幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(17)

 だれ、あれ。怪しい。この上なく、怪しすぎる。
 フォークの動きはとめないまま、私はエリー越しにその人物をチラチラと観察し始めた。
 あ、きょろきょろしながら、こっちの方に歩いてきた。
「ちょっとあんた、さっきからなに――」
「――げっ! アホ女と猫かぶり姫!?」
 エリーのいらだった声と、灰色ローブのあわてたような声がかさなった。
 あれ? 今のって……
「その声とその単純明快な呼び方は、もしかしなくてもサリューですよね?」
「うぐっ」
 私の指摘に、声をつまらせる灰色ローブ。
 エリーが大きな瞳をまるくして、「サリューですって?」と灰色ローブをのぞきこんだ。
「あんた、こんなところでコソコソとなにやってるのよ。しかも、なにその怪しい格好」
「うっせえ、てめえらには関係ねえだろうが。ああくそっ! せっかくここまで来たっつーのに」
 サリューのボソリとしたつぶやきと舌打ちが、きこえてくる。
 あ……、そっか。もしかして、と私の視線が今まで堪能していたお皿(完食済)へとうつる。
 荒々しい靴音と一緒に身をひるがえして去っていくサリューと入れかわりで、見たことのないおじさんが私たちのテーブルへとやってきた。
「かわいい嬢ちゃんたち、甘いものが好物なんて趣味が合うじゃねえか。一緒にお茶しようや」
「かわいい? 誰がですか? あ、エリーは確かにかわいいですけど」
「はあ!? なな、なに言ってんのよ、あんた!」
 真っ赤になって、否定するエリー。
 そんな彼女の隣の席へ強引にわりこみながら、おじさんは気持ちの悪い笑いを浮かべてくる。
「グヘヘ。ごちゃごちゃごちゃごちゃ、そんなことどうだっていいじゃねえか。三人で、楽しもうぜい?」
「ちょっと! あたしに触らないでよ! せっかくのお気に入りの洋服が、汚れるじゃない! というかあんた、自分の顔を鏡で確認してから出直してきなさいよ! そんな低レベルでナンパしてくるとか、馬っ鹿じゃないの!?」
 え、ナンパ? これ、ナンパだったの?
 生まれて初めてナンパなんてされたけど……、想像していたのと違うなあ。
「ほお、威勢のいい嬢ちゃんだ。グヘヘヘ。それくらいじゃないと、盛りあがらないよなあ」
「! はなしなさいよ!」
 うわあ。エリーにからむ図は、まるで絵にかいたようなセクハラオヤジだ……
 って、感心している場合じゃない。エリーを助けなきゃ。
「あの――」
「おい、そこのハゲたおっさん」
 投げかけられた声に、私もエリーもおじさんも動きをとめてそちらをむく。
 いつの間にもどってきたのか、そこにいたのは灰色のローブに身をつつんだ怪しさ全開の人物。フードからのぞく赤い瞳が、不敵にきらめいた。
「その二人はあいにくと、オレの方が先約ってやつでね。とっとと失せろよ」
「あんだあ、おまえ? オレ様とやるってのかあ!?」
「ハハハッ! そういうの、わかりやすくてすげえいいわ。こっちは、いろいろあってイライラしてんだ。ほら、とっととかかってこいよ」
 バサッ、と灰色のフードがうしろに流される。
 あの、サリューさん。顔、もろ出しになっちゃっていますけど、こんなところで大丈夫なんですか?
「ねえ、あれ……。もしかして、エレメンタルナイツの炎の騎士様じゃないの?」
「え! あの『月間エレナイ通信』先月号の表紙になっていた、サリュー様!?」
「なんで、こんなところに?」
「超かっこいいし!」
 ひそひそ、とまわりから女の子たちの色めいた声がきこえてくる。
 ほら、バレてますよ。エレナイ通信って、意味不明な単語までありましたけれど。
「ぐわあっ」
 ドガラガッシャーン! 無人のテーブルと椅子に、おじさんがふっとばされていく。そこへツカツカツカと、大股で歩み寄っていくサリュー。
 「ひいっ」と叫び声をあげ、おじさんは腰が抜けたのか四つん這いのまま逃げ出していった。
「ああ、くそっ! さっきから、とんだ無駄足ばっかじゃねえか。ったく、ありえねえ!!」
 床をけりながら吐き捨てるように言うと、サリューもまた乱暴な足取りで店から出ていく。
 一気に静かになったその場で、エリーはそれほど動じる様子もなく嘆息した。
「なにしにきたのよ、あいつ。まあ、あんなんでも一応エレナイだし、いいネタにはなったけど」
 エレナイって、さっきの女の子たちも言っていたけど、もしかしてエレメンタルナイツの略? いいネタって……、なんの?
 深入りするとめんどくなりそうだし、やめておいた方が無難かな。あ、そうだ。
 熱心にメモ帳に書きこんでいるエリーには気づかれないように、私は少し離れたところにいたメイドさんに近づいていって、そっと耳うちした。
「あの……、ツケでお持ち帰りとかってできますか?」

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