幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(2)

 じ、自分でも、知らなかった……
 けど、ずっと見ていた? そして、気づいていた? それは、いつから?
 じゃ、じゃあ、幼いあっくんにいろいろ嘘ついてお菓子をまきあげたり、からかったりしたのをあの子は――
 ひいいい! じ、時効だよね? さすがに、時効でいいよね……!?
 頭をかかえる私に小首をかしげた秋斗くんは、「それで」と表情をひきしめた。
「眠れない原因は、わかってる? おれに、なにかできない?」
 だ、だれのせいで!
 思わず口にしそうになって、私はあわててつぐむ。
「あの、それはですね」
 い、言えるわけがない。
 眠れないのはきみのせいなんです、なんて――!
 そう……
 あれから私は、彼のご指摘どおりにあまり眠れない日々を過ごしていた。
『指輪……! 返してもらって、いいかな?』
 あの時の、彼の言葉がよみがえってくる。
 彼には見えない位置で、そっと胸元に触れた。平たい感触しかなくなってしまったそこに(べ、別に胸のことじゃないから!)私はため息を落とす。
 ……はっ。なんでアンニュイな気分になっているのよ、私! も、もともと突っ返そうとしていたものなんだから、なくなったところで何も変わらないはず。これでよかったんだってば! そう、これでよかったの。
 ふううう、と深く深く息をはきだす。
「ねえ、美結さん。もしかして――」
「な、なによ」
「……いや、なんでもない。寝る前に、あたたかい飲み物とか、ブランデーをちょっといれた紅茶でも飲んでみる? よく眠れるかもしれないよ?」
「あのね。私、未成年なんですけど。というか、秋斗くんもそうじゃないの?」
 お酒は二十歳から。これ、常識です。
「うん。今、18だったかな? でもこっちの世界では、そういう基準は決められていないから」
 フフ、といたずらっ子っぽい表情で片目をつぶる秋斗くん。
 あ、そっか。『お酒は二十歳から』は、あっちの世界の常識なんだ。
 なんか、不思議な感じ……
「でも、自分から飲むことはないよ。いつも団長に飲まされて、仕方なく……だから」
 秋斗くんと、お酒。
 その二つがからんだとき、彼の言動はあまり変わらない感じだった。でも、最初のときも二度目のときも、普通の彼からは想像のできない行動をしていたんだけど……
「秋斗くんって……、お酒強いの?」
「それが、自分でもよくわからないんだ。団長やサリューが言うには、普段とそんなに変わらないらしいんだけど。おれは、あまり覚えていないことが多くて……」
 やっぱり、そうなんですね。
 まあ、覚えていない方がいいこともあるだろうし、うん。
「ねえ、美結さん」
 あらためて名前を呼ばれて、私は秋斗くんに顔をむける。
 ニコ、としたいつもの微笑に、自然とわき起こってくる嫌な予感。
「今夜は、美結さんが眠るまでそばにいてあげようか? なんなら、添い寝してあげてもいいけど」
 さわやかな笑顔のままとんでもない爆弾を投下してきた彼に、私は一瞬ポカンとなってしまう。その内容を理解した途端、私ははじかれたように彼につめよった。
「!? ば、ばばばば、馬鹿じゃないですか、あんたは!! 馬鹿ですよね!? 馬鹿に違いありませんよね!?」
「だって美結さん、おれが眠れないときはいつも一緒に寝てくれたじゃないか。おれ、それがすごく心強くてあたたかくて、すぐに眠ることができたんだ。だから美結さんも、心ぼそ――」
「それは、幼いころの話!! きみは、もう立派な大人でしょうが!?」
 秋斗くんの言葉をさえぎって、私はまくしたてる。
 藍色の瞳を驚いたようにまばたかせていた彼は、「フフッ」と口元をゆるめた。
「大人、か。それもそうだね」
 くっ! さっきからなんなのよ、この余裕たっぷりな態度は……!
 18だったっけ? いくら私より年上になったからって、あのからかい甲斐のあったあっくんと同一人物だとは、全然思えないんですけど!
 まあ今さら、同じだとかどうでもい――
「いい大人なんだし、寝るだけじゃもったいないもんね」
「ぶっ」
 私の内心のセリフを引き継ぐように言われたそれに、私は盛大に吹き出してしまった。
 は、はい?
 表情をひきつらせる私に、意味深な笑みが秋斗くんからこぼれていく。
「せっかく美結さんと一緒なんだから、いろいろしたいじゃないか」
 い、いろいろ?
 いろいろって、どんな――
「お菓子食べながらゲームをしたり、漫画読んだり、話をしたり。外に出かけて散歩したり、バーに行ったり、映画を見たり、ボウリングとかビリヤードとかやってみたり。美結さんとだったら、夜でもすごく楽しそうだなって」
 秋斗くんは指を一つ一つおりながら、楽しそうに言ってくる。
 ……あ、そういうやつね。
 なんだか気恥ずかしくなってしまった私は、彼から視線をそらして、自分の髪をそっとすいた。
「そんな夜遊びをつい最近まで――いや、子供の頃に憧れていたんだよな」
 チラと一瞥すると、どこか遠くへ流された藍色の瞳とたまに見え隠れする憂いを帯びた表情。引き寄せられるように身体をむけると、私に気づいたらしい秋斗くんがばつが悪そうに小さく笑った。
「そうだ、美結さん。今からちょっと、出かけない?」
「今から? もうすぐ日が暮れるけど」
「だからだよ。行こう」
 そう言って秋斗くんが歩き始めた、と思えばすぐにふり返ってくる。
 なに? 小首をかしげる私に、彼はとまどったように泳がせていた目を真っすぐに戻してきた。
「……これくらい、いいよね?」
「へ?」
 手首がつかまれ、優しく引っ張られる。
 え、あ……!
 突然の出来事に、目の前の背中を凝視したまま私の頭が真っ白になっていく。
 な、なんで? なんで、こんなことに? ここ、こんなこと初めてじゃないけど! つーかむしろ、なんで今さらこんなことしてくるの!?
 わかんない、わかんない、全然わかんない……!
「っ」
 大混乱している間に手首をつかむ熱い手のひらが移動して、そのまま私の手をギュッとにぎってくる。息をのんだ私の記憶は、そこで完全にフリーズしてしまった。

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