幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(6)

 私が首をかしげると、クレスさんが横に赤紫の瞳を流した。つられてそちらをむいた私の視界には、銀色の毛並みが美しい枕サイズの犬っころがうつる。って、もしかしなくてもこの犬は!
「ルー!?」
「げっ! 貴様は、ド貧民のペタコ!?」
「ペタコじゃない! そのうち、しっかりと成長予定なんだってば!」
「なら、とっととその成長とやらを今すぐに見せてみるがいい!」
「よ、予定だって言ったじゃない! 予定は未定よ!」
「ヘッ! そのまま、未定で終わらないといいがな!」
 きぃいいい!
 相変わらずの上から目線の、上からの態度! 小動物のくせに、生意気すぎる!
「おや? 二人は、お知り合いだったのですか? それにミユミユ、あなたはこの子の言葉がわかるのですね」
 間に入ってきたクレスさんに、私は首を縦に動かした。
「言葉は、なぜかわかるようになっていて。それに知り合い、というよりもあっちが勝手についてきたんです」
 ビシッ、と私は指をつきつける。
「勝手に? フフッ。それは、一種のストーカーじゃありませんか」
「だれがストーカーだ、だれが!」
「でもこの前、一匹でどこかに行ってしまったから、そのあとは特に気にもしていなかったけれど、元気そうでよかったわね」
「なんで完全に他人事なんだよ! そこは気にしろよ、少しくらい!」
 なんか吠えてくるけど、スルースルー。
 あ、ルーがここにいるってことは、もしかしてクレスさんがルーの飼い主ってこと?
「クレスさんってルーのご主人様……、つまりはカレー好きだったんですね」
「はあ!? こんなやつ、ご主人様じゃないわ!! こいつは、ただの――」
「カレー、ですか?」
「クレス! 貴様、オレ様のセリフにわざわざかぶせてくるんじゃない!」
「あ。いえ、こっちの話です」
 しまった、この世界にカレーなんていう料理があるはずがなかった。
 私はあわてて、話題を変える。
「あの、預けるって言われましたけど、なにかの役にたつんですか? この子。前も助けてくれようとして、何度も未遂に終わったことがあるんですけど」
「でしょうね。見た目通りの、役立たずですから」
「おいこら、ペタコにクレス!! 言うにコト欠いて、このオレ様になんたる口のきき方だ!?」
「役には立たないでしょうが、非常食くらいにはなるはずです」
「……まずそうですね」
「ええ。肉つきも、あまりよくないでしょうしね」
「おい!」
「まあ、この駄犬はどうなってもかまいませんが、ミユミユは無事に戻ってきてあげなさい。アッキーのためにも」
「どうなっても、だと!? クレス貴様、さっきの非常食あつかいの無礼に加えて、オレ様がこの世界から消滅するとどうなるかわかって――」
 息まいてなにかしらルーがわめき出したけど、再びスルースキル発動。
 私は視界から犬っころを完全にシャットアウトすると、クレスさんにむき直った。
「……でも」
「それが、今のあの子の願いですから」
 優しくほほえまれて、私は小さくうなずいた。
「……がんばり、ます。あの、秋斗くんは?」
「ミユミユが出ていってすぐに、糸がきれたように眠ってしまいましたよ。起きてから、かなり無理をしていたようですね」
「そうなんですか」
 やっぱり、無理をしていたんだ。
 さっきも追いかけてきそうな勢いだったし気になっていたけど、寝てしまったのならよかったのかな?
 秋斗くんのことを弟子だと言っていたし、秋斗くんもこの人を親しく呼んでいた。任せておいたら、きっと大丈夫。
「秋斗くんのこと、よろしくお願いします」
「ええ。あのままゆっくり休めば、もう大丈夫でしょうから。こちらのことは気にせずに、いってらっしゃい」
「はい。いってきます」
 私は引き締めた表情でクレスさんに告げてから、辺りをみわたした。
 お城は、どこだっけ? イレイズさんかサリューに秋斗くんの状況を連絡して、ティグローの詳しいことをきいてみなきゃ。
 白々と明るくなっていく木々の奥、目当ての大きな建物はすぐに見つかった。あそこを目指していけば、戻れるはず。
 私は、ゆっくりと歩き始めた。
「――なんだからな!?」
「おや。ようやく終わったのですか? ミユミユなら、ほら。先に行ってしまいましたよ? あなたが、いろいろと戯言を並べている間にね。ええっと――、ラーでしたか?」
「ちがうわ!」
 クレスさんとルーの、掛け合いのような漫才。
 それに耳だけをかたむけながら、私は静かに彼らから遠ざかっていく。
「ああ、すみません。リー? レー? ロー?」
「ものの見事に間だけを抜かしていきやがったな、貴様。言っておくが、オレ様の御名はその間の文字をちょっとだけ伸ばしてみました的なやつじゃないからな!? つーか、貴様も知っているだろうが!」
「ミユミユには構いませんが、他の人間の前ではあまりしゃべらないように」
「わかっているわっ! って、なにサラッと話題を変えやがった!?」
「いろいろ、わかっていますね?」
「わかっているわっ!」
「ほら、いいんですか? 早くしないと、ミユミユに完全に置いていかれますよ?」
「わかって……っなんだと!?」
 あ、気づかれてしまった。
 案の定、トテトテトテと小走りでこちらに駆け寄ってくる足音と「おいこら!」というハイトーンなボイスが追いかけてきた。
「待ちやがれ、ペタコ! またオレ様を置いていくなど、断じて許されることじゃない! 貴様なぞについていってやるんだから、もっとオレ様をうやまって丁重にあつかうべきだろうが! そもそも貴様は……ってきいてんのか!? ちゃんときけよ! おい、きけって! 頼むから……、きいてください!!」
 えらそうにわめいていたのが、徐々に懇願の形になっていく。
 私は「ぷっ」とふきだすと、歩くスピードをちょっとだけゆるめてあげることにした。

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