誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~

平尾正和/ほーち

3-8 消えた依頼

 Eランク依頼を順調にこなし、借金もなくなって、生活もかなり落ち着いてきた。

「よし、そろそろハリエットさんのお願いを、聞きにいくとするか」

 たしか、魔石を納品して欲しいってことだったよな。
 あの話は、死に戻りでなかったことにはなってるけど、無理して中級魔術を教えてくれた事実は、俺のなかで消えてはいない。
 そしてあのとき教えてくれた《魔刃》と《魔槍》のおかげで、討伐依頼も順調に進んでいるんだ。
 こうもお世話になっている以上、無視する訳にはいかないよな。

「あらぁ、ショウスケちゃん、こんな時間に珍しいわねぇ」

 最近、魔術師ギルドへは、魔力操作訓練後の回復のために寝台を借りに来るだけだったので、受付に来るのは日が暮れたあとだったんだよな。

「ええ、今日はちょっと依頼について相談がありまして」

 しかし、いつ見ても見事な谷間だな。
 ……こういうところが、もしかしてデルフィーヌさんに嫌われる原因?
 でも男である以上、視線を奪われることは、仕方がないことなんだ……!
 って、しょうもないこと考えてないで、本題に移ろう。

「魔石の採取に興味があるんですが、どうすればいいでしょう?」

 あのときのお願いってのもあるけど、あれからずっと気になってたんだよな、魔石。

「あらぁ、魔石に興味があるの? おねーさん嬉しいわぁ」
「はい。ちょっとそういう話を耳にする機会がありまして」

 本当は、あなたに依頼されたのですよ。

「ショウスケちゃんは、どうやって魔石を採取するか、知ってるのかしら?」
「いえ……。どっかで採掘するんですかね?」

 ファンタジーものだと、魔物を解体すると体内から見つかるってのが多いが、いまのところそれらしいものは、見つかってないんだよなぁ。
 魔物から採れないなら、考えられるのは鉱石あたりかな、ところなんだけど。

「ふふ……ショウスケちゃん、なにも知らないのねぇ」

 言いながら、ハリエットさんは妖艶な笑みを浮かべる。
 くっそー、やっぱこの人エロいなぁ……。
 ずっと会話していたいぜ……ってか、ハリエットさんとも、ちょっと照れながらとはいえ、まぁまぁ話せるんだよな。
 おねいさんが醸し出す余裕のおかげか?

「魔石はね、ダンジョンモンスターから採取するのよ」
「ダンジョンモンスター!?」

 ってことはあれか、ダンジョンがあるのか!?
 そうか……そこに思い至らなかったのは、迂闊だったな。

「ただ……ショウスケちゃんソロでしょう?」
「ええ、まぁ」
「浅層ならあまり危険はないけど、できれば攻撃魔術を覚えておいたほうがいいと思うのよねぇ……。まだ、覚えてなかったわよね?」
「……ええ、はい」

 実は中級魔術、使えるんですけどね!

「なら、『下級攻撃魔術パック』なんてどうかしら? 基本攻撃魔術属性四種の《矢》《弾》《球》と『攻撃魔術基本講座』をセットにしてなんとお値段3,000G!!」
「安ぅーい!」
「あはは、ショウスケちゃんたら、おもしろいんだからぁ」

 と、ついつい乗ってしまう。
 俺のリアクションを気に入ってくれたのか、ハリエットさんはいつも妖艶な感じじゃなく、ちょっと爽やかな笑みを浮かべてくれたぜ。

「でも、お金が……」
「前回のローンは比較的短期間で返済してくれたし、魔石採取に行ってくれるっていうんだから、特別にローンでもオッケーよ!」
「お願いします!」

 即答しちまったぜ!
 でも、無属性以外の魔術も、使いたかったからいい機会だ。

「『攻撃魔術基本講座』は受けるでしょ?」
「もちろんですとも!!」

 講座修了者の称号は、バカにできないからな。
 セットで受けさせてくれるってんなら、喜んで受けるさ。
 早速ギルドカードを渡して、手続きを行ってもらう。

「じゃあ、あのおじーちゃんについていってね」

 あ、やっぱ講義はあのじいさんなんだ。
 まぁあの人の話、わかりやすいもんな。

「おい、用がすんだならさっさとどけ!」

 後ろからの声に振り返る。
 またお前か。
 えーっと、ヘクターさんだっけ?

「あーはいはいすいませんねー」

 やっぱ目つきヤバいなぁ。

「ハリエットさん! 今日は貴女あなたに似合うアクセサリーをお持ちしました!! どうです、この宝石? 我が盟友フレデリックが州都で買い付けた逸品なのですよ。見事でしょう!!」
「あのねぇ……。そんなものはいらないから、魔石でも採ってきてくださいな」
「あのような無粋な石ころなんぞ、貴方には似合いませんよ!! あと、私の思いを綴った手紙を用意しましたので、ぜひお返事を!!」
「はぁ……」

 ほんと、美人は大変だねぇ。
 しかしあのヘクターってのも欲張りな人だ。
 ああいう美人の受付嬢ってのは、公共の宝みたいなものなんだから、ちょっと話せるくらいで満足すりゃあいいのに。

「おー、チョウスケくん、久しぶりじゃの」
「ショウスケです。またよろしくお願いします」

 じいさん、俺の顔は覚えてるのに、名前は相変わらずなんだな。

 場所は前回同様、教室みたいなところで、生徒も俺ひとり。
 戦闘訓練に比べて人気ないのな、魔術講座は。
 とりあえず俺は、爺さんの講義に耳を傾けた。

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