幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(11)

「あの条件も、無責任なんかじゃない。最終的に決めたのは、おれだしね。美結さんは、まだ迷っていたおれの背中を後押ししてくれた。あのままだったら、なにも変えられずに終わっていたおれにもチャンスをくれて、すごく感謝しているんだ」
「でも……、でも! 私があんな条件を言わなければ、きみはその『10年』でもっとたくさんの思い出を、おじいさんのことも簡単に乗り越えられるくらい楽しい時間を、いっぱいいっぱい過ごせたかもしれないんだよ? いろんな人たちと出会って、いろんな経験をして、いろんな記憶を作って! なのに私は……!」
 きみのあのときの気持ちも、置かれた立場もなにも知らなくて、気づきもしなくて!
 きみの大事な『10年』を、私が、私が台無しに……!
「おいこら! さっきから、オレ様をスルーし続けるんじゃない! すごく大事な、核心に迫るようなことを言おうとしているんだぞ!?」
「それは違うよ」
 静かだけど有無を言わさない、強い否定の声。
 ビクッと全身をはねあげた私の背中に両腕がまわされて、そっと抱き寄せられる。
「おれはね、美結さん。きみに、弟みたいなただの幼馴染としか見てもらえない『10年』より、少しでも男として見てもらえる『1日』の方が、断然よかったんだ」
「……っ」
「後悔なんて、一つもしていない。今のおれが、おれの望んだおれだから」
「きけよ! おい、きいているのか!? ……そろそろ、きいてください!」
「本当はね、この話をきみにするつもりはなかったんだ。きみには、今のおれを見ていて欲しかったから」
 髪が、優しくなでられる。
 その指先にも、ふれてくる腕にも、耳に落とされる声にも、どこにも――私の知っている『あっくん』の面影は全然なくなっていて。
 『あっくん』姿のルーがいるのもあって、この前まで『あっくん』がだれなのか悩んでいたのが馬鹿みたいだ。『彼』は――、『彼』なのに。
「だから……、泣かないで。きみを泣かせるつもりも、なかったんだ」
「泣いて、なんか……っ」
「嘘はつかないって約束だよ、美結さん」
「っ」
 ああ、もう。
 私だって、こんなつもりはなかったのに……!
「美結さんは優しいから、きっと自分を責める。だから、言いたくなかった」
「私は、優しくなんか……っ」
「そう? 本当に優しいひとは、自分のことを優しいなんて言わないと思うよ」
「!」
 「こんな風に」と、私の目元を秋斗くんの親指がぬぐっていく。
「自分以外のために涙を流すこともできない。美結さんは、すごく優しいよ」
 そして、おだやかに微笑する。
 なんでこのひとは……、いつもいつも私のことばかり……!
 さっきから、まともに言葉が出てこない。出てきそうに……、ない。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 薄々――、そうじゃないかって気づいてはいた。
 私たちの関係は変わらない、ずっとずっと変わらないはずだったのに。なのに、いつの間にか私、私――!
 ギュ、と私は無意識に秋斗くんの胸元を強くつかんでいた。
「み、美結さん?」
 変えたく、なっていたんだ……!
「馬鹿っ」
 とまどったように見おろしてくる藍色の瞳に、私は短くそう叫んだ。
 かすかに両目を見開いてから、秋斗くんが「……うん」とうなずいてくる。
「ごめん」
「なんで、きみが謝るのよ」
「だって美結さんを……、笑わせてあげられていないから」
「こんな状況でヘラヘラ笑っていられたら、私、ただの空気がよめないアホか、すっごい器の持ち主ってことになるじゃないの」
「じゃあ、後者だね」
「だから、なんでそうなるのよ」
 しっかりツッコミをいれながら、相変わらずすぎる秋斗くんの笑顔に私もつられて小さく笑うしかなかった。
 まったく、もう……
「終わったな!? 終わったんだろうな!? フハハハハ! ようやく、オレ様のターンがきた! さあ、ペタコよ。先ほどの約束をはたし、貴様の清らかなる接吻をオレ様に捧げるがいい!」
「……はい?」
 いきなり割って入ってきたそれに(さっきから、ギャーギャーうるさかったけど)私は秋斗くんから離れながらジト目をむけた。
 同時に、指がつきつけられる。
「仕方なく、享受してやる。床に平伏の上、心の底から感謝感激あまりの歓喜に悶絶しながら、うやうやしくおごそかに行うがいい!」
「約束はしたけど、まだわからないことがあるから教えてもらえない? なんで、私なの?」
「貴様が、我が御使いだからだ」
「なりたくてなったわけじゃないんだけど。そもそも、その御使いってなに?」
「御使いは、清らかな接吻とともに我に服従の証をたてる。もともと御使いは、オレ様に捧げられた生贄というやつだ」
 生贄!
 どこかで耳にしたような気がする、そのワード。

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