幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(4)

 イレイズさんに頭をさげてから、私は入口近くの壁に歩み寄った。
 腕を組んで、いかにも眠ってますポーズをとっているサリューにも、一応声をかける。
「サリューも、ありがとう」
「……礼なんていらねえよ。とっとと帰れ、昼寝の邪魔だ」
 ぶっきらぼうな返事に、私はそういえばと小首をかしげた。
「昼寝ばかりしているみたいだけど、ちゃんと仕事はしているの?」
「おまえには関係ないだろうが。ほっとけ、アホ女」
 相変わらずの、そっけない態度。
 嘆息する私の肩にポンと手が置かれて、隣を見ると微笑した秋斗くん。彼の指先が、サリューにむけられた。
「こう見えて、サリューって案外仕事熱心なんだよ」
「アキ……、てめえっ」
 片目をあけたサリューが、秋斗くんを鋭くにらみつける。お構いなしに笑う秋斗くんに、私は「そうなの?」と問いかけた。
「ちょっと意外だけど、そっか。私がティグローへ行ったときも、なんだかんだでついてきてくれたし。サリューって、根はいいひとっぽいものね」
「うん。口では、いろいろ言ってくるけどね」
「そうそう! でも、本当は――」
「さっきからごちゃごちゃうっせえよ、おまえら! おまえらに、オレのなにがわかるっていうんだよ!? 用が済んだなら、さっさとここから出ていきやがれ!!」
 背にしていた壁を蹴って私たちとの距離をつめたサリューが、威嚇するように大声をはりあげてくる。
 どなられた私と秋斗くんは顔を見合わせると、お互いにプッと吹きだしながら執務室を出た。
 それからお城の出入り口の方へとつながっている廊下で、あからさまにあやしいど真ん中に置かれた雑誌があったんだけど。
 秋斗くんがひろいあげた瞬間、どこからかパシャっとカメラのシャッター音とともに桃色の風が吹き抜けていった。えっと、あの髪はおそらくエのつく彼女……だよね?
 カメラなんてこの世界にもあったんだと感心していたら、秋斗くんの手にあった『月間エレナイ通信』にぎょっとなってしまう。
 しかも、暫定版。
 見出しの『炎の騎士様 悪漢にからまれていた か弱い女性たちを華麗に救う!? 彼女たちに突撃インタビュー!』と、助けてもらった女性たちだろうか、二人のイラストが添えられていた。肩くらいの黒髪と桃色の髪――って、めちゃくちゃ見覚えのあるうしろ姿じゃない!
 内容もどことなく覚えているし、極めつけは『風の騎士アキト様 暫定版から完全監修 独占! 見開きページに 表紙になった プライベートショット大掲載!』って、暫定版? 監修? 表紙にプライベートショット? ま、まさかさっきの写真って……あ、あれ?
 もしかして、これを作っているのって……!
 「だれの落とし物だろう?」と不思議がる秋斗くんに、「だ、だれだろうねえ? 私の知らないひとかなあ?」と明後日の方をむいて答えながら、関わらない方がいいと判断した私は、そそくさとその場を立ち去ることにした。
 そして私は、秋斗くんに連れられてクレスさんの家にやってきた。
 だけど家の中にはだれもいなくて、最初に入った部屋のテーブルに二つのカップと一枚のメモ紙が置いてあることに、秋斗くんが気づいた。
 二つのカップには濃い緑の液体がいれてあって、ほんのりと湯気を残していた。メモ紙の方には、『おかえりなさい、ミユミユ。それに、アッキー。無事に二人で戻ってきてくれて、本当によかった。少々、急用ができてしまい、入れ違いになってしまいますが、お茶でも飲んでゆっくりしていってくださいね』ときれいな文字で書かれてあった。
「クレッシー、留守みたいだね」
「うん。残念」
 私は、小さくため息をはいた。
 お礼も言いたかったし、ききたいこともあったんだけどな。
 どうしてあの時、ルーを私に預けたんだろう? 応援したいからって、クレスさんから預けられたあの子。特に役に立ったわけでもないけど、その正体は魔王ルールヴィスだった。御使いの私の力(そんなものがあるとは、今でも思えないけど)で、ルールヴィスは完全復活するって言ってたし……
 そういえば、クレスさんとルーってどういう関係なんだろう? てっきりご主人様とペットかと思っていたのに、ルーの口ぶりからそうではなさそうだった。
 前にも感じたけれど、クレスさんっていったい何者?
 いろいろ考えながらなんとなくメモ紙を裏返してみると、そこにもきれいな文字が並んでいた。
 『わたしはただの、ここに住んでいる謎な人物ですよ』。
「だから、自分で謎って言うなし!」
「フフッ、そうだね」
 私の手元を一緒に見ていたらしい秋斗くんが、隣でおかしそうに笑った。
 秋斗くんが信頼を寄せているみたいだし、そこまで深く疑わなくても大丈夫かな?
 私が小さく嘆息すると、「美結さん?」と心配そうにのぞきこまれて、「なんでもない」と首をふると、「なら、よかった」と極上の微笑が返され、あやうく固まってしまうところだった。危ない。
 目的の人物がいないのなら、ここに長々と居座る理由もないし。
 私と秋斗くんは、まだほんのりと温かいカップの中身をのんびり飲み干して、その間にここで過ごしていたときの秋斗くんの話を少しだけきかせてもらった。
 楽しそうな彼の様子に、私もいつしか笑ってしまって。こんな風に一緒に過ごしてくれたひとが魔王の仲間とか、悪いひとなわけがないよね?
 お礼を一言さっきのメモ紙に書きこんでから、私たちはクレスさんの家をあとにした。

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