幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(8)

「あなたの気持ちは、よくわかったわ。ティグローでの情報は、確かにこちらとしても有用になりそうだもの。あなたにも、危険のない範囲で手伝ってもらうことにする。ミユちゃん、どうかあなたの力を私たちに貸してちょうだい」
「は、はい!」
 元気よく返事をしてから、私はホッと胸をなでおろした。
 これで、役に立てるのかな? それが、ちょっとだけ嬉しかった。
 「でも」とイレイズさんの人差し指につられて、私もそちらに目をむける。とびこんできたのは、仏頂面で片目をあけたサリュー。
「やっぱり、一人で行動してもらうのは心配だから。サリュー」
「……あん?」
「あなた、ミユちゃんの護衛をお願い」
「あ、いえそんな結こ――」
「はあああ!? 冗談じゃねえ! なんでオレが、こんなアホ女の護衛なんてしないといけねえんだ!?」
 丁重にお断りしようとした私を指さしながら、サリューが声を荒らげてくる。
 私が少しだけムッとしていると、イレイズさんがやんわりと間に入ってきた。
「アキトのかわりに、守ってあげて」
「だから、なんでオレがアキのかわりをしないといけねえんだよ!」
 ツカツカツカ、とこちらに大股で歩み寄って来たかと思えば、バン、とイレイズさんの机を激しく叩くサリュー。荒々しいその行動に物おじすることなく、イレイズさんは「だって」とこたえた。
「あなた、暇でしょう?」
「暇じゃねえよ! てか、おまえがやればいいじゃねえか。同じ女同士の方がいろいろやりやすいだろうし、アキにも変な誤解をされなくて済む」
 変な誤解って……、なに?
 誤解をされるようなことなんて、したっけ?
 心当たりをさぐりながら?マークを浮かべていると、イレイズさんが小さく息をついた。
「そうしたいのは山々だけど、団長の留守に副団長の私までがここを空けるわけにはいかないでしょう?」
「それも、おれがここに残っていればいい話だ」
 サリューをジッと見たまま、イレイズさんが右手を頬にそえる。
「私、あの子が嫌いなの。それこそ、虫唾が走るくらいに。めんどうなことに巻きこまれるのがわかっているのに行くなんて、私には耐えられない」
 む、虫唾!?
 優美な雰囲気のイレイズさんからそんな言葉が発せられるとは思ってもいなくて、私はぎょっとしてしまう。
 というか、めんどうなことに巻きこまれるのって確定なの……?
「チッ。てめえが耐えられないようなことを、オレに押しつけてくんじゃねえよ。んなの、適当にあしらってやればいいじゃねえか。得意だろうが、そういうの。つーか、てめえの勝手な好き嫌いに無関係なオレを巻きこむんじゃねえよ」
 いらだったように、サリューが言い放つ。
 イレイズさんが椅子から立ちあがり、ゆったりと腕をくんだ。
「無関係だなんて、同じエレメンタルナイツの仲間でしょう? 困ったわ。なら、団長の押印つきの正式な命令書状を準備するから、ちょっと待っていてもらえるかしら? 確か、ここの引き出しに――」
 そう言って、イレイズさんが移動していったのは隣の大きな執務机。彼女の人差し指が、ボタンを押すように宙をなぞっていく。
 「だああああ!」というサリューの大声が、その場にひびきわたった。
「てめえっ、その仲間相手に今度は職権乱用の上に脅迫までしてくんのかよ!!」
「いいえ? 私はただ、なるべく穏便にことを済ませたいだけ。だから心苦しいけれど、こうするしかないと思って」
 チラ、とイレイズさんの意味ありげな一瞥がサリューに投げられた。
 ぐっ、とサリューが言葉につまる。はあああ、と長くて重い嘆息が彼からもれおちていった。
「……だれの心が苦しいんだよ、だれの」
「私に決まっているわ」
「そんなわけあるか! ああくそっわあった、わあったよ! やればいいんだろ、やれば!? チッ、アキの野郎、めんどくせえもん押しつけてきやがって! ……たく、今回だけだからな!?」
 投げやりっぽく叫んだサリューが、自分のうしろ髪をガシガシとかきまわす。「おい、イレイズ!」と髪から離した指をイレイズさんにつきつけて、さらに続ける。
「アキがまた変な誤解しやがったら、おまえがなんとかしろよ!?」
「さっきも言っていたけれど、サリューあなた、アキトに変な誤解をさせたの? それってまさか、ミユちゃんに――」
「ちげえよっ! こんなアホ女、そもそも女とも思えねえし興味もねえ!! あいつが勝手に誤解しただけだ!!」
「そう? かわいいじゃない、ミユちゃん。アキトもサリューも隅におけないわね、ふふ」
 突然のイレイズさんの流し目に、私の肩がはねあがる。
「イ、イレイズさん……!?」
「だからっ! なんでそこに、オレまで含められんだよ!?」
 非難が、バンバン! という激しい音になって、イレイズさんの机からはなたれる。
 その威嚇にもまったくひるむことなく、彼女はニコッと私にほほえみかけてきた。
「それじゃあ、ミユちゃん。あなたの用意が整いしだい、サリューと一緒にティグローへむかってくれるかしら。そこで私たちの仲間と合流してもらって、その後の指示に従ってちょうだい。絶対に無理は禁物よ」
「は、はい。わかりました……けど」
 チラ、とサリューをうかがいみれば、あきらかにいらだちマックスなその顔。
「スルーかよ! ああくそっ、めんどくせえ! おら! とっとと行くぞ、アホ女」
 たてがみをかきむしりながらさっさと歩き始めるサリューに、私はあわててしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよ、サリュー」
「くれぐれも気をつけてね、ミユちゃん」
「オレがついていってやるんだから、心配なんかいらねえよ。危険なんてあるか、くそっ」
 足をとめたサリューが、背中越しに鋭い瞳を流してくる。
 あ、イレイズさんに挨拶しておかないと。そちらをむいた私を、彼女が真剣な表情で見てきた。
 な、なに?
「見てのとおり――、サリューは狼だから」
「はあ!? なんだそりゃ!」
「あ、ははははは……」
 私は、苦笑するしかない。
 えっと。もしかして、男は狼なのよとかいうやつですか?
 まあ、私は女と思われていないらしいから、その辺は問題ないだろうけど。
 イレイズさんをにらみつけていたサリューが、舌打ちと同時に荒っぽい動作で部屋を出ていく。
 バタン! と激しくしめられた扉にはじかれて、私はイレイズさんにペコと頭をさげると、サリューのあとを追っていった。

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