幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(14)

 指さされた人物の時間が、一瞬だけど停止する。
 二度の、まばたき。
「……え?」
「だから、きみに奪われたの。私の……、ファーストキス」
 もう一度、今度は身体もむけて繰り返すと、目の前の人物がイケメンらしからぬ呆けた表情を浮かべてから、前髪をかきあげ、ゆっくりと首を左右にふった。
「……ごめん。意味が、よく……わからない」
「何度も言わせないでよ。こっちだって、は、恥ずかしいんだからね? 私のファーストキスを奪ったのは、他ならないき・み・自・身なの!」
 強調しながらの言い方がよかったのか、ようやく理解したらしい秋斗くんは、「ははは」と明らかに引きつった笑いを浮かべた。
「冗談でしょ、美結さん。だって、全然身に覚えがない」
「……でしょうね。私もちゃんと見ていたわけじゃないから、確信はないんだけど。嘘はつかないって約束もしているし。じゃあ、実際に試してみたら? ルーがさっきやろうとしていたことをきみができたら、これ以上ない証拠になるでしょ?」
 私は嘆息しながら、なかば投げやりにそううながした。
 秋斗くんは自分の両手を見やってから、おそるおそる宙にかざす。
 バリバリッドドォオオン!!
 その瞬間、彼の手から真っ白な雷光が飛び出して、そのまま真っすぐにルーを貫いていく。声にならない悲鳴をあげながら、ルーがパタッとその場で倒れた。
「!?」
「ほら、できた」
 予測したとおりの結果に、私はあごに手をあてた。
「なんで、どうして……!?」
「だから、言っているじゃない。私の――」
「どうして覚えていないんだ、おれ! 美結さんと、美結さんとキスしたらしいのに! しかも、ファーストキス!!」
「って、そっちかいっ」
 私のツッコミに反応するように、ところどころ黒焦げになったルーが、ガバッと身体を起こした。
「なぜだ!? なぜに、こうならなきゃならない!? オレ様の予定と、まったく違うではないか!」
 そうでしょうねえ……
 なんだかちょっとかわいそうになって、私はルーを見る。
 「ねえ、美結さん」と切羽詰まったような秋斗くんの声に、何事かとふりむいてみれば、真剣な藍色の眼差しにぶつかって、私は不覚にも頬が熱くなるのを感じてしまった。けど……
「覚えていないから、もう一回いい? 今度は、ちゃんと記憶にすりこむから」
「はあ!? すりこむってなに!? 覚えていないからって、い、いいいい、いいわけないでしょう!?」
 真面目な顔でなにを言い出すの、このひと!?
「だって美結さん、キスくらいどうってことないってさっき言ってたじゃないか」
「た、確かに言ったけど、相手にもよるわっ」
「相手? おれじゃ、駄目ってこと……?」
 すぐさま悲しげな表情になっていく秋斗くんに、私はうぐっとつまる。
 このすがりつくような瞳に私が弱いってこと、絶対わかってやっているでしょ!?
 ああああ、もう! この、確信犯っ!
「だ、だがしかし! もし仮にファーストが済んでいたとしても、先刻のがセカンドキスになる。ならば、我が第二の力は戻っているはずだ!」
「――やっぱりきみは滅さないといけないみたいだね、ルールヴィス!」
 腰の剣を抜いて、秋斗くんがルーに走り寄っていく。
 しばらく黙って、二人の攻防戦を眺めていたけれど。
 いつまで経っても、ルーの第二の力が発動されたのかされていないのか判断がつきそうにない。……まあ、判断もなにも最初から結果は出ているんだけど。
 さすがにこのままというわけにもいかなくて、私はゆっくりと口をひらいた。
「あー……えっと。再びシリアスな流れに水をさすみたいで悪いんだけど、私、セカンドキスも奪われちゃっているのよね」
「んなっ!?」
「だれに!?」
 驚愕したルーと秋斗くんの叫びがかさなって、こだまする。
 むけられた二対の藍色の瞳を交互に見ていた私は、ひしひしとしたデジャブに襲われながら、一応答える。
 それを皮切りに、さっきと似たような展開が繰り返され始めた。
「なぜだ!? なぜに、こうならなきゃならない!? 一度ならず、二度までも! オレ様の予定と、まったく違うではないか!」
「どうして覚えていないんだ、おれ! 美結さんと……、美結さんとキスしたらしいのに! しかも、セカンドキスまで!!」
 ただただ苦笑しながら見守っていた私は、そのうちに言いようのない疲労に見舞われて、深々と嘆息した。

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