幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(5)

 カツカツン、カツカツンと私たちの足音だけがひびいてくる。
 入口近くの木に乗っていた馬をつないで、徒歩で魔王城へと二人でやってきたのだけど。
 秋斗くんが開いてくれた私の背丈の倍はありそうな両扉をくぐると、広々とした廊下がつづいていた。両脇の壁には、一定の距離でランプが取りつけられているものの、薄暗い。非常に薄暗い。
「入口はね、ここ以外にも三つあるんだ。裏門と東門と、北西の門。必要なら、あとで案内するよ」
「う、うん……」
「この廊下は、大広間に真っすぐつながっていてさ。大広間は、運動会が丸々できそうなくらいすごく広いんだよ。足元、気をつけて」
「う、うん……」
 いろいろ教えてくれたり、注意をはらってくれたりする秋斗くんに返事はかえすけど、なかなか頭には浸透してこない。
 さっきからここ、やけに静かすぎない? 私たちの声が反響して、まるでトンネルの中を歩いているみたいだ。物音ひとつないと、こんなにも心細く思うものだったなん――
 カタッ。
「っっ!?」
 私の全身が、大げさなほどに飛びあがる。
 声にならない悲鳴をあげながら、私は近くにあったものにしがみついた。
「! み、美結さん?」
 驚いたような声が、耳をかすめていく。
 ハッと我に返って、私はつかんでいた秋斗くんの腕をあわてて放した。
「……ごご、ごめん! べ、別に怖いわけじゃないんだけど、びび、びっくりしちゃって」
「ううん、謝ることないよ。平気? ……そのままでも、おれは構わないんだけど」
「へ?」
「なんてね。思い出すな、前に美結さんと墓参りをしたときのこと」
「うぐっ」
 できることなら、思い出したくない。
 だってあのとき、ガチで幽霊に会ってしまったんだから……! おだやかだけど悲しげな顔をした、きれいな女の人だった。うう、頭をなでられた感触がよみがえってきたし。
 頬のあたりが引きつる私に、秋斗くんがほほえんでくる。
「美結さんは覚えてる? あのときも美結さん、今みたいにおれにしがみついてきたんだよね」
「そ、そうだったかしら? もももしかしたら、記憶違いじゃないの? よ、幼稚園児だったきみにしがみつく中学生とか、情けなさすぎでしょうが」
「そう? いつもは年上だししっかり者の美結さんが、その時ばかりはおれを頼ってくれて、普通に嬉しかった。あの時からだよ。おれがきみを、この手で守りたいって思うようになったのは」
 ギュと拳をにぎる秋斗くんの横顔を直視できなくなってしまった私は、視線をさまよわせてからうつむいた。
 一定の距離をたもったまま、私たち二人は大広間にやってきた。
 床一面にひろげられた、金と赤の豪華そうな絨毯。奥の方は段差があって、少し高くなった位置にはとげとげしい印象の玉座があった。あまりセンスは――、よくなさそう。
 運動会が丸々できそうなくらいの広さ、てさっき秋斗くんが言っていたけれど、確かにそうかも。
 ところどころの柱にとりつけられたランプがあるものの、廊下以上に薄暗い。壁がカーテンみたいな幕におおわれていることもあって、今にもそこから白い物体とかがニョキっとでてきそうで――ひいいい!
 や、やっぱり無理! こ、こんなところを新居にするとか、絶対無理でしょうが!
「これだけ広いと、なんでもできそうだよね」
 両腕を伸ばしながら、秋斗くんが広間の真ん中に移動していく。はじかれたように、私もそのあとを追う。立ち止まった背中が、かすかにこわばったのがわかった。
 な、なに? なんかでたの!?
「ねえ、美結さん」
「は、はい……っ」
 裏返ってしまう、私の声。
「きみが、今まで出してくれた条件。指輪、就職、新居、全部そろえた」
「そ、そうみたいですね……っ」
 どれもこれも、私の予想の斜め上を行ってくれましたけどね……
 ドラゴンの王から手に入れた宝石で作った指輪、史上最速で就任したらしいエレメンタルナイツ、そして魔王を倒してまでゲットしてくれたこの薄暗さ満点の新居。
 でも、どうしてそんな話をしてくるの?
 その条件をすべてクリアしたところで、もうなにも――
「だから――、ご褒美をくれない?」
「ご、ご褒美?」
 あ、そうくるのね。
 予想外の展開に、ついどもってしまった。
 けど、ご褒美になりそうなものなんて、今持っていたっけ?
 自分の所持品をさぐるけど、あったのはあんこ飴が一つだけ。し、しょうがないな……
「まだ慣れていなくて、ちょっと……自信ないんだけど」
 ふり返ってきたと同時に、私の前で秋斗くんが優雅に深々と腰を折ってくる。
 突然のことにぎょっとなった私は、あんこ飴を取り出しかけていた手をとめ、右足を一歩うしろにさげた。
 い、いきなり、なに?
「――あなたのその御手を預けていただける栄誉を、わたしにお与えください」
「は、はいぃいっ!?」

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