幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(13)

 キスをされたのだと気づいたのは、つかまれていたあごを解放されてからだった。
 見た目が『あっくん』だからか、それほどショックはないけど……なんか複雑。
「フハハハハ! これで、我が力の一部がよみがえる! ひれ伏せ! そして、心の底から畏怖してあがめろ!」
 ルーの高笑いがひびく中、私はゆっくりと立ちあがった。
 彼らがいうところの、私のファーストキス。どう説明したらいいんだろう?
「ねえ、美結さん。今ここでルールヴィスを消したら――、さっきのはなかったことになる?」
 そう冷ややかに声をかけられて、「はい?」と顔をむけてみれば。そこにいたのは、いつものさわやかオーラを放ったキラキラ王子様ではなかった。
「ちょ、ちょっと! 背後にまがまがしい闇のオーラまでまとっちゃって、いったいどうしたんですか!? 完全にキャラ、変わってますよ……!?」
「まさか。僕は僕だよ」
「ぼ、僕!?」
 素っ頓狂な声をあげる私に、ニッコリとした満面の笑み。
 でも、目が笑っていない。目が、完全にガチすぎる……!
「さくっと、デリートしてくるね」
 デリート=消去。
 物騒なことをサラッと口にしながら背をむける秋斗くんの服を、私はあわててつかんだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ! キ、キスくらいどうってことないでしょう? 当の私は、そんなに気にしていないんだから!」
「そうはいかない。美結さんの、ファーストキスだったんだよ? ファースト、キス。最初で最後、一度っきり。前からずっと、あこがれていたのに……!」
「そ、そうだったの? あー……そ、そのことなんだけどね、秋斗くん。実は、私ね――って、ちょっとどこ行くのよ! ちゃんと話をきけええええ!!」
 秋斗くんが私のことをまるっきり無視してスタスタスタと進んだ先には、楽しげな表情のルー。
「我をとめにきたか、勇者よ。だが、第一の力を取り戻したオレ様相手に、貴様の勝利は万に一つもない。絶望に打ちひしがれながら、その身の不幸と力のなさを悔いて果てるがいい」
「そんなことは、どうだっていいんだ。よくも、よくも、美結さんの唇を……!」
 秋斗くんの返事が予想外だったんだろう、ルーが一瞬コケたのが私にも見て取れた。
 コホン、と咳払いをして表情をひきしめるルー。
「……まあ、ちょうどいい。我が力、さっそく貴様で試させてもらおう! もともと貴様には、消えてもらわねばならない運命だからな!」
 バッ、とルーが両手を突き出す。
 なんとなく結果がわかってしまった私は、「あ」ともらした口元をあわてて手でおおった。
「はあああああ!」
 気合のこもった、ルーの声。
 空気が共鳴し、そして――
 チリひとつ舞いあがることすらなく、なにも起こらなかった。
「馬鹿なっ! 力が、オレ様の力が戻っていないというのか!? 本来なら雷光がバリバリっと、バリバリっと放出されるはずなのに!」
「……やっぱり」
「どういうこと? 美結さん、なにか知っているの?」
 黒いオーラが消え去って、いつもの秋斗くんに戻っちゃっている。
「知っているというか……、今ので完全に思い知らされたというか……」
 あれは、やっぱりそうだったわけね……
 元の世界での出来事を思い出しながら、私は苦笑してしまう。
「思い知らされた? なにを?」
 たずねられて、私は嘆息まじりに答えた。
「私ね、もうとっくにファーストキスを奪われちゃっているの」
「なんだと!?」
「え!? そう……、なの?」
 ありえないとばかりに、ルーと秋斗くんが同じ色の瞳を大きくひろげる。
 私からしてみれば、その思いこみの方がありえないんだけど……まったく。
「うん」
 私がうなずくと、またたく間に秋斗くんの表情が暗くかげる。
「……その相手、今すぐ消しに行ってもいい?」
「ダメ。私が困るもの」
「美結さんが、困るほどの相手なんだ」
 ギリッ、と秋斗くんが唇をかみしめる。
 私は、そっと視線をそらした。
「……それ、僕の知っているやつ?」
「そうね。よく知っていると思うけど」
「じゃあ、だれ? だれに奪われたの?」
 不機嫌そうな低い声に押されるように、私はスッと目の前の人物を横目にしながら指さした。
「きみ」

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