幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(17)

 それから、どれくらいそうしていたんだろう?
 床に座りこんでぼうっとしていたら、不意にドンドンッ! というけたたましい音に、私はそちらを見た。
 扉の方から? あ、鍵がしてあるんだっけ? きょろきょろと辺りを見わたしてみるけど、私くらいしかまともに動けそうにないから、私が開けないと。
 でも結局、私はその場でドガンッ! という轟音をきくことになった。
「アホ女! どこだ!?」
「……サリュー?」
 部屋の中をみまわしていた彼が、私に気づいて駆け寄ってきた。片膝をつき、目線の高さが同じになった彼に「おい」と切り出される。
「なにがあった? 入口近くに倒れている男もそうだが、あっちの方でセディスまで伸びてやがる。って、アキじゃねえか。なんでこいつが、こんなところで幸せそうに寝てやがんだよ」
「あー……、その辺は私にもよくわからなくて」
 苦笑しながら、私は今の今までここで起きていたことをサリューに話した。
 コロシアムやここで見たきいた(ルーの分ふくむ)の体験談、それらから勝手に導いた私の予想、セディスの豹変、そして登場したフラグクラッシャーのヒーローのことを。
 赤い瞳を細めたり見開いたり、サリューは表情ゆたかにきいてくれていたけど、最後には「マジかよ……」と額に手のひらをあてて首をふっていた。
「んなことがあったのかよ。またセディスのやつ、めんどくせーことしやがって……!」
 吐き捨てたサリューは、私にむかって目を伏せるように小さく頭をさげた。
「悪かった。一人にして」
「ううん、平気です。それに、我慢できなくて挑発しちゃったのは私だしね。それに、間一髪でヒーロ……じゃなくて、秋斗くんが助けてくれたから」
 「そうか」と、サリューが嘆息する。
「こっちもこっちで、いろいろあってな。町長をしめあげていったら、この屋敷の地下に何人もの女たちを幽閉していることを白状しやがった。この辺で頻発していた神隠しにも、あいつらが関わっていたってこった。おそらく、入口の男がさがしていたのもその女たちだろうよ」
 サリューのため息交じりの説明に、私は「そうだったんだ」と返した。
「見つかってよかった。でも、なんで女の人たちばかりを狙っていたの?」
「奴隷としての価値は、男よりも女の方が上だからな。売りさばくなら、断然若い女だろ。器量もよければ、値はさらに跳ねあがる」
「う……、そういうのが普通にある世界なんですね」
「表むきにはねえから、安心しろよ。それに今回の件に関しては、町長の野郎が泣きながら言ってたぜ? 『自分専用のハーレムを、作りたかっただけなんですぅうう』ってな」
「うげ……」
 ドン引きして顔をひきつらせる私に、サリューはひょいと肩をすくめた。
「セディスがどこまで介入していたかはあとで確認するとして、とりあえず解放はしておいたから、もう大丈夫だろ。落ちついたら、そこの入口の男もひっくるめて集落に帰してやるさ。それにしても――」
 「ククッ」ともらされた楽しそうな笑いに「?」と首を動かせば、サリューのからかいたっぷりな視線とぶつかる。
「おまえら、なんだかんだで仲良くやってんじゃねえか」
「へ?」
 意味ありげなサリューの目が、私と秋斗くんの間を交互に行き来する。
 ……はっ。今さら気づいてしまった。
 つい、自然にやってしまっていたけれど、私たちの今の状態ってはたから見れば……!
 一気に体温があがってしまった私は、かぶりをふりながら必死にいいわけを探す。
「ここ、これは……っ、昔のくせというかなんというか、なんとなく流れで……!」
「クククッ」
「もう、サリュー!!」
 全然きく耳をもっていなさそうなサリューに、私は立ちあがった。
 ゴンッという落下音。あ。
 私が見おろすと、うしろ頭を押さえながら上半身をゆるゆると起こす秋斗くんの姿。
「……つっ」
「よお、アキ。お目覚めか? こんなところで女の膝枕で昼寝とは、いいご身分じゃねえか」
 笑いながら、サリューが言う。
 ひ、膝枕……あらためて言葉にされると、超恥ずかしい……
 内心OTL状態におちいって、私は二人から顔をそむけた。
「……サリュー? なんで、きみがここに?」
「それは、こっちのセリフだ。オレはイレイズにおまえの代わりにそこのアホ女を護衛しろって言われて、嫌々来させられたんだよ。ちっとばかり席をはずしている間に、その対象を危険にさらしちまったようだし、これでお役御免だな」
 ボリボリとたてがみをかいていたサリューが、その手を秋斗くんにむけるのがチラと見えた。
「ま、もともとおまえの役目なんだから、あとはおまえが引き継げよ? オレは先に、セディスを連れて国に戻るつもりだ。町長と同じく、いろいろ話してもらわないと。なあ?」
 床に沈んだままのセディスに一瞥を投げてから、サリューは秋斗くんの胸元を指先でついた。「いいか?」と念押しをするように言う。
「体調を完全に治してから、戻ってこい。んな青白い表情で覇気のまったくねえツラ、中途半端な状態で帰って来られても、こっちはいろいろ迷惑なんだよ」
「……うん。わかった」
「じゃあな」
 手をふりながら去っていく背中に、「サリュー」と秋斗くんが声をかける。
「ありがとう」
 その言葉に返されたのは、サリュー特有の舌打ち。秋斗くんが、フフッと笑った。
 普通にきいていると険悪そうな会話なのに、なんかいいな、こういうの。少しだけうらやましいものを感じていると、「あっ」と藍色の瞳がこちらに流されてきた。
 私の鼓動が思わずはねあがって、それに同調するように背筋が勝手に伸びてしまう。

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