幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(1)『幼なじみ』→『???』

「結婚してください」
 家を出て、いつものように高校へと歩いていく途中の通学路。ゆるやかな坂道となっているその場所の、ちょうど中間地点あたりでひびいてきたその言葉に、私は目を何度もまたたかせながらふりむいた。
 そこに立っていたのは、白い軍服っぽい服装に緑色のネクタイを身につけた男のひと。
 私より身長が高くて、見上げる位置にある顔。サラサラな茶色の短髪と、優しそうな澄んだ藍色の瞳。生まれて初めて――じゃない、もう何度目だろう実感してしまう。世の中にはこんなに整いすぎるほど整った顔立ちの人間がいるものなんだって。結構、好み……です、ハイ。
 久しぶりに会った彼に、私はふうと息を吐いた。


 6.『幼なじみ』→『???』


「美結さん、そろそろあっちの世界に帰ろうか」
「へ?」
 にぎったフォークを緑の野菜に刺した状態で、私は動きをとめた。
 テーブルをはさんだむかい側に座った秋斗くんが、手にしていたスプーンを横に置く。
「早く帰りたがっていたでしょ? 目的もはたしたし、おれにはここにとどめておく理由がなくなっちゃったから」
 私を見ていた藍色の瞳が、徐々にさげられていく。
 パク、と私はフォークに刺したままだった緑の野菜を、口に運んだ。
 もぐもぐ、ごくん。この苦みと甘みが絶妙に混じりあった味わい、おいしー。
 フォークを次のターゲットにうつしながら、私はポツリとつぶやいた。
「理由なんて、別にもういいけど……」
「え?」
「な、なんでもない。まあ、そうね。そろそろ、あんこの味が恋しくなってきたし、あっちの世界で私がいきなりいなくなって、ニュースで一躍有名人とか警察出動とか大事になっていたら困るものね」
 のんきにそうは言ってみたものの、本当にそうなっていたらどうしよう?
 ゴクン、とまろやかな食感がのどを通り過ぎていって、私の頬がかすかにゆるむ。
 朝から、目にもあざやかなカラフルグラタン。いろいろな具材が、見ても食べても楽しめるなんて、一石二鳥すぎる。
 それを今、秋斗くんの部屋のテーブルで、頂いちゃっているわけなんだけど。
 「ああ」と、秋斗くんがフォークをつかんだ。
「その辺は気にしなくてもいいよ。こっちの世界に来たときとそんなに時間が経っていないあたりに、道をつくるから」
「そんなことできるの?」
 さすが、時空に選ばれしもの。
 完璧超人の名は、伊達じゃない。
「うん。以前に道をつなげたところより過去には無理だし、同じあたりにもつくれない。その辺は、あっちの世界とこっちの世界をつなぐ時空のゆがみにもよるんだけど。今は、安定しているから」
「じ、時空のゆがみ? 安定?」
「つまり、大丈夫ってこと」
 ニコとほほえまれて、私は「そっか」と安堵の息をはいた。
「……そうじゃないと、おれも困るから」
「困る? なにが?」
「いや、なんでもないよ」
 ふーん? なにか隠していそうな気はするけど、時空の話をされても私にはちんぷんかんぷん。
 まあ、いいや。
 フォークを置いてスプーンに変えながら、私は「ねえ」と他の話をふることにした。
「――秋斗くんは、どうするの?」
「おれは、こっちの世界に戻ってくるつもり。あっちの世界にはもう、おれの居場所はないから」
「そっか」
「うん」
 私の家の二軒隣にあったはずの、彼の自宅。
 『10年』の月日と一緒に、彼が手放したものの一つ。存在自体が消えていたから、あれも時空うんぬんの力を使ったんだろうな。
 それをきくと、便利なような、ちょっと怖いような――
「食べ終わったら、みんなのところに行こうか。イレイズがきみに会いたがっていたし、サリューが先に戻ってきて話してくれているとは思うけど、ティグローでのことも報告しないと。帰るのはそれからになるけど、いいかな?」
 そういえば昨日、元・魔王の城から帰ってきて、たまりにたまった疲労におされるように寝てしまったせいで、ティグローの報告もまともにしていないんだった。
「う、うん。わかった」
 うなずいて、私は黄色のマカロニみたいなものにフォークをさした。

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