幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(1)『10年』よりも『1日』

 軽快なリズムと、たまに身体の浮く感覚。
 前回は、両足をブラブラさせて楽しんでいたはずなのに。
「美結さん?」
 うしろから呼ばれた声に、私はその持ち主を確認できないまま、その場でさらにかたまってしまった。


 5.『10年』よりも『1日』


 ティグローでのゴタゴタがようやく片づいてすぐに、サリューはセディスを連れて先に帰ることになった。私は、いつの間にかまたいなくなってしまったルーをちょっとだけ思い出してから、見送りのために門の近くまで来ていた。
 出発する前に、手招きした秋斗くんになにかしら耳打ちしていたみたいだけど、なんだったんだろう? 少し怒った風にサリューの胸元に裏拳をうってから、秋斗くんが私のところに戻ってきた。
 ん? ちょっと頬が赤い?
 まさかまた、熱があがってきたんだろうか? いきなり倒れたりしない、よね?
 不安になって様子をながめていると、秋斗くんがはにかんだ笑みを返してくる。うぐっ。
 「じゃ、仲良くやれよな」とニヤニヤ笑いながら馬で去っていったサリュー、そして「あんた、この恨みは絶対に忘れないからね。いつか復讐してやる系だから、地獄の果てまで覚えてなよ!」と痛すぎる目力つきのセディスの二人と入れ替わりで、元・タル男さんがたくさんの女の人たちをつれてやってきた。
「御使い様、ありがとうございました」
 深々とお辞儀をしてくる元・タル男さんに私はあわてて首をふった。
「わ、私はなにもしていませんから! 女の人たち、見つかってよかったですね」
「はい。これも御使い様のお力のたまもの。戻ったら、より一層あの方に誠心誠意おつかえすることを、お誓いいたします。我が集落は、あの場所にも近い。来られることも多々あるでしょうから、その際にはぜひお立ち寄りくださいね」
「は、はあ……」
 あの方もあの場所もまったくわからないけど、とりあえず私はほほえむ。
「それでは、失礼します」
 もう一度深く腰を折り、元・タル男さんたちは顔を見合わせると、そろって移動を始めた。
「――じゃあ、頼むよ」
「はっ」
 秋斗くんの声と、気合のこもった返事。
 タル男さんたちの一団のうしろに、鎧に身をつつんだ三人の兵士さんがついていく。彼らの背中を最後まで見送ってから、私はホッと安堵の息をこぼした。
 ひと段落、かな。
「ねえ、美結さん。御使いってなに?」
 秋斗くんが、不思議そうにたずねてくる。
 私は彼をチラと見てから、かぶりをふった。
「それがね、私にもさっぱりなの。あの方とかあの場所とか、全然心当たりがなくて。結局きける雰囲気でもなかったし、ききそびれちゃった」
「そうなんだ」
 秋斗くんが、あごに指先をからめる。考えるような仕草の彼に、少しだけ間を置いてから私は気になっていたことをたずねてみた。
「私も、一つきいていい?」
「ん?」
 藍色の瞳が、私にそそがれてくる。
「あのね。私が元・タル男さんたちの集落にいたとき、さっきの子――セディスに襲われたことがあるの。そのときの服装は、エレメンタルナイツの団服だった。あれってエレナイの仕事だったのよね?」
「……ああ、うん。元・タル男さんって、さっきの人のことでいいんだよね?」
「そうそう。それでね、襲撃してきたわりには、さっきは護衛みたいなのをつけていたでしょ? なんだか、ちぐはぐな感じがして」
「……彼らはもともとおれらの敵、のはずなんだけどね」
「え、そうなの?」
「うん。でも、実際に会ってみたらそんな感じはまったくなかったし、彼らもおれに敵意は持っていないようだった。だから、おれにもよくわからなくなっちゃって。なにが正しいのか、なにが間違っているのか……」
 両目を伏せて口ごもる秋斗くんの横顔を見ていた私は、「あ」と思い出したように続ける。
「具合はもういいの?」
「ああ、うん。美結さんのおかげでね。これならもう、ナイツの仕事に戻っても問題はないよ」
 さわやかな表情で告げてくる秋斗くんに、私はジト目をむけた。
「……無理してない?」
「美結さんこそ」
 軽く返されて、私はドキンとなった。
「わ、私!? 私は……っ」
「ちゃんと眠れてる?」
 最強の輝きつきで微笑してくる秋斗くんに、私の思考がフリーズする。って、とまっている場合じゃない!
「ねね、眠れていますよ、もちろん。ええもう、朝までぐっすりと!」
 あせりながら頬に手を添えて答えると、「ぷっ」と吹き出されてしまった。
「な、なによ!」
「美結さんって、昔から下手だよね」
「だから、なにが!?」
 むきになって声をはりあげる私に、秋斗くんはたまらないとばかりに笑いはじめた。
 な、な、な……っ! なにこの、私のことは全部見透かしていますよみたいな反応は!
「嘘つくの。気づいてない? 嘘つくとき、必ず右頬に手をあてているんだよ」
「へ?」
 その指摘に、私は目を見開く。
 嘘つくとき右頬に手をあててるの? 私って。バッ、とその仕草を確認してみるけど、まったく覚えがない。
「あれ、自分でもやっぱり気づいていなかったんだ? フフッ。おれはずっときみを見ていたせいか、幼いころから気づいていたよ」
「!」

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