幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(12)

 ワアアアア、ギャアアアア! ヒィイイイイイ、ウオオオオオオオ!! 悲鳴やら甲高い叫び声やら、うなり声やら咆哮やら、たくさんの耳障りな音たちが混じりあって、辺りをつんざいていく。
 出口に殺到する信奉者の群れと、すごい勢いで崩壊していくこの場所。轟音がすぐ近くで鳴る中で、私は見おろしてくる黒マントの素顔をまじまじと観察していた。
 細長い二つの目、およそイケメンとはほど遠い顔立ちのそいつの口元がニイッと不気味に笑った。爬虫類のそれを思わせるようで、なんだか気持ち悪い。
「オマエ、ソノニオイマチガイナイ、オマエ、アノカタノミツカイ」
 言葉を覚えてまだ三日くらいです、と言わんばかりのザ・カタコト。そんなしゃべり方のやつが、ついさっきもいたなあ、と苦笑を浮かべた私の唇の端がふるえてしまう。
「えっと……」
 ニオイってきこえたけど、ニオイって私はそんなににおうんだろうか?
 ためしに自分の腕にクンクンと鼻を近づけてみたけど、周辺に漂ういろいろなものに混ざってよくわからない。でも、一度気になりだすとお風呂が恋しくて仕方がなくなるのは、やはり私もお年頃な女子のはしくれだ。
 ああ、お風呂上がりの小豆茶ミルクが私を呼んでいる――
「オマエヲアノバショニツレテイケバ、キットワレラガヒガンガタッセイサレル。アノカタガアノカタガ、フハフハフハハ。オマエ、イケニエイケニエ」
 次はいつもよりあんこを多めにいれて、隠し味には――そうだ、シナモンパウダーをいれてちょっとインド風にしてみようかな。あ、インド風ならヨーグルトを混ぜてラッシーみたいにするのもありかも。
「ん? 今、なんて?」
「オマエヲアノバショニツレテイケバ、キットワレラガヒガンガタッセイサレル。アノカタガアノカタガ、フハフハフハハ。オマエ、イケニエイケニエ」
 あ、わざわざすみません。律儀にもう一度リピートしてくれる黒マントに、私はペコと頭をさげる。
 って、イケニエ? 今、イケニエって言いました?
「オマエヲアノバショニツレテイケバ、キットワレラガヒガンガタッセイサレル。アノカタガアノカタガ、フハフハフハハ。オマエ、イケニエイケニエ」
 あ、ご丁寧にどうも。大事なことなので三度言いました、みたいなやつですね。
 えっと。イケニエっていうと、あれですか。何かの目的のために犠牲にされる、あわれな子羊みたいなニュアンスのあれ。それをだれが? え、私が?
「ちょ、ちょっとまって! なんで私が、生贄なんかにされないといけないの!?」
「オマエ、ミツカイ。ダカラ、イケニエ」
 いやいやいやいや。ミツカイだかミタラシだかオツカイだか知らないけど、そんな理由で生贄にされるこっちの身にもなりなさいって!
 そもそも、なんで私なの!? そんなよくわからない大役、つつしんでご辞退させていただきたいんですけど!
 私の内心の叫びも通じるわけがなく、黒マントは空中を移動し始めた。どういう原理かわからないけれど、空中を歩けるっておもしろくて便利な能力――って、そんな感心している場合じゃない。
 このままじゃ私、生贄とかにされるわけでしょ? あ、生贄にされたヒロインをヒーローが助けてくれるのも、王道かもしれない? って、ことごとくそのフラグというフラグを折られまくっている私としては、超期待薄なんだけど……
「どうしよう……」
 ここで考えなしに暴れてしまうと、もれなく急降下からのあの世にこんにちはな展開になっちゃうのは明白で。腕ずく、力ずくとなると、あちらに軍配があがるのは当然だし。仕方がない、もう少し様子を見てから逃げ出す作戦を――ん?
 ダン、という荒々しい物音に振り返ってみれば、げ! さっきのフロアで見かけた、どこぞの部族っぽいあやしげな仮面男!
「うわわっ」
 ま、まだここに残っていたやつがいたなんて! てっきりこの黒マントだけだと思っていたから、完全にノーマークだった。どちらにしろ、私の危機には間違いない。
 だってほら、仮面部族男が長い剣をふりかざして、こっちに迫ってきているもの! ひいいい。つまりは、ノンストップマイデンジャ――
「きみには悪いけど、彼女は返してもらう」
 ラス、て……へ? 私の思考が、そこで完全にストップした。

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