幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(4)

「美結さん、だから。きみは、おれのすべてなんだ。理由なんて……、それだけで十分だよ」
「!」
 絶対の信頼が、感情が伝わってくる。変わらない、ずっと前から――幼いころから本当に変わらない。
 どうして、そんなに――?
 このすべてを受けいれてあげるだけの器量が、勇気が、覚悟が、私にはあるのだろうか?
 曖昧にしてきた、はぐらかしてきた、その不安を打ち消すように、私はあわてて話題を違うものにした。
「ね、ねえ。具合は……っどうなの?」
 私のしぼりだすような問いかけに、秋斗くんは「ん……」と吐息をもらしながら自分の額に腕をあてた。
「まだ頭が……、ぼうっとする」
 私はベッドに右手をつくと、それをささえに左の指先を秋斗くんに伸ばした。シャツ一枚の首元に、そっとふれる。やっぱり、まだ熱い。
「なにか飲む?」
「今は……、いいかな」
 はあ、と荒い呼吸がおとされ、二つの藍色がゆっくりと閉ざされていく。
 余裕のなさそうな彼をつい凝視していると、不意に目をあけられて、私の鼓動がはねあがる。
「そうだ……、もどらないと……。美結さんと話すこともできたし……、こんなところで、寝ているわけには……いかない」
 ベッドから立ちあがろうとする秋斗くんを、私はあわてて制しようとした。
「ま、待っ」
「待ちなさい、アッキー。その弱りきった身体で、どうしようと言うのですか?」
 横からはさまれたおだやかな制止に、私はそちらをむいた。
 いつの間にか部屋に入ってきていたらしいクレスさんが、赤紫の瞳で秋斗くんを見おろしていた。彼を目にした秋斗くんの表情が、一瞬で驚きのものに変わる。
「クレッシー……!? どうして、ここに? そっか……、見たことがある場所だと思ったら、ここはクレッシーの……」
 秋斗くんが、大きく息をつく。
「ごめん、クレッシー。でも、行かないと。これは、おれ自身が決めたおれの仕事だから」
 つらそうに顔をゆがめながら、秋斗くんは微笑する。それはまるで、苦境にたたされてもなお希望を失わないヒーローのようで。
 でも! これだけは! これだけは、心の中ででもいいから言っておかないと気がすまない!
 『クレッシー』って呼ぶ人が、こんなに身近にいたなんて思いもしなかったんですけどおおお!!
 ……よし、一応スッキリ。
「ねえ、秋斗くん。仕事って、エレメンタルナイツの?」
「うん。与えられた仕事や任務は、最後まで責任をもってやりとげなさい、て前に美結さんにも言われたし……ね。美結さんに、これ以上嫌われたくないから……だから……」
 私は前髪をかきあげて、嘆息した。
 いつから、こんな仕事命! の熱血野郎になっちゃったのよ。しかも理由が、私に嫌われたくないからって。もう、子供じゃないんだから。
 そもそも、いつだれがきみを嫌ったって言うのよ。まったく……
「こんな体調が悪いときまで、無理してやる必要ないでしょうが」
「おれなら大丈……つぅ」
「ほら!」
 フラ、とよろめいてくる秋斗くんを受けとめれば、その顔は蒼白で汗ばんでいた。ベッドに戻そうとする私の手が、秋斗くんにやんわりととめられる。
「大丈夫、だから……。ありがとう、美結さん」
 そう言って、ほほえんでくる秋斗くん。いつもとは違う生気のうすい微笑に、私はボソリとつぶやいた。
「――その手にはのらないんだから」
「その手って……?」
 ベッドのヘッドボードに背をもたれさせた秋斗くんが、たずねてくる。
 私はムスッとしながら、椅子に座りなおした。
「だって、今のきみにキラキラ笑顔をされようがなにされようが、いきなりかたまっちゃうこともないし、心臓がバクバクすることもないし、全然平気。余裕のよっちゃんだもの。だから、その手をつかって強引に行こうとしても、そうはいかないんだから」
 秋斗くんの疑問に、嘆息しつつスラスラと答えていった私。
 秋斗くんが、いぶかしげに眉根をよせる。
「美結さん。それ……、どういうこと?」
 ん? 私、なにか変なことを言ったっけ?
「そうしようとしていたんじゃないの? だって、いつもいつもそんな感じにはぐらかして、こっちのことはお構いなしに勝手にいろいろ進めちゃうでしょうが」
「そんな感じって? おれ、身に覚えがないんだけど……」
「あれ?」
 首をかしげる私に、「フフフッ」という笑い声がきこえてきた。
「はっ……」
 クレスさんの声だと理解したとたん、私は硬直してしまう。
 相手が秋斗くんだったからつい油断してしまって、いつもなら思うだけで終わっていたことを、ペラペラとしゃべってしまったような――
 恐る恐る入口の方を見れば、そこにいたクレスさんにクスッと意味深に唇をゆるめられた。

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