幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(4)

 軽快なリズムと、たまに身体の浮く感覚。
 前回は、両足をブラブラさせて楽しんでいたはずなのに。
 この前より、断然居心地はいい。リズムも一定だし、激しく揺れ動くこともないから、お尻が痛くなることもない。だけど、この展開はできることなら遠慮したかった……
「美結さん?」
 うしろから呼ばれた声に、私はその持ち主を確認できないまま、その場でさらにかたまってしまった。
 なんで? なんで、前回とこんなにも違うの?
 一緒に乗っている人物が、違うだけなのに。しかも、もう指輪を返したんだから普通の幼馴染に戻った相手なのに。ああもう、意味わかんないっ!
 部屋に帰ってきた秋斗くんに『ふわっともちっと二度食べてもサンドイッチ』を渡されて、狂喜乱舞してしまったのが懐かしくなってしまう。
 ラッピングをはずしてかぶりついていると、テーブルに頬杖をつきながら嬉しそうに見つめてくる藍色の瞳がよみがえってきた。『ふわっともちっと二度食べてもサンドイッチ』、すごくおいしかったはずなのにあまり味が思い出せない。
 『どうして、私の食べたいものがわかったの?』と食べながらたずねたら、『知りたい?』と逆に返されて、ついつい『や、やめておきます』と答えたのを思い出す。
 その後秋斗くんに誘われて外に出たら、馬に乗ってご登場されて――
 いつものエレナイの団服じゃなかったけど、腰には見慣れた一本の剣。これまた誰が選んだのか、着くずしたシャツと、その上に羽織った黒いコートみたいな服装。こういうシックな格好は、心なしか私の好m――いやいやいや。私のワンピースと、感じが似ているような気がした。
 普段より大人っぽく見えてしまって、ムンクの叫びよろしくその場で凍りついていたら、いつの間にか馬の上に引きあげられていた。
 ジタバタジタバタ。
 そして現在、過去のもろもろな内容を思い出して悶絶なう。
「美結さん、そんなに動くと危ないよ?」
「え? きゃあっ!?」
 お約束どおり、大きく波うった馬上でバランスをくずす私。
 そしてこれもまたお約束どおり――、まわされた腕が私をしっかりと受けとめてくれる。優しく引きあげられ、私はストンと座りなおした。
「――ほら」
「あ、ありが……ろ」
 あまりの緊張に、思いっきりかんでしまった。
 うう……、不覚。
「どういたしまして」
 完全無欠の微笑と一緒に返されて、私の鼓動まで跳ねあがる。
 あわてて背筋を伸ばして前をむけば、私の脳内がドキンドキンと妙にうるさい。それをまぎらわそうと、私はあたりさわりのない質問を投げかけた。
「と、ところで、どこに行くつもりなの?」
「ああ、うん。美結さん、この世界に来る前におれと約束したこと覚えてる?」
「約束、えっと……。ごめん、なんだっけ?」
「この世界に来てもらった理由だよ。いろいろあって遅くなっちゃったけど、今からそれをはたそうと思って」
「そ、そういえば――」
 慣れって、恐ろしい。
 すっかりと忘れてしまっていたけど、どうして私、この世界に来たんだったっけ?
 一度どこかで記憶をほりかえした気はするけど、それっきりだ。
 確か――、秋斗くんがうちに不法侵入してきて、一緒にあんこパスタを食べたんだよね。ん? ちょっと待って、食べる前になんか言われたような気がするんだけど。
 秋斗くんがゆっくりと手綱を引き、馬の足をとめる。
「ちょうど、この近くなんだ。ほら、見えてきた」
 ん、なにが? と指さされた方を見れば、ザアアッと黒くて小さな影が暗い森の中から一気に飛び立っていく。
 ひいっ!? 顔が、思いっきりこわばるのが自分でもわかった。
 まだ真昼間のはずなのに、真っ暗になりつつある周辺。目の前には、鬱蒼としげって奥が不明瞭すぎる大きな森。そこに隠れるように、お城の上部分だけがのぞいていた。
 ギャーギャー、と気持ちの悪い鳴き声。近くの木々から鋭い視線を感じて、こわごわと目をむけて――私はさらに硬直した。
 いいいいい、今っ! 今、薄くて白くて細長いものが、そこをよぎったあああああ!!
 魂が抜けて口をパクパクさせる私に、秋斗くんがうしろから説明してくれる。
「あれが――、元・魔王の城だよ」
 まま、魔王!
 そうだ、今さら思い出した!
 私が新居にお城を望んだ(記憶にないけど)らしくて、それを手に入れるためだけに秋斗くんが魔王を倒しに行ったとかなんとか。それで、その新居を一緒に見に来て欲しいって!
 そうだ、そうだ、そうだった。
 ずっとモヤモヤしていたからスッキリ。って、安堵している場合じゃなかった。
 ヤバイ。なんかこの辺、さっきから雰囲気がヤバイ!
「ね、ねえ秋斗くん。やっぱり、行かなきゃ駄目?」
「どうしたの、美結さん。直接見てみないと、どんな感じかわからないでしょ?」
「みみ、見なくても、どんな感じかくらい想像できるでしょうが!」
「え、そうなの? すごいね、美結さん。見なくてもわかるなんて」
 尊敬の眼差しを寄せてくる彼には悪いけど、絶対なんかイる絶対なんかデる! さっきから、そんな雰囲気バリバリじゃないですか!
 てか、今さらなんでこんなところに来る必要があるの!?
 新居なんて、もういらないでしょうが! 律儀に連れてきてもらわなくても、よかったんですけど!
 いやああああああ! 帰りたい! 早く帰りたい!
 ゾワっとした! 今、背筋がゾワっとしたああああああ! 鳥肌たったああああああああ!
 私の胸の内の絶叫が届くはずもなく、私を乗せた馬は再び移動を始めて、一つのためらいもなく暗闇につつまれた森の中へと入っていってしまった。

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