幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(7)

「……っ」
 今日も私は、キョロキョロと辺りを何度も見渡すという怪しい素振りを見せながら、いつもと同じ通学路を歩いていた。
 おかしい。こんなに何もないなんて、おかしすぎる。
 私は、かばんを持つ手に力をこめた。
 あれから、いつの間にか一週間が過ぎていた。
 彼が――秋斗くんが、「またね、美結さん」って言いながら走り去っていったのが、ついこの前のような気がする。
 これも、なにかの罠とか策略なの? と警戒しながら次の日以降を行動したものの、結局何も起こらずに私は嘆息を落とす。それの繰り返しだった。
 「あ」と一つ思い当たり、私は足を止めた。
「やっと、あきらめてくれたってこと?」
 自分でも知らない間にいろいろ条件をつけたみたいだし、それがクリアできなかったのかもしれない。私に、愛想をつかしたってことも考えられる。
 それともあれは――、やっぱり夢か幻だったのかしら?
 チラと消失したままの彼の家があった場所を見やってから、私はいつも通り高校へとむかった。


 ***


「うん、今日もいい出来じゃない」
 トングを持った手の甲で前髪をはらいながら、私は自信満々に笑みを浮かべた。
 目の前には、ガスコンロとフライパン。フライパンの中には、緑と黒に彩られたできたてのパスタ。
 緑は冷蔵庫にあったレタス、黒は今日の特売で買ってきたあんこ。ちょっとした隠し味に、と最後にコーヒーを入れてみる。
 白い皿にもり、きざみ海苔をパラパラかけて。ちょっと和風っぽさをつけ加えれば――よし、夕飯完成と。
「ふふっ♪」
 キッチンからその自信作を持って、私はリビングへ移動した。
 お皿をテーブルに置き、つけていたエプロンをはずすと、下からは着慣れた制服がでてきた。紺のブレザーに赤いリボン、それにひざ丈のチェックのスカート。
 そろそろ着替えようかなあと壁の時計を見ようとして、ソファーにほうりっ放しだったダゴゾーの袋に意識が吸い寄せられる。エプロンの代わりにそれをつかむと、私はソファーに腰をおろした。
「対処法になると思って買ったのに、無駄になっちゃったなあ」
 袋の中身をのぞきこみ、短く嘆息する。
「うっ」
 ダゴゾーの袋の中には、対秋斗くん用の最終アイテムともう一つ。それを目にした私は、小さくうめいてしまった。
 恐る恐る取り出し、誰もいないとはわかっているものの、辺りを入念に見渡してから、腕をピンと伸ばした先でゆっくりとふたを開ける。そこにあったのは、大粒の宝石がついた指輪。
 そう、この前秋斗くんが、ここ、こ、こんにゃく、じゃなくて――
「落ち着け。落ち着くんだ、私」
 息をととのえてから、私は改めてそれを見た。
 こ、こんやく、こんやくゆびわ、とか言って持ってきたそれ。
「……これ、どうしたらいいんだろう? まさか、このままもらうわけにもいかないんだけど」
 成り行きで受け取ってしまったけど、今度きちんと返さなきゃ。その気は、まだ全然ないからって。
 でも、相手は神出鬼没。どこにいるかわからないし、すぐに連絡をとれるわけでもない。しかも最近はレアキャラかというくらい姿を見せないし、次はいつ会えるんだか。
 ――会えたら会えたで、いろいろ面倒だけど。
「うーん、困ったなあ」
 確実な方法といえば、常に身に着けておくことかな?
 制服のポケット、学校カバン、お弁当袋、と頭の中で並べてみるけど、どれもピンとこない。だって、いつも身に着けているわけじゃないもの。小さいものだから、なくす可能性もあるし。指輪、指輪はどこに――はっ!
 反射的に、私は左手を右手でおおった。
「あ、危ない」
 ここは、究極デンジャラス地帯。
 絶対に死守、死守!
「こんなとこにつけてたら、勘違いがただただ加速していくだけじゃない……」
 額に手の甲をやり、私は嘆息しながら左右に首をふった。
 あと、考えられるとしたら。
 私はあることに思いあたり、本棚の方へ歩み寄った。
「確か、このあたりに片づけて……あ、あった」
 目当てのものを見つけた私はそれに指輪をとおし、首のうしろに持っていく。カチ、とした小さな反応に手をはなすと、私の胸元に指輪がぶらさがってくる。あわててシャツの首元をあけると、それを服の中に押しこんだ。
「べ、別に気に入ったとか受け取ったとか私のものアピールをしているわけじゃないんだからね! あくまで! あああ、あくまでも! 秋斗くんに返すまでの、臨時的応急処置なんだから!」
 ゼエゼエ。
 誰に言うわけでもなく、一息にそう吐き出してから私は大きく深呼吸した。
「臨時的応急処置、臨時的応急処置、臨時的応急処置」
 三度口にしたから、うん、これで大丈夫。
 それにしても、と指輪から意識を引きはがすために頭を切り替える。
 返却しないといけない当人さんは、本当にどうしちゃったんだろう? 急に顔を見せなくなると、気になってしょうがない。
 私に愛想をつかせたんだったら、問題はないんだけど。むしろ、その方がいいし。
 でも――
「ひっ」
 私の脳裏を、秋斗くんのさわやかな笑顔がよぎっていく。って、このタイミングで、くっきりはっきり出てこられると、なんというか非常にマズイ感じが……!
 こ、これがもし彼の作戦だったとしたら。そう思うと、少しだけ背筋がゾッとした。
 でもあの性格だし、そんなに深くは考えていなさそうかな。王宮騎士だっけ? になったって言っていたから、普通に忙しいのかも、きっと。
 カレンダーを確認したら、今日は金曜日。そういえば、もうすぐ私の――
 ピンポ~ン。来客を告げるチャイムが、部屋中に響きわたった。
 壁の時計は、もうすぐ20時。
「こんな時間に、誰? 宅配便なんて、予定にあったっけ?」
 心当たりをいくつかさがしながら、私は玄関へむかった。
「どちら様ですか?」
 たずねてみたけれど、返事はない。怪しく思いながら、チェーンロックをした状態で扉をそっと開く。――ガシッ。それを待っていたかのように、あいた隙間から四本の指先が入りこんできた。
「ひいっ!」
 な、なにこれ!?
 どこぞのゾンビ映画に出てきそうなシチュエーションに、私はあわてて扉を閉めようとしたけれど、想像以上のパワーで外に引かれ、私は早々にギブアップ。最後まで抵抗していたチェーンロックが、あっけなくちぎれとんだ。
 防犯の意味、なさすぎるでしょうが!!
 どこか他人事に成り行きを見守りながら、私は胸中でそう叫んでいた。何事もなかったように家に入ってきたのは、さっきまで私の思考を独占していた人物だった。

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