幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(12)

 私は、あらためて疑惑の主催者に目をやった。茶色の長い髪を一つにくくった、そこそこカッコイイ容姿の――あれ? よくよく見たら、あのひとって……
「おい、アホ女」
 サリューの呼びとめを適当に流して、私は二人に駆け寄った。
 やっぱりこのひと、見たことがある!
「あなた、あのときのタル男!」
「あなたは――、御使い様! こんなところで、お会いできるなんて」
 そう、あれは私がこの世界にきて間もないころ、おそわれた大きな犬の魔物から助けてくれた恩人だった。
 なんで、こんなところに? というか、この人が例の主催者だったの?
 驚いた表情で私を見あげてた彼は、すぐさま床にこすりつけるほどに頭をさげてきた。
「あのときは、守りきれずに申し訳ありませんでした。ご無事で、本当によかった! ですが、タル男って?」
 顔をあげて首をかしげてくる彼に、私は「あ、すみません」と返す。
「それはこっちの話です。というか、普通に話せたんですね」
「え?」
「あ、それもこっちの話です」
 もう慣れてしまったけれど、当時、言葉が通じなくて苦労したんだよね。
 この人は、確かそう。『心が折れてしまえばよかったのに』を、延々と繰り返していた。
 今となっては不思議現象で私の中では片づけてあるけど、なんで言葉が通じるようになったのかはいまだに判明していないのよね。
 「そこのあんた」と、高めのハスキーボイスが耳をうった。
「いきなり割りこんできて、マジで失礼系の女だね。あんた、だれ?」
 鋭いレモン色の眼差しが、私をジロッとにらみつけてくる。
 うわっ私より身長低いのに、この子の目力……! すごい威圧感。
「急に……、すみません。私、相原美結と言います。えっと、体調をくずした秋斗くんのかわりに、こちらへ来させてもらいました」
 ペコ、と私はお辞儀をする。
「アキト? ああ、あのむかつき系新人ね。へえ……」
 む、むかつき系?
 ちょっとだけムッとなった私の前後左右をゆっくりとまわりながら、例の半端ない目力をもった男の子は、カツンカツンと革靴の音をひときわ高く鳴らしていく。
「ふう~ん?」
 私の前に戻ってきたと思ったら、持っていた棒のようなものをつきつけてくる。
 棒じゃなくて紐みたいなものがつながっているけど、あれって……鞭?
「ザッと見てやった系だと、なんのとりえもなさそうな普通の女じゃん。あんたみたいな一般人を寄こしてくるなんて、ボクも随分となめられたものだなあ。ボクの頼みを、なんだと思っている系なんだろうね? あの新人君は。新人のくせに、マジで生意気系」
 カチン、ときたけど我慢我慢。
 両目を閉じて息をはいてから、私は再び目をあけた。
「……秋斗くんは、具合の悪いままここに来ようとしていました。それを無理に止めたのは、私です。非難するなら、私にしてください」
「あ、そうなんだ。せいぜいボクの足を引っ張らないように、意味のない努力系とかしてがんばってね」
「……はい」
 コク、とうなずく。
 足音がきこえて確認すると、背後にサリューがいた。その顔は少し、いつもよりも不機嫌そうだった。
「サリュー、あんたも来ていたんだ。感謝して欲しいなあ、ボクがここで渦巻いている系の悪の根源を絶やしてあげるんだからさ」
「……本当にそいつが元凶だったらな、セディス」
「当たり前じゃん。ボクに限って、そんな間違う系なんてあるはずがないよ」
 自信満々にそう言って、目力がすごい男の子――セディスくん? でいいのかな? 年齢的には、私と同じくらいに見えるからいいよね。セディスくんは、ベレー帽をかぶりなおす。
 私の右手が、グイと下に引っ張られた。
「御使い様、信じてください! わたしには、まったく身に覚えがないんです!」
「えっと……」
 私は困って、元・タル男さんを見る。
 真っすぐな眼差しに、助けてもらったときもそうだったけど、そんなに悪い人には思えない。
「わたしはあの男に『村の女たちの居場所がわかった系だから、案内してあげるよ。ついてきて』と言われただけなんです!」
 村の女たち?
 そういえば、この人に連れていかれた集落には、年齢層はさまざまだったけど男の人しかいなかった。しかも、全身黒ずくめで怪しすぎることこの上なくて。
「わたしの村では、ある時から女たちが一人また一人と失踪しだして、今ではもう一人も女は残っておりません。その原因と女たちの行方を追っているうちに、あの方の御使い様をあの場所に連れていけば、どんな奇跡でも起こしてくださるという情報を手に入れました。御使い様とお会いできたのは、あの方のお導きだとどんなに喜んだことか」
 状況がまったく理解できない裏で、そんなことがあったんだ。
 秋斗くんもこの辺りで神隠しが頻発しているとかって、言ってたわね。もしかして、関係があるのかな?
 もっと話をきいてみようと口をひらいた私を、「そろそろ、いい系だよね」とハスキーボイスがさえぎってきた。
「とりあえず、このままじゃ拉致があかない系だから、本国に連れ帰ってたっぷりと尋問してあげる。ボクのコレクションを一つ一つ試してあげたら、嫌でも話をしたくなる系だろうし」
「ちょ、ちょっと待ってください! この人、そんなに悪い人じゃないと思うんですけど」
「マジでうるさい系だね、あんた。ボクが決めたことに、いちいち口を出さないでよ」
「で、でも」
「ボクの足を引っ張らないで、て言ったことすら覚えていない系? だから、馬鹿な女は嫌いなんだ」
 元・タル男さんを無理矢理引きずっていくセディスくんを、私はあわてて追う。入口近くで急に立ち止まられて、私もつられて足をとめる。
 ニヤ、とセディスくんの口元がつりあがった。
「あれ、町長さん。いいところにきた系だね、少し手伝ってよ」
 町長?
 そう呼ばれたのは、ちょうど入口からはいってきた小太りな男性だった。つるっとしたてっぺんが、学校の教頭先生みたいで哀愁を感じさせてならない。人のよさそうな笑みが、丸っこい顔にひろがった。
「はいはあい。もちろんです、セディス様」
 近づいていった町長さんに、セディスくんが何事か耳うちをする。
「――いい系?」
「はいはいはあい、かしこまりました。相変わらず、ぬかりのないお方ですね。心より敬服いたしますよ、ヌホホホホ」
 ヌホホホホ?
 町長さんって、すごく特徴的な笑いをするのね。きいたことないや、ヌホホホホなんて。
 ん。あれ? でもこの笑い方、どこかで……
「さっさと行くよ。町長さん、そっち側もって」
「ヌホホホホ!」
「み、御使い様!」
 必死な形相で私を見る、元・タル男さん。
 こ、困ったな。
 私がためらっているうちに、ムッとしたセディスくんが彼に鋭く言いはなった。
「うっとうしい系だから、そろそろ黙ってなよ」
「ぐっ……!?」
 セディスくんの流れるような手刀が、元・タル男さんの首裏に見舞われる。短いうめきと一緒に崩れ落ちた彼を、ズルズルとセディスくんと町長さんが連行していく。
 ど、どうしよう? 助けてもらったんだし、お返しはしたいけれど。でも、彼が無実だっていう証拠はなさそうだし……
 ミツカイ。そういえば、さっきもそう呼ばれた。それって、お団子かなんかの種類の名前だっけ? それはミタラシかって、このくだり、前にもやった!
 その瞬間、私は三人の方を指さしながら「ああああああ!」と叫んでいた。

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