幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(2)

「よお、お二人さん。昨夜は、楽しめたか?」
「なっ……!」
 前に一度、一人で訪れたことのあるエレメンタルナイツの団長さんの執務室。そこへ入るなりニヤニヤしたサリューにそう声をかけられて、私は目を見開いた。
 隣の秋斗くんが、ニコとほほえむ。
「夜はすぐに寝てしまったけど、昼間はいろいろと楽しかったよ」
「はあっ!?」
 さわやかにサラリと答える秋斗くんに、私は思わずバッとそちらに首を動かす。
「へえ、それはそれは」
「べ、別になにもしてないですから! 新居とかいうホラーなお城で、大変な目にあっただけですから!」
「大変な目か。ククッ、そりゃご愁傷様なことで」
「サリュー!」
 私が非難の声をあげると、サリューは楽しそうに笑いながら壁際の方へ歩いて行ってしまった。入れ替わりで、イレイズさんがこちらにやってくる。
「おはよう、ミユちゃんにアキト。無事に帰ってきてくれて、すごくうれしいわ。サリューからいろいろときかせてもらったけれど、あなたたちの話もきかせてくれるかしら?」
「は、はい」
「もちろん」
 それから私と秋斗くんは、それぞれの見たものやきいたもの、覚えている範囲ですべてをイレイズさんに伝えた。
 私の知らなかった、当日の秋斗くんの行動。
 私が出て行ったあとひたすら眠り続けていた彼は、翌日に目を覚まして、クレスさんから一通りの話をきき終えると、すぐにティグローへ出発したらしい。その際に相当無茶をして(彼の話をきいているとそんな気がしてならない)短時間でティグローに到着。そして、私の知っている内容につながる。
 ぶっ倒れたのも、当然だったんじゃないかな。まったく、もう……
 あ、とあることが思い出されて、私はイレイズさんに顔をむけた。
「そういえば、セディスくんとティグローの町長はどうなったんですか?」
 ティグローでのゴタゴタの元凶の名前を、私は口にした。
 サリューが一緒に連れ帰ったはずだけど、どうなったんだろう? セディスくんなんて、エレメンタルナイツの一人みたいだし、やっぱり重い罰を受けて――
「町長は今、この城で詳しい聴取をしているわ。素直にいろいろと話してくれているみたいだから、ティグローの件はすぐに解決できそうよ。セディスの方は、今頃」
 イレイズさんが説明してくれる前に、コンコンと扉をノックする音がひびいてくる。
「――お茶をお持ちしました系だよ、じゃなくて、系です!」
 あれ? この、声は……
 バン、と荒々しくお盆が置かれて、そこに乗っていたカップたちが勢いよくはねあがった。持ってきた当人――召使用の服なのか、こざっぱりとした格好にベレー帽を身に着けた男の子から、ネチネチネチとした小言のようなものがきこえてくる。
「ありえないありえない。そもそもボクの計画にこんな展開なんて一つもなかった系だし! ティグローの町長をちょーっとそそのかして邪教のやつらもひっくるめたおもしろい感じに仕立てあげようとしただけでなんでこんなことになるわけ!? もともとボクに利益があった系でもないし邪教のやつらも討伐案件だったし? 一石二鳥であと片づけもしてやろうとしたら町長のやつが変な情報をふきこまれてあのアタワル女を巻きこんだせいですべてすべて台無しにしてくれたし!? 悪いのは全部全部あのアタワル女じゃん! なのになんでこのボクがこんなこと……!」
 こっちには気づいていないようだけど、あの独特な口癖といい、やっぱりセディスくんだ。中身は相変わらずっぽいなあ、と私は苦笑いする。
「ごめんなさいね、ミユちゃん」
「え?」
 イレイズさん?
 やわらかく腰を折り曲げられて、私はあたふたしてしまう。
「謝って許されるようなことではないかもしれないけれど、本当にごめんなさい。エレメンタルナイツの処遇は、常に団長の意見が最優先なの。今回のセディスに対する団長の命令は、『謹慎ついでに奉仕活動』。命をねらわれたミユちゃんからすれば、随分と処分が甘いって思うでしょうね」
「ボクは別に、悪いことなんてしていない系なんだけど? 命をねらったって、ただのその場限りの冗談じゃないか。それっぽく、雰囲気出してあげようとしただけ。なのに、こんな意味不明な肉体労働をしなきゃいけないとか、ほんと頭かたすぎ系だよね」
 肩をすくめながら、ペラペラとセディスくんがしゃべってくる。
 ただの冗談って言っているわりには、あのときのセディスくんの目はかなり本気だったと思うんだけど……しかも目力すごいから、本気度が危険ゾーンを越えてた。
 まあ、エレナイのことはエレナイに任せた方がいいよね、きっと。
「あ、えっと、団長さんがそう決めたのなら、私は別に……」
「というか、そこの頭の悪そう系なアタワル!」
 私のセリフを途中でさえぎるように、鋭いハスキーボイスが飛ぶ。
 だれのこと? とキョロキョロ見回す私に、セディスくんがビシッと指さしてきた。
 え、私? 私も自分を指すと、不機嫌そうにうなずかれる。
「あ、あたわる?」
「あんた以外にだれがいるんだよ、アタワル女。ほんと、理解も反応もおそいし、なんでこのボクがあんたみたいなアタワル女とこんな風に会話をしなきゃいけないのか、意味不明すぎ。まあ、ここで会ったからには、この前のお礼をじっくりたっぷりさせてもらう系だけど? いいよね? 覚悟しなよ!」
 叫びながら、ツカツカツカと近寄ってくるセディスくん。
 突然のことで「えっええっ!?」と驚愕するしかない私の前に、スッと人影が入ってきた。
「そんなことは、おれがさせない」
「でたよ、むかつき系新人。またボクとやりあう系?」
「いくら先輩でも、美結さんに危害を加えるっていうなら――」
「へえ。どうする系だって? やれるもんなら、やってみなよ。あんたにも、この前の借りは残っているんだ、ちょうどいいや」

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