幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(5)

「ミユミユは、実に素直でかわいらしいお嬢さんのようですね」
「ち、ちが……っ!」
 否定するけど、そのあとの言葉が考えつかずにつまってしまう。どうしようもなくなって目をそらすと、次に待ち受けていたのは不思議そうな藍色の瞳だった。
「美結さん……?」
「な、なんでもないの! なんでも!」
 懸命に首と両手をブンブンふると、私は椅子にすわったままクルと秋斗くんに背をむけた。
 なにこれ、めっちゃ頬が熱いんですけど……!?
「美結さんには悪いけど、今回の作戦でおれが抜けるわけにはいかないんだ。せっかくあの町で――ティグローで首謀者らしき人物を発見したって、先輩から報告があったんだから」
 ティグロー? 首謀者? 先輩?
 私は、何事もなかった風をよそおってふりかえった。
「秋斗くん、ティグローって?」
「ティグローは……、美結さんと再会できた町の名前なんだ。そこでおれは、騎士団のもう一人の先輩と一緒に、町やコロシアムの内情をさぐっていたんだけど……」
 秋斗くんは息をはくと、気だるげに前髪をかきあげた。
 ポツリポツリと、話してくれる。
「先輩は、おれより年下なのにすごいんだよ。あの町で、違法な賭博行為をふくめたバトルロイヤルが年に数回行われているって情報をつかんできてくれて。あ、バトルロイヤルってわかる? 美結さん」
「あ、うん。なんとなく」
「それが行われるたびに、相当な額が裏で取引されているらしいんだ。その資金は――、そんなにきれいなものじゃない。それに加えて、あの辺では神隠しも頻発しているらしくて。その二つが関わっているかはまだわからないけど、バトルロイヤルを取り仕切っている首謀者をさがして、根源から潰そうとしていたんだ。でも、なかなかしっぽがつかめなくて。そんなときに、先輩の計らいでおれがうまくバトルロイヤルにもぐりこむことができた。そのときに主催者らしき人物も目にしたから、バトルロイヤルが実際にあったことも含めてさらにさぐりを入れる予定だったんだ」
 えっと……
 説明してくれたのはありがたいんだけど、そんな機密情報みたいな内容をエレナイとは関係ない部外者に、こんなペラペラとしゃべっちゃってもよかったの?
 それだけ、私を信用してくれているってことかもしれないけれど。なら、私も力になってあげたい。
 バトルロイヤル。
 確か、あの牢獄から出されたあとに連れていかれたコロシアムで、行われた殺し合い……よね? いろんな化け物や魔物たちの争いを、ギャラリーの――なんだっけ、ええっと。信号機、じゃなくて信奉者? たちが観戦していたのよね。もしかして彼らが、賭博行為を?
 じゃあ、首謀者って、もしかしてあのあやしい黒ローブを着ていた男? それなら、私も知っているし情報提供できるかも。
「そのコロシアムで、バトルロイヤルが行われていたことを証明したらいいの? あと、主催者の特定も。なら、私が秋斗くんの代わりにティグローへ行く」
 私のそのセリフに、秋斗くんの藍色の瞳が見開かれていく。
「な……っ! なにを言ってるの、美結さん!? そんなの、頼めるわけないじゃないか!」
「私なら平気よ。だって私、そのバトルロイヤルの賞品にされていたんだもの。これ以上ない証拠になるはずよ? 関係者らしい人たちの顔も、ちゃんと覚えてる。戦いに参加するわけじゃないなら、私でも大丈夫なはずよ。秋斗くんはここでゆっくり休んで、しっかり治して」
「だ、駄目だ! きみを、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかな……っつ!」
 ベッドから飛び起きようとした秋斗くんが、そのまま崩れ落ちていく。思わず支えようと手を伸ばしかけたけど、私はあえて彼に背をむけた。
「クレスさん。秋斗くんを、お願いします」
「ええ、もちろんです」
「待って、美結さん! クレッシー、彼女をとめてくれ!」
「おや、困りましたね。これは、板挟みというやつでしょうか。ミユミユ、そういうわけですから、一応やめておきなさいと忠告させてもらいますよ?」
「ごめんなさい、クレスさん。でも私、もう決めたんです」
 立ちふさがったクレスさんにはっきりと告げてから、私はうつむいた。
 だって、もともと――
「もともと秋斗くんをこんな風にしたのは、私のせいだから」
「! 美結さん、それは……っ」
「それもまた、『贖罪』というやつですか?」
 秋斗くんを引き継ぐように、クレスさんがたずねてくる。
 私は少しだけ考えてから、首をふった。
「……いいえ。ただ、私も秋斗くんの役に立ちたい。だからこれは、私の『意志』です」
「そうですか」
 目元を細めてうなずいたクレスさんの横を通り抜けて、私は出入り口にすすむ。
「美結さん!! ダメだ、きみはおれが……っ」
「――、――――さい。――ト」
 歩き始めたうしろで秋斗くんの絶叫に近い私を呼ぶ声と、息がつまるような音。そしてクレスさんの、ききとれない静かな声。
 急におちた静寂にふりかえりそうになるけど、私はそれをグッとこらえて外に出た。真っ白につつまれた周辺と、きれいに晴れた空、そして昇りかけの太陽をながめているとうしろから呼びとめられた。
「お待ちなさい、ミユミユ」
「クレスさん? あの、引き留められても私の意志は変わりませんけど」
「まさか、そんな無粋なことはしませんよ。ただ、わたしも影ながらあなたを応援したくなったのです。この子を、あなたに預けさせてください」
「この子?」

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