幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(2)

 パクッ、と一口ほおばる。
 ゆるやかにひろがっていく、不可思議な味。
 部屋の中央に用意されたテーブルとイスのセットに腰をおろし、私は優雅にのんびりとお菓子タイムを楽し――もとい、嫌々と過ごしていた。
 カリカリモグモグ。
 おお、これも案外おいしいかもしれない。
 さっき食べたクッキーのようなプリンのような、もったりとしていて、でもサクサク感もあってジャリジャリ感も兼ね備えたお菓子もそこそこおいしかったけど。
 中のカスタードみたいなトロトロさとドロドロさと、それを包んでいるモナカの生地のようなサクサクガスガスした食感が絶妙にマッチしていて、んーおいしー。
 これにあんこがあれば、さらに加点ボーナスがつくんだけどなあ。あんこたっぷりの抹茶オレとかもよさそう。うーん、残念。
「そういえばあの子、あれからどこいったんだろう?」
 重みがなくなった肩を見やりながら、私は頬に手をあてた。
 さっきの豪華な部屋でいなくなって、それっきりになっている犬っころのルー。あの見た目だし、魔物だとバレることはないと思うけれど。
 そもそも、ルーって魔物なんだっけ?
「まあ、心配してもしょうがないか。私は、ルーの飼い主でもないんだし。そのうち、勝手に戻ってくるかもしれないしね」
 と、私は手にしていたお菓子に意識をうつした。
 それにしても、この形。ヘビのようなうねうねとした生物にはデジャブとともに、どこかしら懐かしさも――
 その時、バタン!! 鍵をかけ忘れていた扉が、勢いよく内側に開けはなたれた。
「アキトさまーー! 戻っていらっしゃったとききましたけど、こちらにいらっしゃいますかーー!」
「んぐっ!?」
 突然の甲高い声に、私は口にしていたお菓子を見事に喉につめてしまう。
 う、ぐ、ぐ……!
 入ってきたのは、薄桃色の髪を二つに結ったいわゆるツインテールをした小柄な女の子。きょろきょろ、と部屋の中を見わたし、私をとらえたとたん、あからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
「……だれよ、あんた」
「ふぐむぐむぐ」
 答えようにも、喉がふさがったままでまともな言葉が出てこない。
 胸元をドンドンと叩くけど、頑固な引っかかりはなかなか取れなくて、彼女はジト目で私を見てくる。
「……口の中のもの、全部食べ終わってからしゃべりなさいよ」
「ふぐ、んぐ、むぐーむぐーっ」
 ヤバっ、変なところに入ったかも。
 ぐ、ぐるじい……!
 私の異変に気づいたらしい、彼女が少しあわてた風に私をのぞきこんできた。
「って、さっきから何やってんのよ。あんた、馬鹿? ああもう、めんどくさいわね。ほらこれ、お水」
 グラスが手渡され、私は中身を確認することなく一気にそれを飲み干していく。
「んぐ、むぐ……、ごくん。ぷはーっ助かったあ。どこのどなたか存じあげませんけど、ありがとうございました。あやうく、おいしいものまみれで昇天するところでした」
「べ、別にあんたのためにやったわけじゃないし! 愛するアキトさまのお部屋でぽっくり死体になられるのが嫌だから、そうしただけだし! かか、勘違いしないでよね!」
 頬を赤く染めながら両腕を組み、こっちを斜めからにらみつけてくるそのポーズ。
 私よりも年下かな? こういう仕草といい顔立ちといい、なんだか幼く感じるけれど。
 ビシッ、と人差し指がつきつけられた。
「で、あんたは誰? なんでここにいるわけ? 見ない顔よね。どこからきたの?」
「えっと、ここにいる理由はですね。この部屋の持ち主に休んでいるといいと言われたので、お菓子タイムを堪能……」
「なんですって!?」
 私の返答をさえぎるように、彼女は叫ぶ。
 あの。まだ、全部の質問に答えていないんですけど……
「あんた、この部屋のあの方を知っているわけ? 魔王を倒して、史上最速でこの国が誇る精霊騎士団エレメンタルナイツの一員に加わった、顔よし、声よし、性格よし、剣の腕よし、今後の期待ナンバーワン有望株! 結婚したい男性フローチャート急上昇中! 凛とした聖風の騎士アキトさまを!」
「まあ、一応……」
 一気にまくしたてられて、途中よくききとれない。
 適当に返答しながら、結婚したい男性フローチャートってなんだろう、と私は苦笑いしてしまう。
 人気あるのねえ、秋斗くん。まあ、あの超絶イケメン顔とよくわからない最強ぽい能力まで持っていたら、さもありなんって感じだろうけど。
「一応? ああ、わかった! あんた、アキトさまの追っかけね! そうよ、そうに違いないわ!」
 ビシッ、とさっきとは違う指をさしてくる彼女に、私は頬をかいた。
 困ったなあ、どう説明したらいいんだろう? 知り合い? 友人? ご近所さん? ご近所さんは、今の状況だとさすがに無理があるか。じゃあまあ、普通に友人ってことにしておこう。そうしよう。
「私は、ただの通りすがりの友人です」
「通りすがりの友人? そんな友人、きいたことないわよ」
 疑わしげに半眼でじろじろ見てくる彼女に、私は「しまった」と頭をかかえる。
「通りすがる友人というのは、確かに友人ぽくなかったかもしれない。通りすがりの知り合いの方が、まだマシだったかも。いや、それよりも――」
「……ますます怪しいわね。ちょっとそこでおとなしくしていなさい。警備兵をつれてくるから」
 ああああ、それはなんかまずい! 前みたいに罪状もよくわからないまま牢屋に連行されるとか、絶対にいや!

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