幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(12)

「……ん」
 まぶたの奥に白い光をうけて、私の意識が浮上する。
 私、いつの間にか眠ってしまったの……?
 目をゴシゴシ、とこすっているとクスッとした微笑が耳をうった。
「おはよう、美結さん」
「あ、はい……。おはよう、ございます……?」
 反射的に、私はあいさつを返す。
 目が覚めてすぐに声をかけられるなんて、どれくらいぶりだろう? 両親が海外暮らしになってからは、朝一人なのが当たり前だったから、すごく久しぶりに――
 って、この声は……!
「……!?」
 ぼんやりしていた意識と視界が、一気にクリアになっていく。
 昨日のダブルベッドに横になっている私とむかい合うように寝転がっていたのは、もちろん――
「な、なななななななな、なななななななんあななななななななんあななな」
「フフッ。美結さん、朝からテンション高いね。いい夢でもみた?」
 ベッドに肘をついて自分の手のひらを枕にしながら、声の主がほほえみかけてくる。
 あ、朝からこの顔は……! あわてて私は、否定をさけぶ。
「ちっ、ちがうし! そんなんじゃないから!!」
「そうなんだ、残念だな」
「ざ、残念? なんで、そんな感情がでてくるんですか!?」
 予想もしていなかった反応に、私は困惑してしまう。いい夢をみなかったから残念なんて、どんだけお人よしなんですか、あなたは。
 声の主――秋斗くんは「だって」と笑いながら続ける。
「その夢におれも出られたら嬉しいな、てちょっと思ったから」
「!」
 ゆ、夢にまで出てきたい、てどんだけ……!? というか、夢にまで出てこられたら、私の心臓がもちそうにないんですけど……!?
 楽しそうに身体を揺らしていた秋斗くんの表情が、フッと真面目なものに変わった。
「むしろ、今のこの状況がおれの夢なのかなって思ってしまうよ。だって、団長にエール酒を何杯かつきあわされてからの記憶がほとんどないのに、気づいたら美結さんと同じベッドで――朝を迎えているなんて、現実にしてはできすぎじゃないか」
「!!」
「夢だからって覚えていないのも……、ほんと残念だな。目が覚めたら目の前に美結さんがいて、頭が真っ白になってしまって、ただずっと寝顔を見つめることしかできなかった、なんて」
 それをきいて、私は心の中で深く深く嘆息してしまう。
 やっぱり、覚えていないわけね。まあ予想通りといえば予想通りの展開だけど、さ。
 今度は本当に吐息をもらすと、秋斗くんの指先が私に伸ばされていることに気がついた。熱を帯びているけど、昨日の夜とは違う藍色の二つの瞳がそそがれてくる。
「夢、なら」
「……残念でした。これは、現実です」
 苦笑しながら、私は近くにあった枕を秋斗くんの顔に押しつけてやる。
「ぶっ。み、美結さん?」
「ほら、これで目が覚めたでしょ? まったく、調子のりすぎ」
 秋斗くんがひるんだ隙に、私はベッドからとびおりた。後ろ髪を手櫛ですき、服を軽くはたく。
 そういえば、とあることが私の頭をよぎった。
「ねえ、秋斗くん」
「ん?」
 私が押しつけた枕を生真面目に元の位置にもどしていた秋斗くんへ、私はふりかえった。
「昨日ききそびれていたんだけど、どうして私があのコロシアムにいるのがわかったの?」
 それまで散々ヒーローのお約束的フラグを折りまくっていた秋斗くんが、まさかあのタイミングで現れるなんて全然思ってもいなかった。だから少し、気になっていたんだよね。
「ああ……、うん。実は、美結さんがあんなところにいるとはおれも知らなかったんだ」
 パサ、と見覚えのある黒のベストがベッドに放られるのが見えた。
 ん?
「そうだったの? じゃあ、どうして?」
「あそこには、たまたま任務で行っていただけなんだ」
 話しながら、秋斗くんがネクタイをほどき始める。
 んん?
「任務って?」
「美結さんを探すついでにね。本当は内部をさぐるだけだったんだけど、戦いの途中でいきなり上の方から崩れ出してきて。まあ、あの場所を壊滅させるのも最終的な任務の一つだったから、結果的にはよかったんだけど」
「そうなんだ」
「うん」
 今度は、秋斗くんのシャツのボタンが一つ一つはずされていく。
 んんん?
「……周りが崩壊していく中でね、なんとなく上を見てみたら、美結さんらしきひとがいたから心臓がとまるかと思ったよ。すぐに助けに行けなくて、ごめん。あまり目立つわけにもいかなかったし、タイミングをはかっていたら遅くなってしまったんだ。本当にごめん」
「別に謝ることないわよ。結果的には助けてくれたんだし、気にしないで」
 それまでフラグを折りまくっていた秋斗くんとしては、むしろ快挙なんじゃない? とすら思えるし。
 あ、そうだ。まだ、助けてもらったお礼を言ってなかったわね。もともと誰かさんのせいであんなことになったんだから、少しくらいの嫌味を混ぜながら言ってやってもいいかな?
 なんて意地悪なことを考えていると、憂いに満ちていた彼の表情が少しだけ明るくなる。
「ありがとう……、美結さん」
 パサ、と秋斗くんが投げたシャツをベッドが再度受けとめた。
 均整のとれた、無駄のない引き締まった肉体が私の前にさっそうとあらわれる。男の人の裸なんて生で見るのは二人目だけど、お父さんとはあきらかに違うその身体に――って、んんんん!?
「ちょ、ちょっと……!!」
 私は、あわてて制止をうながした。
 上半身になにも身に着けていない状態で、秋斗くんは不思議そうに小首をかしげてくる。
「? どうかした?」
「どど、どうかしたじゃないわよ! なんでいきなり、服を脱ぎ始めたの!?」
「なんで、てそろそろ騎士団の朝の集まりがあるし、ここでいつも着替えているからだけど。団服もほら、そこに置いてあるし」
 秋斗くんが指し示したのは、壁際に配置してあるクローゼット。とりあえずそれに目をむけてから、「そうじゃなくて!」と私は左右に首をふった。
「なんで、そんな堂々と私の前で……!」
「え? おれの裸なんて、美結さん、見慣れているでしょ?」
「み、見慣れていませんけど!?」
 いつからそんな、見慣れている設定になっているんですか!? 見慣れたくないし! そう簡単に、見慣れるものでもないし!
 それに! 見たことあるのは、着替えを手伝ったことがある『8歳以下の』あっくんだから!!
 あのときはこんなに鎖骨が浮かびあがってもいなかったし、筋肉質な体つきでもなかったし、胸板も――ってちがうちがうちがう! そうじゃないでしょ、私!
 フフ、と秋斗くんが口元に指先をあてながら意味深に笑った。

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