幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(20)

「どこに、行っちゃったんだろう」
 足を動かしながら辺りを見渡してみても、目的の人物はどこにもいなかった。
 すれ違うお城の人に話をきいて懸命に行方を追うけれど、会う人会う人に『さっき、黒髪の“ミユサン”という方を探しておられましたよ。そういえばあなた、その方に似ていますね』そう言われてばかりだった。
 有力な情報もないまま、私はひたすら走り続ける。どこをどう来たのかわからないけど、気づけば私はお城の出入り口にやってきていた。
 大きな両扉を守るように左右に立っている、分厚い金属鎧に身を包んだ兵士さんにも声をかけてみることにした。
「あの、すみません。エレメンタルナイツの――」
「あなたは確か、アキト様のお連れの方ですね。先ほど、ご一緒に戻ってこられるところをお見かけしました。もしや、アキト様をお探しですか?」
「は、はい」
「アキト様なら、先ほど城下町の方へ行かれましたよ。ぼうっとされていて、どこかご様子がおかしいような感じは致しましたが」
「そうなんですね。ありがとうございます!」
 手がかり、ゲット!
 私はお礼と一緒にペコとお辞儀をすると、急いで城下町の方に移動する。
 城下町と一言で言っても、その範囲はすごく広い。しかも私の知っている場所といえば、さっきエリーに連れていかれたカフェと、昨日秋斗くんに引きずられていった――
『おれのお気に入りの場所なんだ』
「あ……」
 脳裏にひびいてきたセリフに確信はなかったけれど、私は記憶を頼りにその場所へ向かうことにした。
 まずは市場、市場を目指さないと。嗅覚総動員で、市場には案外簡単につくことができた。さて、ここからが難題。だけど――
 キュルルル、と返事をするように鳴ったお腹に私は手をあてた。
「ここは、ある意味地獄だわ……」
 前後左右から、おいしそうなにおいたちが私を誘惑してくる。今、ランチタイム時くらいなのかな? だから、気合が入っているのかもしれない。いろいろとふりきって、私は突き進んでいく。
 嗅覚や欲求を刺激しないようにはしていたけど、一度意識してしまうと――
 キュルルル、と情けない返事がまた鳴り響いた。
「あんこ飴、残り二個しかないけど……」
 ええい、背に腹はかえられない!
 早く秋斗くんを見つけて、話をしないといけないんだから。なにを話していいか、全然まとまっていないけど!
 ポケットからあんこ飴を一つ取り出して、口へはこぶ。大好きな甘さにとろけそうな頬を引きしめて、私は息をととのえてから再度走り始めた。
 迷って、さまよって、心が折られそうになりながらもなんとかたどり着くことができた先で、私はようやく彼を見つけることができた。ぼうっと、うつろな藍色の双眸を空へと流している彼に駆け寄っていく。
「秋斗くん!」
「……美結、さん。ど、して」
 私をとらえた瞳が驚愕に揺れるけど、すぐさまそれは痛みをこらえるようなものへと変わった。気のせいだろうか、秋斗くんの顔立ちがいつもよりも青白く思えてしまう。
「ごめん……、おれ、美結さんのこと……ほ、とに……」
「私こそ、ごめん! ごめんなさい……! 私、あなたのことを傷つけるつもりはなくて、あのね――」
「っ」
「秋斗くん!?」
 フラ、と突然倒れこんできた長身をあわてて抱きとめると、衣服の上からだというのに伝わってきたのはありえないほどの熱さだった。え、と驚く間もなく、すぐに支えきれなくなってしまった私は、できる限りゆっくりと両ひざをつく。
「どうしたの? しっかりしてよ、秋斗くん。……秋斗、くん?」
 呼びかけても、返事はない。私に覆いかぶさるように脱力したまま、荒い呼吸だけが短くくりかえされていて、苦しそうなその様子に私は彼の背中を必死にさする。横目でとらえた彼の頬はさっきよりも蒼白で、両目はかたくとざされていた。
「ねえ、秋斗くん。秋斗くん!」
 尋常ではなさそうな秋斗くんの状態に、私は何度も名前を口にする。だけど彼がその藍色の瞳をあけて、いつものようにほほえんでくれたり、照れながら話をしてくれたりすることはなくて。
 ただ、何も言わない風だけが、私たちのそばを冷たく吹き抜けていった。

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