ユニークチート【恋の力】は確かに強いけど波乱を巻き起こす!?
家族との話し合い
(どうするかな。ありのまま話すしかないが、もういくしかないよな)
アルフは家のの玄関前で先程からウロウロしながら家族に対しどう話すか考えている。
それを先程から十分か、それ以上ずっと考えている。傍から見れば不審者と思われてもおかしくはない。
「あれ?アル、そこで何してるの?」
そこに現れたのはアルフと同じ孤児院で現在一つ年上であり、茶髪髪に容姿端麗なヘレナだった。はたから見れば、お近づきになりたい人であるが、その性格には中々に厳しいものである。
突然の家族の登場に少しアルフは困惑しながらも返事を返す。
「......お前こそ何してるんだ?」
「買い出しに決まってるじゃない。そういえば今日遅くない?何かあったの?」
「う、うん。まあ、後で話すよ」
アルフが少し動揺しながら話す事で、ヘレナは少し疑問に思ったように首を傾げるが、後で話すという事で気にせず買い出しに向かった。
(先にシスターに話すしかないよな。ヘレナが買い出しに行ったって事はもう店は殆ど空いている状態だろうし)
アルフは一度深呼吸をし、家に入る。
「お帰りなさい。アルフ」
そこで出迎える女性は少し老けているが、未だ美貌は衰えていなく、黒髪の女性マリアだ。
「ただいま、シスター。ちょっと話があるんだけど大丈夫?」
「ええ。もう人も来ないだろうし大丈夫よ」
シスターもアルフの真剣な目つきで大事な事だと分かったのか、もう店は閉めて、二人で居間に座る。
それからアルフはアリスに惚れたこと以外は全て話した。
「.....そうかい。それでアルフはどうしたいんだい?」
「俺は......入りたい」
アルフは意を決して正直に話した。
「それなら良いじゃないかい。まさかアルフがそこまで成長して認められるとはね。行っておいで」
シスターは快くアルフが巣立つのを祝うが、アルフの表情は晴れていない。
「......だけど俺はまだシスターに何も恩返し出来てない」
それがアルフにとって唯一ここを出て行く事の足枷となっている事だった。
アルフはシスターの右腕を見る。そこには義手が嵌められており、それを見るアルフの顔は、渋い顔になる。
「.....まだ気にしてたのかい。まあ、気にしないってことがアルフには出来ないんでしょうけどね」
「当たり前だろ?......そんな目に遭ったのは俺のせいだ」
その義手はどうやってなったのかそれは本人しか知らない。
「私は正直に言って義手を嵌めなくても良かったのよ」
「え?けどそれはシスターが付けたいって言ってたよね?」
確かにその義手はマリア本人が付けたいっと言って付けたものだ。
「そうね。だけどそれはアルフが冒険者になって危険な事をしでかさない為に付けたの」
「ちょ、ちょっと待って。俺が冒険者になりたいって言ったのは一年前だろ?シスターは七年も前から義手を付けてたじゃないか」
アルフの言う通りだ。アルフが一年前に冒険者になりたいと言った時、シスターは一年後までしっかり準備をしてからという事で話し合いが終わった。
計算からすれば、シスターが義手を嵌めたのは七年前、アルフが冒険者になりたいと言ったのは一年前である。時間的に合っていない筈だが、
「私が気付いていないとでも思ったかい?アルフがこの都市を歩く時、冒険者を見て目を輝かせていたことは知っていたよ。その時思ったよ。この子はきっと冒険者になるって。だからアルフが冒険者になって無茶をさせない為にこの義手を付けることにしたんだよ」
マリアは全部見透かしていたのだ。アルフが小さい頃、この都市に来て冒険者を見て顔を輝かせていた事。いつも『英雄アレン物語』を楽しそうに見ていた事。全て知っていた。
「それが本当だったとして、俺はまだシスターに何も返せてない。なのにここを出て行ってもいいかな?」
「当たり前さ。いつまでも親に育てられるようじゃ駄目だよ。子供は巣立つ。それが当然さ。もしも申し訳ないと思っているなら偶に帰って来てくれるだけで私は嬉しいよ」
その言葉が聞けたとき、アルフは少し涙が出そうになっていた。
(......俺は何も返せていないのに)
アルフ自身泣きそうになっていたのだが、唇を噛み必死に我慢する。
いつも自分を大切にしてくれている家族との別れ、自分達が悪さをすればしっかりと怒ってくれた人。
今まで沢山お世話になった人に対する尊敬の念なのか、正座を組み頭を下げる。
「......いままで大変お世話になりました」
アルフはその場で土下座を行った。
しかし、今度は謝罪ではない。
今まで育ててくれた恩を、感謝の念を込めて、精一杯土下座を行った。
そんなアルフの頭をマリアは何も言わず撫でた。まるで今まで頑張ったねっと褒めているのかの様に。
「これからも頑張りなさい」
「......絶対に頑張るから」
アルフの思いは変わらないだろう。
大切な家族を何があっても守る為。それがアルフにとって冒険者になった理由の一つだ。
その決心は変わらない。そんな風に見える目をアルフはしていた。
それから夜まで何事もなく日常が続いた。
(もう言うしかないよな)
ずっとヘレナに言おう、言おうと思っていたのだろうが、アルフは緊張して話せていない様だ。マリアは気を利かせているのか、自分からヘレナに言う事はしなかった。
そしてヘレナが自分の部屋に入った所をアルフは待ち伏せており、二人きりで話そうとヘレナの部屋に入る。
「シス、え?......シスター!アルが夜這いに」
とんでも無い事を言おうとしたヘレナの口をアルフが急いで口を押える。
「来てねえよ!来るならとっくに来てるよ!」
分かったからとヘレナが手でジェスチャーする事で、アルフが口から手を放す。
「それはそれで許さないけど、それでどうしたの?アルが私の部屋に来るなんて初めてじゃない」
「まあ、そうなんだけど......」
アルフは一瞬言わなければいけない事から逃げようとしたが、
「ヘレナ話がある」
アルフは全て話した。
「......そう。シスターにはもう行っていいって言われてるのよね?」
「ああ。ちゃんと言われてる」
「なら良いじゃない。あんたの実力が認められたのよ。なのにここに残ってる必要はないし、ここは私とシスターだけで十分大丈夫だし」
ヘレナは淡々と結論を述べる。
「......そうなんだけど、やっぱりヘレナには言わないといけないからさ」
「全然気にしてないわよ。ただ、お金少ないから少しくれるとありがたいし、偶に帰ってくるんでしょ?」
「ああ。何度かここには戻ってくるよ」
「だったら気にしない。ただ危ない目に遭いそうだったら、冒険者辞めてもいいんだからね?」
「(またこの発言来たな)いや、俺は冒険者は辞めないで頑張るよ」
ヘレナは常日頃、アルフに対して冒険者辞めたら?と口酸っぱく言っている。
「そう。それじゃあちゃんと準備しなさいよ」
「ああ。それじゃ明日な」
アルフはそう言い、自分の部屋に戻る。
(俺はこれから本当にイグナイトに入るのか。大変な日常になりそうだな)
アルフはそんな事を言っておきながら、これからの事を考えてか、顔は笑顔だった。
(俺も英雄アレンみたいに魔物を倒したいな)
英雄アレンは魔物に対し、一騎当千したとも噂されているのだ。
そんな事を考えながらアルフは荷造りを始める。
だが、その一方、
「うええええん!また家族がいなくなる!」
先程まで澄ました顔だったヘレナは現在マリアの胸の中で泣いている。
(この子も中々素直じゃないのよね)
ヘレナの先程の言葉には、一切感情が入っていなかった。
感情論から言えば、行って欲しくなかったのだろう。だが、それは家族で大切なアルフを困らせることになる。それをヘレナはしなかった。
だからこそ、唯一信頼しているマリアの前では感情を発散させる。
「行って欲しくない!ずっとここで皆で暮らせばいいのに!」
それは決して恋愛感情は入っていないのだろう。
家族としての大切にしている愛情。それがヘレナには人一倍デカかったのだろう。
「そうだね。だけど皆ずっと一緒にって訳にはいかないのよ。(今日は大変そうね)」
いつも以上に感情を出すヘレナに、シスターは今日は寝れないなと思うしかなかった。
翌日。
イグナイトの団長であるマルクが来るのは明日。その間、アルフは常日頃行っているゴブリン狩りに行く。
これは冒険者支援ギルドにあるクエストで日常クエストとして発行されている。
都市を出てすぐ森がある。そこには魔物がいるのだ。
大抵は都市を出る際にいる門番の人達が倒すのだが、門番はそこを離れすぎる訳にはいかない。
なので、冒険者に頼ることにしているのだ。だが、ゴブリンは一番魔物の中で弱い存在だと言われている。なので、一回そのクエストを完了しても三銅にしかならない。
「お疲れ様です」
アルフは門番に挨拶をして、森に入る。
(ここら辺は門番の人が倒しているからもう少し奥に行かないといけないんだよな。......どうして俺はこんな事に詳しいんだろ)
アルフは一カ月このクエストを受けている為、大体ゴブリンがいる所が分かるのだ。
(いた)
そこには五体のゴブリンがいる。
クエストでは三体だが、一カ月このクエストを受けたアルフにしてはまだ許容範囲であるようで、逃げるような真似はしない。
アルフは片手剣を抜き、森の茂みに隠れる。
「グルルルル」
この音はアルフのお腹の音ではない。
アルフは額に冷や汗を流しながら背後を振り返ると、そこにはウルフがいた。
ウルフ
四足歩行であり、脚についている爪は一般人であれば大怪我に繋がってもおかしくはない程の怖さを持ち、更にウルフの口に付いている牙に噛まれれば痛いで済まされない。
「......見逃してくれませんかね?」
アルフは魔物だが、一応交渉をするも、
「ガウ!」
交渉決裂の様で、ウルフはアルフに飛び掛かる。
アルフが運がいいのは既に剣を抜いていた事だろう。
ウルフが爪で攻撃するが、それを難なく片手剣で防ぐ。
(あれ?俺いつもより速く動けていないか?
本当ならアルフではウルフに対して、苦戦するか、敗北する前に逃げるのか、盗賊と同じようにこずるい手で勝つかのどちらかであった。だが、今は自分の力で対等にウルフと戦う事が出来ているのだ。
戦える理由として、【最強願望】の能力である。【最強願望】には、自分より強い相手と戦う場合、自分のステータスを大幅上昇するのだ。
本人は気付いていないが、その能力が発動したのだ。
ウルフの突撃により、アルフの存在がバレてしまい、現在ではゴブリン五体にウルフが一体という普段のアルフでは決して勝てない勝負だ。
(......どうする。逃げるか?.....いや。駄目だ。迷宮でもないこんな所で逃げるようなら俺は一生アリスさんに追いつくことも、惹かれる存在にもなれない!)
普段のアルフなら真っ先に逃げているだろう。だが、恋に落ちて変わったのだろう。
恋は人を変える。まさにそれが実現されている。
アルフはまず一番危険であるウルフを見据える。
ウルフが突進してきた所を避け、片手剣で一閃し、ウルフは消滅する。
(......あれ?いつもより速く動けてるし、妙に体が軽いな。多分今日は絶好調なのかもしれない)
自分に発現されている能力を知らないアルフからしたらそう思うのも仕方ないだろう。
後はゴブリン五体。
ゴブリンは集団で襲ってくる傾向がある事をアルフは知っている為、自分から突撃する。
先手必勝である。
ゴブリンは棍棒を武器にしている。棍棒と片手剣が重なり合う。
アルフはゴブリンに力負けせず、逆に勝ち、ゴブリンのバランスを崩す。
その隙を逃すわけも無く、ゴブリンは一閃される。
「よし!」
アルフ自身、今の動きは自分が想像していた通りの中でも最高の動きだったのだろう。戦闘中でありながら、思わずガッツポーズをしてしまう。
だが、油断はしていない。
アルフのこれからの行動は滑らかかつ、迅速であった。
仲間がやられ、動揺しているゴブリンを更に倒す。
それを連続でこなし、最後の一匹は動揺しながらも棍棒を構える所で、不意打ちで片手剣を投擲する。
突然片手剣を投げられたことで、ゴブリンは避けれず、消滅する。
(今日絶好調だったな)
アルフはそう思いながら魔物から落ちた魔石を拾う。魔物は倒されれば消滅し、魔石だけが残る。それを冒険者支援ギルドにある、魔石交換所で換金し、お金に変換する事が出来るのだ。
魔石を拾い、冒険者支援ギルドに戻り、ケイシーにクエスト完了の印を貰い、三銅を貰い、魔石を換金する。
そこからはケイシーとアルフは少し雑談して帰るのが日常なのだが、
「何だか、今日は絶好調だったんですよね」
「へえ。それなら良かったね」
そんな雑談をしていたアルフだが、そろそろ時間だと思ったのか、ケイシーに別れを告げて帰ろうとした時、
「ア、アルフ君。今日この後、夜なんだけど予定空いてる!?」
ケイシーの声は最後の方で少し上擦ってしまった。それを自分でも分かっているのか、顔が朱色に染まっている。
そんなケイシーの気持ちに気付かず、アルフは口を開けて放心している。
(......夜に誘われるって事は?)
そういう事なのだろうか?
アルフは家のの玄関前で先程からウロウロしながら家族に対しどう話すか考えている。
それを先程から十分か、それ以上ずっと考えている。傍から見れば不審者と思われてもおかしくはない。
「あれ?アル、そこで何してるの?」
そこに現れたのはアルフと同じ孤児院で現在一つ年上であり、茶髪髪に容姿端麗なヘレナだった。はたから見れば、お近づきになりたい人であるが、その性格には中々に厳しいものである。
突然の家族の登場に少しアルフは困惑しながらも返事を返す。
「......お前こそ何してるんだ?」
「買い出しに決まってるじゃない。そういえば今日遅くない?何かあったの?」
「う、うん。まあ、後で話すよ」
アルフが少し動揺しながら話す事で、ヘレナは少し疑問に思ったように首を傾げるが、後で話すという事で気にせず買い出しに向かった。
(先にシスターに話すしかないよな。ヘレナが買い出しに行ったって事はもう店は殆ど空いている状態だろうし)
アルフは一度深呼吸をし、家に入る。
「お帰りなさい。アルフ」
そこで出迎える女性は少し老けているが、未だ美貌は衰えていなく、黒髪の女性マリアだ。
「ただいま、シスター。ちょっと話があるんだけど大丈夫?」
「ええ。もう人も来ないだろうし大丈夫よ」
シスターもアルフの真剣な目つきで大事な事だと分かったのか、もう店は閉めて、二人で居間に座る。
それからアルフはアリスに惚れたこと以外は全て話した。
「.....そうかい。それでアルフはどうしたいんだい?」
「俺は......入りたい」
アルフは意を決して正直に話した。
「それなら良いじゃないかい。まさかアルフがそこまで成長して認められるとはね。行っておいで」
シスターは快くアルフが巣立つのを祝うが、アルフの表情は晴れていない。
「......だけど俺はまだシスターに何も恩返し出来てない」
それがアルフにとって唯一ここを出て行く事の足枷となっている事だった。
アルフはシスターの右腕を見る。そこには義手が嵌められており、それを見るアルフの顔は、渋い顔になる。
「.....まだ気にしてたのかい。まあ、気にしないってことがアルフには出来ないんでしょうけどね」
「当たり前だろ?......そんな目に遭ったのは俺のせいだ」
その義手はどうやってなったのかそれは本人しか知らない。
「私は正直に言って義手を嵌めなくても良かったのよ」
「え?けどそれはシスターが付けたいって言ってたよね?」
確かにその義手はマリア本人が付けたいっと言って付けたものだ。
「そうね。だけどそれはアルフが冒険者になって危険な事をしでかさない為に付けたの」
「ちょ、ちょっと待って。俺が冒険者になりたいって言ったのは一年前だろ?シスターは七年も前から義手を付けてたじゃないか」
アルフの言う通りだ。アルフが一年前に冒険者になりたいと言った時、シスターは一年後までしっかり準備をしてからという事で話し合いが終わった。
計算からすれば、シスターが義手を嵌めたのは七年前、アルフが冒険者になりたいと言ったのは一年前である。時間的に合っていない筈だが、
「私が気付いていないとでも思ったかい?アルフがこの都市を歩く時、冒険者を見て目を輝かせていたことは知っていたよ。その時思ったよ。この子はきっと冒険者になるって。だからアルフが冒険者になって無茶をさせない為にこの義手を付けることにしたんだよ」
マリアは全部見透かしていたのだ。アルフが小さい頃、この都市に来て冒険者を見て顔を輝かせていた事。いつも『英雄アレン物語』を楽しそうに見ていた事。全て知っていた。
「それが本当だったとして、俺はまだシスターに何も返せてない。なのにここを出て行ってもいいかな?」
「当たり前さ。いつまでも親に育てられるようじゃ駄目だよ。子供は巣立つ。それが当然さ。もしも申し訳ないと思っているなら偶に帰って来てくれるだけで私は嬉しいよ」
その言葉が聞けたとき、アルフは少し涙が出そうになっていた。
(......俺は何も返せていないのに)
アルフ自身泣きそうになっていたのだが、唇を噛み必死に我慢する。
いつも自分を大切にしてくれている家族との別れ、自分達が悪さをすればしっかりと怒ってくれた人。
今まで沢山お世話になった人に対する尊敬の念なのか、正座を組み頭を下げる。
「......いままで大変お世話になりました」
アルフはその場で土下座を行った。
しかし、今度は謝罪ではない。
今まで育ててくれた恩を、感謝の念を込めて、精一杯土下座を行った。
そんなアルフの頭をマリアは何も言わず撫でた。まるで今まで頑張ったねっと褒めているのかの様に。
「これからも頑張りなさい」
「......絶対に頑張るから」
アルフの思いは変わらないだろう。
大切な家族を何があっても守る為。それがアルフにとって冒険者になった理由の一つだ。
その決心は変わらない。そんな風に見える目をアルフはしていた。
それから夜まで何事もなく日常が続いた。
(もう言うしかないよな)
ずっとヘレナに言おう、言おうと思っていたのだろうが、アルフは緊張して話せていない様だ。マリアは気を利かせているのか、自分からヘレナに言う事はしなかった。
そしてヘレナが自分の部屋に入った所をアルフは待ち伏せており、二人きりで話そうとヘレナの部屋に入る。
「シス、え?......シスター!アルが夜這いに」
とんでも無い事を言おうとしたヘレナの口をアルフが急いで口を押える。
「来てねえよ!来るならとっくに来てるよ!」
分かったからとヘレナが手でジェスチャーする事で、アルフが口から手を放す。
「それはそれで許さないけど、それでどうしたの?アルが私の部屋に来るなんて初めてじゃない」
「まあ、そうなんだけど......」
アルフは一瞬言わなければいけない事から逃げようとしたが、
「ヘレナ話がある」
アルフは全て話した。
「......そう。シスターにはもう行っていいって言われてるのよね?」
「ああ。ちゃんと言われてる」
「なら良いじゃない。あんたの実力が認められたのよ。なのにここに残ってる必要はないし、ここは私とシスターだけで十分大丈夫だし」
ヘレナは淡々と結論を述べる。
「......そうなんだけど、やっぱりヘレナには言わないといけないからさ」
「全然気にしてないわよ。ただ、お金少ないから少しくれるとありがたいし、偶に帰ってくるんでしょ?」
「ああ。何度かここには戻ってくるよ」
「だったら気にしない。ただ危ない目に遭いそうだったら、冒険者辞めてもいいんだからね?」
「(またこの発言来たな)いや、俺は冒険者は辞めないで頑張るよ」
ヘレナは常日頃、アルフに対して冒険者辞めたら?と口酸っぱく言っている。
「そう。それじゃあちゃんと準備しなさいよ」
「ああ。それじゃ明日な」
アルフはそう言い、自分の部屋に戻る。
(俺はこれから本当にイグナイトに入るのか。大変な日常になりそうだな)
アルフはそんな事を言っておきながら、これからの事を考えてか、顔は笑顔だった。
(俺も英雄アレンみたいに魔物を倒したいな)
英雄アレンは魔物に対し、一騎当千したとも噂されているのだ。
そんな事を考えながらアルフは荷造りを始める。
だが、その一方、
「うええええん!また家族がいなくなる!」
先程まで澄ました顔だったヘレナは現在マリアの胸の中で泣いている。
(この子も中々素直じゃないのよね)
ヘレナの先程の言葉には、一切感情が入っていなかった。
感情論から言えば、行って欲しくなかったのだろう。だが、それは家族で大切なアルフを困らせることになる。それをヘレナはしなかった。
だからこそ、唯一信頼しているマリアの前では感情を発散させる。
「行って欲しくない!ずっとここで皆で暮らせばいいのに!」
それは決して恋愛感情は入っていないのだろう。
家族としての大切にしている愛情。それがヘレナには人一倍デカかったのだろう。
「そうだね。だけど皆ずっと一緒にって訳にはいかないのよ。(今日は大変そうね)」
いつも以上に感情を出すヘレナに、シスターは今日は寝れないなと思うしかなかった。
翌日。
イグナイトの団長であるマルクが来るのは明日。その間、アルフは常日頃行っているゴブリン狩りに行く。
これは冒険者支援ギルドにあるクエストで日常クエストとして発行されている。
都市を出てすぐ森がある。そこには魔物がいるのだ。
大抵は都市を出る際にいる門番の人達が倒すのだが、門番はそこを離れすぎる訳にはいかない。
なので、冒険者に頼ることにしているのだ。だが、ゴブリンは一番魔物の中で弱い存在だと言われている。なので、一回そのクエストを完了しても三銅にしかならない。
「お疲れ様です」
アルフは門番に挨拶をして、森に入る。
(ここら辺は門番の人が倒しているからもう少し奥に行かないといけないんだよな。......どうして俺はこんな事に詳しいんだろ)
アルフは一カ月このクエストを受けている為、大体ゴブリンがいる所が分かるのだ。
(いた)
そこには五体のゴブリンがいる。
クエストでは三体だが、一カ月このクエストを受けたアルフにしてはまだ許容範囲であるようで、逃げるような真似はしない。
アルフは片手剣を抜き、森の茂みに隠れる。
「グルルルル」
この音はアルフのお腹の音ではない。
アルフは額に冷や汗を流しながら背後を振り返ると、そこにはウルフがいた。
ウルフ
四足歩行であり、脚についている爪は一般人であれば大怪我に繋がってもおかしくはない程の怖さを持ち、更にウルフの口に付いている牙に噛まれれば痛いで済まされない。
「......見逃してくれませんかね?」
アルフは魔物だが、一応交渉をするも、
「ガウ!」
交渉決裂の様で、ウルフはアルフに飛び掛かる。
アルフが運がいいのは既に剣を抜いていた事だろう。
ウルフが爪で攻撃するが、それを難なく片手剣で防ぐ。
(あれ?俺いつもより速く動けていないか?
本当ならアルフではウルフに対して、苦戦するか、敗北する前に逃げるのか、盗賊と同じようにこずるい手で勝つかのどちらかであった。だが、今は自分の力で対等にウルフと戦う事が出来ているのだ。
戦える理由として、【最強願望】の能力である。【最強願望】には、自分より強い相手と戦う場合、自分のステータスを大幅上昇するのだ。
本人は気付いていないが、その能力が発動したのだ。
ウルフの突撃により、アルフの存在がバレてしまい、現在ではゴブリン五体にウルフが一体という普段のアルフでは決して勝てない勝負だ。
(......どうする。逃げるか?.....いや。駄目だ。迷宮でもないこんな所で逃げるようなら俺は一生アリスさんに追いつくことも、惹かれる存在にもなれない!)
普段のアルフなら真っ先に逃げているだろう。だが、恋に落ちて変わったのだろう。
恋は人を変える。まさにそれが実現されている。
アルフはまず一番危険であるウルフを見据える。
ウルフが突進してきた所を避け、片手剣で一閃し、ウルフは消滅する。
(......あれ?いつもより速く動けてるし、妙に体が軽いな。多分今日は絶好調なのかもしれない)
自分に発現されている能力を知らないアルフからしたらそう思うのも仕方ないだろう。
後はゴブリン五体。
ゴブリンは集団で襲ってくる傾向がある事をアルフは知っている為、自分から突撃する。
先手必勝である。
ゴブリンは棍棒を武器にしている。棍棒と片手剣が重なり合う。
アルフはゴブリンに力負けせず、逆に勝ち、ゴブリンのバランスを崩す。
その隙を逃すわけも無く、ゴブリンは一閃される。
「よし!」
アルフ自身、今の動きは自分が想像していた通りの中でも最高の動きだったのだろう。戦闘中でありながら、思わずガッツポーズをしてしまう。
だが、油断はしていない。
アルフのこれからの行動は滑らかかつ、迅速であった。
仲間がやられ、動揺しているゴブリンを更に倒す。
それを連続でこなし、最後の一匹は動揺しながらも棍棒を構える所で、不意打ちで片手剣を投擲する。
突然片手剣を投げられたことで、ゴブリンは避けれず、消滅する。
(今日絶好調だったな)
アルフはそう思いながら魔物から落ちた魔石を拾う。魔物は倒されれば消滅し、魔石だけが残る。それを冒険者支援ギルドにある、魔石交換所で換金し、お金に変換する事が出来るのだ。
魔石を拾い、冒険者支援ギルドに戻り、ケイシーにクエスト完了の印を貰い、三銅を貰い、魔石を換金する。
そこからはケイシーとアルフは少し雑談して帰るのが日常なのだが、
「何だか、今日は絶好調だったんですよね」
「へえ。それなら良かったね」
そんな雑談をしていたアルフだが、そろそろ時間だと思ったのか、ケイシーに別れを告げて帰ろうとした時、
「ア、アルフ君。今日この後、夜なんだけど予定空いてる!?」
ケイシーの声は最後の方で少し上擦ってしまった。それを自分でも分かっているのか、顔が朱色に染まっている。
そんなケイシーの気持ちに気付かず、アルフは口を開けて放心している。
(......夜に誘われるって事は?)
そういう事なのだろうか?
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