幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(12)

「生贄、だって?」
 秋斗くんも反応して、表情を険しくする。
「そう身構えるな、勇者よ。どれくらい前だったか、あろうことかこのオレ様から二つの力を奪って逃走した御使いの女がいた。忠実なしもべたちに行方を追わせたが、いつしか足取りは消えてしまった。その女を連れてきたものには願いを一つきいてやると、それからも探し回らせたのだが」
 フン、とルーが鼻を鳴らす。
「貴様はなぜか、その失われた我が力を持っている。どうやって引き継いだ? あの女の、血縁者なのか?」
「そんな話、きいたこともないけど」
「まあ、貴様がなぜ御使いの力を引き継いでいるかは今さらどうでもいい。要は、オレ様が元の力を取り戻して完全に復活をとげられたら、それで終いなのだからな」
「……私を、生贄にするつもり?」
 私の問いかけに、ルーは愉快そうに肩を揺らした。
「そんなこと、おれがさせない」
「私だって、そう簡単にされるつもりはないってば」
「御使いは、清らかな接吻とともに我に服従の証をたてる。どういう因果か、クククッ! 今のオレ様は、貴様の大事な幼なじみの昔の姿なのだろう?」
「まあ、そうね。顔立ちは、すごく似ていると思う」
 私の記憶に残っている『あっくん』と比べても、その違いは髪の色くらい。
「大切な大切な、それに加えてやはり好意まで持っているようではないか! 恐れ多くも、このオレ様に!」
「なんで、ルーなのよ。ルーはルーじゃない。見た目があっくんだろうと、あっくんはあっくん。私の好きな人は――、たぶん別にいるもの」
 チラ、と視線が勝手にむいてしまって、私はハッと硬直する。
「美結さん、それって……」
 いぶかしげな藍色の瞳に、あわてて私は両手をふった。
「な、なんでもない! なんでもないの!」
「美結さん、嘘はつかないって約束だったよね? まさか、さっきの……あんこ!?」
 まだそのネタ、引っ張るか!
 私は額をおさえながら、秋斗くんにむかって首をふった。
「なんで、そうなるのよ! 私があんこ好きなのは、きみも知っているでしょ?」
「あんこって、だれ!?」
「人じゃないでしょうが! いいかげん、思い出しなさいよ!」
 両腕を組んで私があきれたように言うと、秋斗くんがムッとした表情のまま少しの間考えこむ。ようやく『あんこ』の正体がわかったらしい、秋斗くんがポンと両手をたたいた。
「……ああ」
「ああ、じゃない! まったく、こ――」
「じゃあ、だれ? 美結さんの好きな人って。嘘はつかない約束だからね?」
 私の言葉をさえぎりながら近づいてくる、整いすぎるほど整った顔立ち。
 「ななな、なあっ!?」と一気にパニックにおちいった私は、意味不明なことを口走ってしまう。
「そ、それはきみに対してであって、ルーに嘘つくのは全然オッケーでしょう!?」
「なら、嘘をついたのはルールヴィスに対してってこと? じゃあ、美結さんの好きな人って――ルールヴィス……?」
「って、なんでそうなるのよ!」
「フハハハハ! 当然といえば、当然の結果ではないか! さあ、ペタコよ。我がもとへ来るがいい。そして、清らかなる接吻をこのオレ様にささげろ!」
 ルーが、上にむけた手のひらを差し出してくる。
 その間に秋斗くんが入ってきて、ルーを鋭くにらみつけた。
「きみに、美結さんの唇はわたさない。たとえ美結さんが、きみのことを好きだったとしても」
「だ、だから、なんでそうなるの!?」
「ほほう。貴様、ペタコと最初の接吻がしたいのか?」
「美結さんと、その……キス、とか……、は、恥ずかしいけど、おれだって美結さんのファーストキスが、欲しいに決まってる!」
 ああああ、もう!
 なんでこんな! 馬鹿げた言い合いを、真面目顔とドヤ顔でやっているのよ!
 しかも!
「なんで二人して、私が未経験だって決めつけているわけ!? こ、この歳なんだし、ファ、ファーストキスとかセカンドキスくらい、もうとっくに済んでいるかもしれないでしょうが!」
 私の絶叫に、きょとんとした二つの顔が私に同時にむけられてくる。
「え? だって美結さん、昔から男っ気はまるで皆無だったじゃないか。興味ない、て言ってたし」
「そんな貧相な見た目では、男がまったく寄りつかなかったことくらい容易に想像できる。現にオレ様が同行してやっていた間も、なにもなかったではないか」
「し、失敬な!!」
 ツッコむ私をよそに、秋斗くんとルーは戦いを再開する。
 な、なんなのよ、こいつら! なんでこんなときだけ、気が合うの!?
 鳴りやまない金属の音。
 ルーの一撃が秋斗くんを後方に吹き飛ばし、その隙にルーがこちらにやってきた。
「おい、ペタコ」
「ペタコじゃない!」
「――せ、このま――に成長も――にペ――――タコ、その――――えられ――――うがな」
 私より身長が低くて、さらにうつむいた状態でボソボソしゃべられるものだから、ところどころうまくきき取れない。
「なに? きこえない」
 『あっくん』と話すときのくせで、私はついついその場にしゃがみこむ。
 同じ高さになった幼い顔立ちが、ニヤと不敵に口元をゆがめた。
「かがんだな?」
「え? ……んっ!?」
 あごを引き寄せられた先で、唇に冷たい感触。
「美結さん!?」
 秋斗くんの絶叫が、耳をうつ。

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