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ユニークチート【恋の力】は確かに強いけど波乱を巻き起こす!?

平涼

初心者迷宮

 初心者迷宮。
 今では誰も向かう者はいない。
 そこに二人の少年、少女が挑む。

「さあ!張りきって行こう!」

「......眠い」

 テンションが高いアルフとは正反対にヘレナはテンションが低い。
 これにはアルフが原因である。
 アルフは、初めて挑む迷宮ということで、全然眠れなかったのだ。それに比べて、ヘレナはぐっすりだったのだが、眠れなかったアルフに早朝から起こされ、冒険に必要な物を買う為に付き合わされているのだ。

 最初に冒険者支援ギルドでステータスを更新し終え、迷宮に行く為の準備等々、散々付き合わされたのである。
 普段早起きではないヘレナには最悪の仕事だった。

「どうしたヘレナ!元気出していこうぜ!」

「......もう帰って寝たい」

「安心しろ!今日のお俺は絶好調だ。ヘレナは俺が守ってやるから!」

 だが、アルフにはヘレナが迷宮に潜る事を怖がっている様に思えたのだろう。全然違うのだが。

「あんたに守ってもらうって不安しかないんだけど」

「さあ行こう!」

 ヘレナの言葉はアルフには聞こえていないようで、さっさと歩いていく。

「うす暗いのね」

 迷宮。それは何処でも少しうす暗い所である。

 だが、それでも普通に見える程度で、ヘレナも支障はないのか文句は言わない。

「......ヘレナ。横にずれてろ」

 アルフの真剣な顔にヘレナは頷いて横にずれる。

 目の前にいるのは、ゴブリン、そしてワンラビットだ。

 ゴブリンは言わずとも、ワンラビット。この魔物は初心者にとって非常に厄介な魔物だ。

 その容姿は、頭のてっぺんに角を一つ生やし、四足歩行で小さく可愛い生物とも言われてもおかしくはないが、見た目では判断出来ない瞬発力がこの魔物にはある。一直線に速い動きに初心者は翻弄されやすい。

「キュ!」

 ワンラビットは奇声をあげながらアルフに突撃する。その攻撃は初心者には見えるものではないだろう。

 だが、来る場所が分かっているのなら、

 (速い。だけど大丈夫)

 対処は簡単だろう。

 アルフは横に避けワンラビットが突撃し終えた所を狙い片手剣を一閃し倒す。
 これが出来たのもケイシーがくれた『魔物図鑑』のおかげだろう。そこにはしっかりと魔物の特徴について書いてあるのだ。

 (やっぱり。ワンラビットは横に弱い)

 ワンラビットの弱点は、横に移動できない事。そして直ぐには次の突撃が行えず、少なからずインタバールが必要だ。
 それをアルフは『魔物図鑑』でしっかり勉強している。
 この迷宮に出てくる魔物についてはアルフは熟知していた。
 だが、それだけで勝てる程迷宮は甘くない。
 迷宮ではいつもアルフが行っている森での魔物との戦いとは違い、魔物の数、そしてその襲撃数が桁違い。
 一体の魔物を倒したから浮かれている場合ではないのだが、アルフは油断なく倒していく。
 それが成し得ることが出来るのも、【最強願望】の能力のおかげだろう。
 【最強願望】能力によって自分より強いワンラビットに対して、ステータス大幅上昇され、アルフは難なく戦えているのだ。だが、能力が出現されていることを知らないアルフは、

 (いける。今日も身体も軽くて絶好調だ)

 アルフ本人はそれをただ自分が絶好調にしか思っていなかった。
 しかし、確かに絶好調に様に素早く行動出来て、次々に出てくる魔物を蹴散らしていく。

「ふう」

 全ての魔物を倒し、一息吐く。
 すると、ヘレナがアルフに近づき、

「この魔石を取ればいいのよね?」

「ああ。俺も手伝うからやろうぜ」

 アルフは喋りながら、腰を落とし魔石を拾うとするが、それをヘレナに手で止められる。

「これはサポーターの仕事なんでしょ?私がやるからアルは待ってて」

 そう言われれば、アルフは何も言えないのか、黙ってヘレナが魔石を拾うのを待ちながら、辺りから魔物が襲ってこないか見張る。

「まだ行くのよね?」

「そうだな。今日絶好調だし」

 魔石を拾い終えたヘレナを連れて、アルは更に進む。

 アルフ達が来たのは二階層。そこでは新しい魔物が二体。

 ボアとガーゴイルだ。

 ボアはデカい鼻の両隣に角を生やし、四足歩行で行動している。ワンラビット程の速さを持ってはいないが、力がある。ボアの突進を直接食らえば、危うく死に至る。

 だが、ボア単体なら殆ど油断していなければ、大丈夫なのだが、ガーゴイルとの連携が大変なのだ。

 ガーゴイルは羽を生やし、空を飛ぶ魔物だ。ガーゴイルは空中から奇襲を仕掛けてくるように、口にある牙で攻撃して来る。ガーゴイルも単体ならば、そこまで危険ではない。

 だが、この二匹の魔物が力を合わせれば、脅威に至る。

「(来る!)」

 アルフは瞬時にボアが突進してくるのを、横にずれる。
 ボアに片手剣を一閃しようとするも、そこにガーゴイルの奇襲が迫る。
 それに気付いたアルフだが、この状況から剣をふるうにしても間に合わない事にアルフは気付き、瞬時に剣を持っていない方の腕で防ぐ。

「いっ!(結構痛い!)」

「アル!」

 ガーゴイルの攻撃は並大抵の冒険者ならば、そこまで痛みも伴わないが、アルフは突然の痛みに呻く。アルフが初めて攻撃を受け、それを見たヘレナが少し悲痛な声を上げるが、アルフはヘレナの声には反応せず、ボアとガーゴイルに対し集中して動きを見ていた。
 アルフが呻き声をあげ、怯んだところに更にボアの突進が来る。

 (分かってれば何とか)

 アルフはギリギリの所でボアの突進を避ける。
 だが、そこでまたしてもガーゴイルの突撃が来るが何度もやられるアルフではない。
 分かっていたガーゴイルの攻撃に先程よりも速く動き、ガーゴイルに一閃する。
 そして、ボアの突進を跳躍する事で躱し、直ぐに着地からの攻撃を繰り出し、ボアは消滅する。
 それからも何度もボアとガーゴイルとの戦闘を繰り返す事で、段々と淀みない攻撃に動いていく。
 最後には、全く危険もなく、戦闘を終えた。

「はい。ポーション」

 ヘレナがアルフの右腕を見ながら、渡す。
 ポーションには軽い怪我ならば、直ぐに治す事が出来る。
 アルフはそれを呑み、傷を癒す。

「ありがとな。ヘレナ。今日は順調だ。進もう」

 ヘレナが頷いた事で、アルフと共に進んでいくのだが、

「......魔物がいない?」

 アルフが辺りを見ながら疑問に思う。

 だが、それだけではない。

「魔石も落ちてる。おかしいな」

「何がおかしいの?」

 分からないヘレナは疑問を浮かべるのも無理はない。

 それをアルフが説明する。

「おかしいのは二つ。一つは魔物がいないのはおかしいんだ。ここは初心者迷宮で誰も来てない。なのに、魔物が倒されるわけも無いしな」

「え?けどそれおかしくない?」

 ヘレナもようやく分かってきたようだ。それがアルフが思っているもう一つの疑問に重なる。

「そうなんだ。もう一つの疑問として、倒されるはずのない魔物の魔石が落ちているのはおかしいんだ。誰かが入っているとしてもおかしい。誰かが入ったんなら、一階層から魔石が落ちている筈だし、倒した魔物の魔石を拾うのは常識だ」

 冒険者の常識として魔石を拾うのは当然だ。魔石が冒険者の稼ぎとなるのだから。
 そして、お金にならない初心者迷宮で魔物を倒して魔石を万が一拾わないとすれば、そもそも初心者迷宮になんて来ない筈だ。
 よって、アルフの見解は的を得ていた。

「不気味ね」

 ヘレナが自分の体を抱く仕草をしながら不安がるが、

「だけどチャンスでもある。誰かが入って魔物がいないとすれば、『最奥の間』に挑戦することが出来る」

 アルフの言った『最奥の間』。それは迷宮の最終地点の事だ。
 そこを攻略すれば、晴れて迷宮を踏破した事になる。

「大丈夫なの?」

「分からない。だけど、何かあるんならすぐに逃げれば大丈夫だろ。ここは初心者迷宮で五階層だし、直ぐに逃げることも可能だしな」

 アルフの言い分も最もだろう。
 今が好機なのは間違いない。

「ならどうするの?直ぐに進む?」

「いや。今は魔物がいないようだし、少し休憩してから進もう」

 それからアルフとヘレナは何が来ても対処出来るように迷宮の真ん中で食事に入る。ヘレナがサポーターバックから迷宮に入る前に買っておいた食料をアルフに渡す。
 だが、アルフはふとヘレナが食べている物が目に入った。

「なあ、ヘレナが食べてるのってプチ肉だよな?俺にも一つ分けてくれよ」

 アルフがヘレナの食事に手を出そうとしたが、ヘレナはその手を払う。

「......一つくれ」

「絶対に嫌だ」

 アルフは懇願するが、ヘレナは即答する。

 それもその筈。ヘレナにとってプチ肉は大好物なのだ。殆ど全世界共通で大人気商品なのは間違いないだろう。プチ肉とは四角い小さな肉なのだが、その分旨味が凝縮されていて、噛み応えもある商品。その特徴を聞いた人は涎が出ること間違いなし。露店に出れば、速く行かなければ直ぐに売り切れる商品である。

「一つだけでいいからさ」

 ヘレナの食糧はプチ肉だけという偏った食事になっている。

「アルは私を朝早くに叩き起こして、更にプチ肉まで奪うの?」

「何でもありません」

 アルフは言い返せないようで口を閉じるが、アルフが朝早く起こさなければプチ肉も買えていない事をアルフは分かっていないようだ。
 しょんぼりとするアルフにヘレナが言おうか言わないか迷っている様に視線を泳がせていたが、

「ねえ、アルって今レベルどの位なの?」

「今日更新したらなんとレベル10になってたんだ。凄いだろ!」

「私も冒険者じゃなくても10だけどね」

「ぐっ」

 アルフは心に傷を負ったようにわざとらしく胸を抑える。

 (私と同じレベルの動きじゃない気がする。だけどアルが嘘を吐いているようにも見えない)

 ヘレナは困惑しながらもこれ以上の追及はしなかった。
 アルフ達は食事を済ませ、迷宮探索を再開させる、

「......四階層も魔物はいないのか。四階層からは魔石も落ちていないし」

「確かにそうね。どうする?もうここまで来たし、最奥の間まで行くの?」

「......そうだな。今日は絶好調だし、今行かないと後々また潜るのも面倒だ。俺の目標は【炎迷宮】に行くことだし」

 アルフにとっては初心者迷宮は通過地点に過ぎない。
 最終目標はアリスに惹かれる男になる事だ。

 (やっぱ、当初の目標としてはイグナイトにあるランキングを上げていくことだよな)

 アルフの考え最もだ。アリスに惹かれる存在いなる為。それにはイグナイトに張り出されるランキングの上位に行くことが必須となる。

 ......本当にアリスが強い人が好きならの話だが。

 だが、アルフの言う通りランキングに入らない限りアリスに見られることも無い事も事実だ。
 アルフが行っている行動はあながち間違っていないのが驚きである。

「分かった。じゃあさっさと進みましょう」

 ヘレナも今の所魔物が現れていない事でアルフが余裕を持っている事を知っているので、否定はしなかった。

「『最奥の間』はゴブリンキングだから、多分大丈夫だと思うけどな」

 初心者迷宮の最奥の間に住んでいるのはゴブリンキングただ一体。

 ゴブリンキングとは、ゴブリンの王様。普通のゴブリンより身長も体格も大きく、ゴブリン十体分の知恵と力を持っていると言われている。
 ......本当にゴブリンキングが最奥の間にいるのならばの話だが。
 アルフ達は初心者迷宮の『最奥の間』に脚を踏み入れるのだが、

「......どういうことだよ」

 アルフは呆然とし、その言葉を吐くのが精一杯だった。ヘレナは何かを思い出したのかの様に脚を震わせている。

「どうしてサイクロプスがこんな所にいるんだよ!」

 アルフ達が向かった『最奥の間』にいたのはゴブリンキングなどという生易しい魔物ではなかった。

 サイクロプス。その魔物は二メートルはある一つ目の魔物。武器はゴブリンとは比べ物にならない程のデカい棍棒を持ち合わせ、その武器で直撃の攻撃を食らえば、中級冒険者でもいとも簡単にやられる。
 【炎迷宮】では、三十階層辺りにいる魔物である。
 そしてアルフとヘレナとも因縁深い魔物であった。

「ウオオオ!」

 サイクロプスがアルフ達に向かい咆哮を上げる。

 アルフは頭の中が真っ白になったように動きが硬直するが、ヘレナは我慢できない様に膝から崩れ落ちる。
 だが、先に理性を取り戻したアルフは片手剣を構えるのではなく、直ぐに逃げることに決める。

「ヘレナ!逃げるぞ!」

 だが、ヘレナは腰が抜けたかのように立つことが出来なかった。

「しっかり捕まってろ!」

 アルフはヘレナを腕に抱えて走る。

 だが、その後をサイクロプスが迫っている。

 (このままじゃ絶対に追いつかれる)

 アルフは今胸の中で震えているヘレナと背後から迫ってくるサイクロプスに目を向け、覚悟を決める。

「ヘレナ。今すぐお前はここから逃げろ」

「......何言ってるのよ!二人でこのまま逃げるのよ!私も走れるから!」

 ヘレナはアルフの胸の中で理性を取りもどし、喚くが、

「......ヘレナ。お前なら分かるだろ。このままじゃ絶対に追いつかれる。だからお前が逃げて助けを呼んでくれ。誰でもいい。その間、お前が逃げる為の時間を俺が稼ぐから」

「一緒に逃げよう。私も走るから。私も体力あるから走れるから!」

 だが、それでもヘレナは引き下がらない。それはアルフにもしもの事があるかもしれないからという概念が頭の中で浮かんでいるからだろう。

「無理なんだ。だからこそお前の力が必要なんだ。二人でここに残ってもヘレナを守りながら戦うのは厳しい。だからお前が頼りなんだ。頼む」

 アルフはヘレナの目をしっかり見据えて気持ちを伝える。

「......分かった。だけど約束して。命を賭けてまで戦わないで。そして絶対に生きて」

「ああ。約束するよ」

 ヘレナはアルフから離れる。

「これ、余りのポーション二つだけど使って」

「ああ。それじゃあ頼むぞ」

 ヘレナはアルフの方をチラチラと見ながら、走って入り口に向かう。

 (体の震えは止まってたな)

 アルフが意図的にやったのかは分からないが、ヘレナの体の震えは止まっていた。ヘレナに役割を見つけさせることで、サイクロプスから一時的にでも思考を消したのだ。

 (後はこいつだけだよな)

 アルフはサイクロプスを見据える。

 (ごめん、ヘレナ。俺は一つだけ約束は守れない。俺にはこいつを倒さないと前に進めない気がするんだ。だから、逃げない)

 アルフはヘレナに対して約束は守ると言った。だが、それは両方ともではない。
 生きることの約束は守ったが、命を賭けて戦わないという約束はアルフは守れない。
 アルフは直感で分かっているのだろう。
 こいつを倒す事で前に進む事が出来ると。

「来い!」

「ウオオオ!」

 アルフの叫び、サイクロプスの咆哮が戦いの始まりであった。
 

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