたような気がする。

 さて、探索のほうに話を戻すが、デルフィはうまい具合に天啓がおりてるようで、たぶん〈多重詠唱〉と〈詠唱短縮〉はそれなりのレベルになってると思う。
 魔弓で放つ《矢》のリロード時間が0.5秒くらいだし、たまに別属性の《矢》を2~3発同時に撃ったりしてるし。
 あと〈風魔法〉も習得できたみたいで、たまに範囲攻撃とかやってる。
 ちょっと恥ずかしい言い方になるけど、デルフィとふたりなら、怖いものなんてない。

**********

「ショウスケ、どうしたのぼーっとして?」
「いや、このまま進むか、いったん戻るか考えててね」

 いましがた俺たちは、29階層のボスであるリッチーを倒し、目の前には転移陣が出ている。
 通常であれば次の階層に進んで帰還玉で帰るんだが、30階層は外の転移陣からダイレクトに飛べないので、行ってすぐに帰るなら、いま帰っても同じことだ。

 ここでいったん戻っても、倒したボスは復活しないので、もう一回ボスエリアにさえ到着すれば、すぐに転移陣が現れるはずだ。
 しかしここ29階層はクッソ広いし、つぎ来たときはボスエリアの場所が変わっているので、1回戻ってもう一度、となるとさらに2~3日必要になる。
 そこまで消耗してないし、連戦もできるとは思うんだが、大事をとってスタート地点を更新しておきたい、という思いもある。

「私はこのまま、もう一戦いっても平気よ」

 デルフィもこう言ってるし、一気に行くか。

「そうだな。じゃ、行こう」

 うん、デルフィも大丈夫っぽいし、このまま行ってしまおう。

 転移陣に乗り、景色が一変する。
 先ほどまでの暗い夜の荒野から一転、快晴の草原が現れた。
 30階層はなんの遮蔽物もない、ただただ広い草原エリア。
 そして転移した直後にボスが現れる。
 光の粒子が集まって形成するのは……、

「おお、ドラゴン!!」
「話に聞いた通りね」

 体長10mはあろうかと思われる巨大なドラゴンだった。

「ガアアァァァ!!!」

 顕現するなり、耳をつんざく咆哮を上げるドラゴン。
 ここは最初っから、全力で挑ませてもらうぜ。

 俺はドラゴンに向かって走りながら《上級自己身体強化》をかけ、さらに《炎纏鎧えんてんがい》でファイアブレスへの耐性を上げておく。
 敵の情報については、事前にきっちり調べてあるからな。

 走る俺の脇を、あらゆる属性の《矢》が何発も通りぬけ、ドラゴンへ飛んで行く。
 このドラゴン、デフォルトで属性に対する耐性はないのだが、直前に食らった攻撃の属性に対して、多少の耐性を得る、という少々意地悪な仕様になっている。
 なので、複数の属性を持つ攻撃を、ランダムに当てていくのが攻略の糸口となるようだ。

 もしくは、物理で押し切るか。

 弓術を極め、長めの詠唱を加えたデルフィの《矢》は、一発一発が対物ライフル並の威力になっている。
 出現直後は粋がってこちらを威嚇していたドラゴンだったが、《矢》を一発食らうごとにのけぞり、よろめき、まだ開始から10秒とたっていないのにもうボロボロだった。

 ――このままでは俺の出番がなくなってしまう!!

 俺はさらに、体内へ巡らせる魔力量を上げて身体能力を強化し、《魔突飛剣》の詠唱を終えたレイピアに、無属性の魔力を上乗せする。

「そりゃぁーっ!!」

 ドラゴンの懐へ一気に踏み込み、刺突を繰り出す。
 レイピアから放たれた、物理と魔術を合わせた攻撃が、ドラゴンの顎から脳天を容赦なく貫いた。

「ガアアァァ……」

 断末魔の雄叫びを上げたドラゴンは、地面に倒れることなく消滅した。

「意外と楽勝だったわね」

 軽い足取りで、デルフィが近づいてくる。

「な。俺らってもしかして結構強い?」
「どうでしょうね。あんまり調子には乗らないほうがいいと思うけど」
「それもそうだね」

 ドラゴンがいたところには、魔石が山積みになっている。
 たしか、100kgくらいの魔石が手に入る、って話だったな。
 残念ながら、今回ドロップはないようだ。

 魔石を《収納》し終えて一息ついたところで、急に景色が変わった。
 なんか普通の部屋みたいなところだ。
 生活感のある部屋の奥にソファがあり、そこに人が座っている。

「やあ、ダンジョン制覇おめでとう」

 そのソファに座っている男が、声をかけてきた。
 ただ、そいつは顔つきといい服装といい、どうみても日本人だった。

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