日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

epina

160.Re:通りすがりの異世界最強

「おお、やったぞ!」
「成功! 成功だ!」

 最初はいつもの異世界召喚だと思った。
 怪しいフード被った連中に囲まれ、地面には魔法陣。

「またか……」

 まあ、今更とりたてて腹を立てるわけでもない。
 頭をポリポリ掻く俺に向かって、一番偉そうな格好をしたジジイが歩み出て。
 そしてこう言った。

「異世界の勇者よ、我らを救いたまえ!」
「……うん?」

 ほんの一瞬、頭の中に引っかかりを覚える。

「どうされた?」

 怪訝そうに聞いてくるジジイに、ひらひらと手を振った。

「いや、気のせいだ。なんでもない」

 この程度の既視感デジャヴは何度も異世界転移を繰り返せばよくあることだ。
 きっと気のせいだろう。




 いつもどおりに謁見の間で王に引き合わされた俺はぼーっとしていた。

「――で、あるからして……おい、勇者よ。話を聞いておるのか?」

 もちろんいつもの部分は聞き流してるんだけど。

「あー、聞いてますよ。聞いてます」
「おい貴様! 王の御前だぞ!」

 俺がテキトーに受け答えすると、近くの騎士が大声をあげた。

「……あ?」

 騎士の顔をジッと見る。

「な、なんだ」
「いや……」

 何となく見覚えがある気がしたが、すぐに目を逸らした。
 そうとも、どこにでもいる量産型の異世界騎士だ。
 気にすることはない。

 だけどなにか胸騒ぎがして、俺は少し真面目に王の話に耳を傾けることにした。

「我らの民は多くの魔物に命を奪われている! それもすべて魔王がこの世を瘴気で覆い、魔物を凶暴化させたせいなのだ。どうか、勇者よ。我らの危機を救ってはくれまいか? 魔王アクダーを倒し、世界を救って――」
「ちょっと待て」

 聞き捨てならないフレーズに、俺は王の言葉を遮った。

「今、アクダーって言ったか?」
「あ、ああ。そう申したぞ」

 ああ、そうか。そういうことか。
 気のせいだと思ったけど、気のせいじゃない。
 この異世界は――

「貴様、王の言葉を遮ったな!!」

 さっきの騎士が突っかかってきた。
 ああ、そうだ。確かあの世界でも、こいつはすぐに突っかかってきて。
 そう、確か名前は――

「よさんか、ザーナヘイム卿!」
「いいえ、我慢の限界です王よ! どうかこの男を斬る許可を!」

 王と騎士の会話を聞いて、俺はポンと手を叩いた。

「あー、そうそう。ザーナヘイムだ! 何となく覚えてたんだよな、アンタの名前だけは何故か」
「なんだ? 何を言っている!」

 どこにでもいる十把一絡げの雑魚キャラだったけど、必死に止めてくる王が珍しくて何となく印象に残ったんだ。
 じゃあ、こいつが次に言うセリフも当然――

「王よ、このような小僧が勇者なわけが――」
「勇者なわけがないから召喚をやり直せってか?」
「なっ……!?」

 セリフを先読みされたことに驚いたザーナヘイムが目を見開く。

「ハッ、クソなところは並行世界でもでも変わらないみてーだな、テメーは。お前は初耳だろうがもう一遍だけ言ってやる。いいかクズ騎士かぶれ。召喚っていうのはな、誘拐と同じだ。世界と無関係な他人を承諾もなく呼び出して自分たちの問題をアウトソーシングするってことだ。力不足なら素直に滅んどけばいいものを、俺たちを奴隷のようにこき使いやがって。テメーみたいのがいなくならねーから俺が苦労してんだよ!」

 俺の指摘にわなわなと震えながら、ザーナヘイムは剣を抜いた。

「これほどの恥辱、受けたことがない! もはや我慢ならん!」
「いかん、ザーナヘイム!!」

 例によってブチ切れたザーナヘイムが王の制止も聞かずに斬りかかってくる。

「弱いところもまったく変わらねえなあ」

 のときのようにおとなしく待つ、なんてことはしない。
 カウンターで顔面に拳を繰り出すと壁まで吹っ飛ぶ。
 壁に叩きつけられたあとに落下したザーナヘイムはピクリとも動かなくなった。

「死んだな。で、これは正当防衛でいいか?」
「ゆ、勇者よ……すまなかった。彼は乱心したようだ……」

 他の騎士たちは剣を抜く手前だったが、王がそれを押しとどめる。
 本来ならこうした王の態度に免じて魔王退治を請け負うところだが――

「さて……魔王は倒してやるっていいたいところだが。悪いけど、ちと保留だ。先に確かめなくちゃいけないことがあるんでな」
「なっ、勇者!?」

 そう言うやいなや、俺は城を飛び出していた。




「ここが私の元いた世界だと!?」

 その辺の草原でシアンヌを取り出した俺は、召喚されてからの出来事を説明した。

「正確には、お前がいた世界の基幹世界……つまり分岐以前のオリジナルだけどな。お前のいた世界はたぶんだけど畳まれた」

 似たような世界に召喚されることはある。
 同じ世界の未来に召喚されることだってあるだろう。
 だけど、まったく同じ世界の同じ時間軸に召喚されることは有り得ない。
 俺は一度召喚された時間以前……過去に召喚されることは絶対にないからだ。

 あるとすれば別の並行世界。
 同じような歴史を辿るはずだったけど何かのきっかけで分岐してしまった異世界だ。
 しかし、今のクソ神宇宙はそうした分岐を閉じている。
 有り得た可能性をすべて斬り捨てて、基幹世界だけに事業統合しているはずだ。

 なら、ここはシアンヌのいた異世界の基幹世界、つまり分岐以前の原型世界ってことになる。
 シアンヌのいた並行世界が消え去ったことで、歴史が俺の召喚されるはずだった時点まで巻き戻ったとか、そんな感じじゃないかなーと思う。
 ちなみにここで「だったらシアンヌは世界ごと消えてないとおかしいのでは?」って思っちゃう奴は、クソ神宇宙検定落第だ。
 「俺が回収しているから消えるわけがない」が正解。
 仮にシアンヌをリリースしても世界剪定は済んでいるから、巻き込まれようがないってわけだ。

「そうか……いや、待て。ということは、この世界の父上はまだ……!」
「ああ、俺に殺されてないから存命だ。もっともここには『この世界のお前』もいるだろうから、本物の父親とは言えないかもしれねえが」

 シアンヌは唖然としながら、地面に視線を落としている。
 どうやら予想だにしない父親との『再会』の機会到来に頭の回転が追い付かないらしい。

「で、どうしたい?」

 俺の問いかけにシアンヌが顔を上げてきょとんとする。

「どうしたい、とは?」
「今回俺は、魔王側についてもいいと思ってる。お前の親父とは気が合いそうだったからな。あ、ちなみに別にお前への罪滅ぼしとかそういうんじゃないから勘違いするなよ」
「そ、そうか……」

 なんかツンデレムーブみたいになってしまった。
 シアンヌの反応もなんだかいつもと違う。

「この世界の父上は、父上であって父上ではない。であれば……」

 シアンヌはまだ迷っているみたいだ。
 実父の死を既に乗り越えたのに、ここで会ってもいいものかと悩むのは当然だろう。

「いいのか。会わなくて?」
「そうだな……いや。一目だけでいい。姿は見たい」
「そっか……わかった」

 その返事を聞いて少し安心してしまった。
 仕方なかったとはいえ俺はシアンヌの父親をこの手にかけている。
 それが引っかかってたのも確かだった。

 俺の返事を聞いたシアンヌはこちらの瞳を覗き込んでから、びっくりするほど優しい笑みを浮かべた。

「すまない、サカハギ。ありがとう」
「お、おう……」

 なんだよ、それ。
 不意打ち過ぎるだろ。
 今更ながらシアンヌに惚れ直してしまいそうだ。

 なにはともあれ。
 こうして俺たちはシアンヌの父、魔王アクダーに会うべく海を渡るのだった。

「日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • 炙りサーモン

    父親と今はどっちが強いのかな?

    0
  • さもーはん

    こういう展開も楽しいですねぇ♪

    0
コメントを書く