幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(8)

「なんでそこで笑うのよ!」
「いや、ごめん。どうりで、一筋縄じゃいかないわけだ」
「……はい?」
「なら、もっと早くに伝えておけばよかったってことか。そしたら……」
 秋斗くんの指先が、私の頬にふれてくる。
 驚いた私は、目を見開きながら後方へ飛びのいてしまった。気まずくなりそうな雰囲気に、私はあわてて両手を胸の前で左右にふる。
「ど、どっちにしろ、結婚はまだ無理だから!」
「どうして?」
「だって私、この世界の法律的にまだ15歳――あ」
 言いかけて、今さら気づく。
 そうだ、今日って確か――
「違うよ。今日がなんの日か、自分でも忘れちゃったの? フフッ、美結さんらしいね。だから、この日を選んで待っていたのに」
 藍色のやわらかな眼差しが、私にそそがれてくる。
 極上のほほえみごとそれを受けとめた私は、そのままカチンとかたまってしまう。
「お誕生日おめでとう、美結さん」
「あ、ありがと……」
 お礼をのどから懸命にしぼりだし、つかまっていた視線を必死にひきはがそうとする。
「そういうわけだから、美結さんをおれにちょうだい?」
 投げられた超・直球発言に、私ははじかれたように再び彼へと顔をもどした。
「は、はい!? そ、それじゃ、立場が反対でしょうが!」
「そうなの? おれの六歳の誕生日のとき、おじいちゃんにもらったお菓子を美結さんにプレゼントした覚えがあるんだけど」
「! そ、そうだったかしら? 私は記憶にないし、たぶん気のせいよ、気のせい」
 頬に手をあてながら、私は早口でまくしたてる。
 な、なんで覚えているのよ! あれはちょっとした出来心、そう出来心だったの……!
 フフッ、ともらした秋斗くんが「じゃあ」と懐をさぐりはじめた。
「おれから美結さんにプレゼントしたらいいんだよね? 今、手持ちが一つしかないから、もらってくれるとうれしいんだけど」
「もらうって、なにを? え……っ」
 差し出されたものを目にした私は、驚愕のあまりその場で硬直した。
 小さなかわいた音をたてて、箱があけられる。中には、予想どおりのあれ。
「そ、そんなの受け取れるわけないでしょうが! そもそも、それはきみが――」
「もらって、くれないの?」
「そ、その手にはのらないんだから!」
 私はかばんを突きつけて、ブンブンと首をふった。
 そうよ、乗せられちゃ駄目。そのせいで、あのときは受け取るハメになっちゃったんだから。今回は、そう簡単に流されるもんですか!
 「そっか」と、秋斗くんは中身を取り出して箱を片づける。
「ああ、そうだ。一つ、忘れていたんだけど」
「な、なに?」
 立てられた人差し指と笑顔に、私の脳内警鐘が鳴り響く。
 こ、この表情は、見た目さわやかで人畜無害そうな感じだけど、この人の場合なにかたくらんでいる系のやつだ……! しかも、決まって性質が悪いやつ。
 私はあわてて、左手をかばんで隠した。
 藍色の瞳が少しだけ細められて、空をさしていた人差し指が私のかばんにむけられた。
「この前の約束、覚えてる?」
「や、約束?」
「そう。ほら、一緒にダンスして、そのときのペナルティで、美結さんの手を自由に使わせてもらうってやつ。あれって確か、一回分残っていたよね?」
「! い、いつの話をしているのよ! そんなの、もうとっくに有効期限切れでしょ!?」
「え、期限なんてつけた覚えはないよ? まさか美結さん、おれとの約束やぶるの?」
「なっ」
「美結さんの……、嘘つき。どろぼうの始まりだって、教えてくれたのに」
「!!」
 ドキッとした私は、思わずうしろにさがってかばんを横にずらしてしまう。それを狙っていたのか、空いた左手がすぐさま秋斗くんにとらわれた。
「あ……!」
 ギュ、とにぎられて、引っこめるに引っこめられなくなる。
 な、なんで今さら、あれを持ち出してくるの?
「前回、中途半端な形で渡してしまったから、おれの手でちゃんとつけてあげたかったんだ。だから一度、返してもらった」
「え、そうだったの? ……てっきり、私のことが嫌になったんだとばかり思ってた」
 私の答えに、秋斗くんがいぶかしげに眉を寄せた。
「おれが、美結さんを嫌になる? そんなの、絶対にありえない」
「ぜ、絶対はさすがに言いすぎでしょ」
「そう? 絶対が信じられないなら、おれのすべてを差し出してもいいけど。美結さんに嫌われないためなら、この世界を壊してしまったっていいのに」
「はあ!?」
「なんてね。前にも似たようなことを言った気がするけど、それくらいきみに対しては本気ってこと」
 冗談ぽい口調だけど、藍色の目はそうは物語っていない。
 たまにのぞかせる、怖くなりそうなほど真っすぐで純粋な想い。10年をすっとばした彼だからこその感情、なのかな? それを受けとめるのが、私でいいんだろうか。なんて考えているうちに、左手に今までになかった違和感を覚えて、私はハッとそちらに意識をもどした。

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