幼馴染からのプロポーズを全力で断ろうと思います

りんか

(3)

 次の日。
 また同じ通学路を歩きながら、私はキョロキョロと辺りを見渡していた。
 人通りの少ない、ゆるやかで静かな坂道。普段と変わらないその場所に、私はほっと安堵の息をついた。
「今日は、平和だ……」
 しみじみと、つぶやく。
 何も変わらない平常というのは、やっぱりいいものだわ。
 昨日のあれは、やっぱり夢か幻だったのね。
 そっか。私もついに、夢遊病をわずらうようになったのか。それにしては、すごくリアルな夢だった気がするけれど。
 それに――
 ここに来る途中、ちょっと気になって自宅の二軒隣をのぞいてみたら、不思議なことが起きていた。
 一昨日までは確かにあったはずのあっくんの家が、文字通り消えていた。ポッカリと空き地になっていたわけではなく、あっくんの家の両隣だったはずの二つの家がそこには仲良く並んでいて。まるで、あっくんの家そのものが、最初からそこには存在していなかったように。
 ちょうどそこへ通りがかった、登校途中の男の子グループ。前に、あっくんと遊んでいた覚えのあるその子たちに話をきいてみると、全員が同じ答えだった。『瀬田秋斗って、だれ?』。
「いったい、どうなっているの?」
 首をひねるものの、それで答えが出るわけでもない。
 そのあと私は、いつもと変わらず平穏無事に高校へとたどりつくことができた。




 一日の授業が終わり、帰宅部の私は早々に学校をあとにした。朝来た道を、今度は逆に進んでいく。
 ああ、そうだと色の変わり始めた空の雲を見ながら思い出す。
 牛乳きれていたんだっけ、買いに行かなきゃ。さっき通り過ぎた交差点までもう一度移動して、そこから右折して――あ。
 そういえばここは、と気づいて、私は回れ右をしかけていた身体を戻した。その先には――昨日と同じ、ちょっと変わった服装に身を包んだ背の高い超絶イケメン。
 しまった! 帰り道はノーガードだった。
「美結おねえちゃん!」
 クルッと背中をむけた私を見つけてしまったらしい、後方からあがる嬉しそうな声。それを完全になかったことにして、私は来た道を速足で引き返し始めた。
「ま、待ってよ! どうして帰っちゃうの?」
 きこえてきた声は、すぐうしろ。
 って追いついてくるの、早すぎでしょうが!
 私はチラとそちらを見ながら、余裕の表情でついてきている彼にむかって叫んだ。
「どう見てもあなたの方が年上っぽいのに、私を『おねえちゃん』って呼ぶのおかしいでしょ? だから、私を呼んだんじゃないんだと思って!」
「そんなこと言われても、おれ、きみをそう呼んだことしかないし……。じゃあ、なんて呼んだらいい? 美結ちゃん? 美結さん?」
 そこで一度言葉をくぎった超イケは、少しとまどったあと、ゆっくりとその言葉を口にした。
「美結」
「……!」
 それが耳をうった瞬間、私の心臓が大げさなほどに飛びはね、両足が勝手に急ブレーキをかける。
 ……ストップ! ストおおおおップ!!
 呼び捨てはちょっと……、駄目っぽいです……!
 横に並んできた超イケに、私は思わず抗議の眼差しをむけた。すると彼は、気にも留めずに少し照れたように頬をかく。
「って、さすがに呼び捨ては慣れそうにないから……、と、とりあえず、美結さんでいいかな?」
 私から視線をはずしながらたずねてくる超イケに、私は何度もうなずいた。
 呼び捨てにされるより、全然いいです。ぜひ、そうしてください。
 「じゃ、じゃあ」と仕切りなおすように、超イケは顔を引き締め、背筋を伸ばした。
 な、なに? いきなりそんな表情されると、ちょっと調子が……、狂っちゃうんですけれど……
「あらためて――、美結さん。おれと、結婚してください」
 って、またそれですか。
 私が長く長く嘆息するのと、彼が懐から何かを取り出すのは、ほぼ同時だった。
 目の前に差し出されたのは、革製の、なんだか上等そうな雰囲気の小箱。見当もつかない私は、当然のように首をかたむけた。
「なに、これ?」
「なにって、きみが望んだものだけど」
「はい?」
 私、なにか望みましたっけ。
 ……あ。
 私が思い出すのと一緒に、小箱が開けられる。そこからあらわれたのは、親指の爪くらいに大きな宝石。超イケが少し動かすと色が変わり、なんとなく数えた限りでは七色はあった。
 えっと、これはその、もしかして――

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