日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

epina

156.魔猫外道エッグ★メイカー

 魔王ホテルの最上階、ロイヤルスイート。
 全面ガラス張りの大きな窓から、はワイングラスをくゆらせながら夜景を見下ろしていた。
 すでに紅月クレヅキはなく、平和な夜が戻っている。

「ふぅ……やれやれ」

 あれから俺はイツナとともにサリファを撃退し、封印珠に幽閉した……らしい。

 らしいというのは、どうやって倒したのか詳細を覚えていないのだ。
 おそらく、俺が自分の記憶を封印したのだろう。
 よっぽど忌まわしい方法を選んだに違いない。
 思い出そうとすれば思い出せてしまいそうなので、フェアチキを食ってとっとと忘れることにする。

「さて、と。事後処理をしなくっちゃな」

 俺の手元には4個の封印珠がある。
 この世界で使った封印珠はもっとあった気がするのだが、どうも封印記憶に関する情報らしく思い出せない。
 問題ない、ということだけはわかるので考えるべきではないのだろう。

 そのうちのひとつをベッドの上に転がして解除を念じる。

「ん、う……」
「起きたか?」

 みじろぎするコウが寝ぼけ眼のまま、むくりと半身を起こした。

「お腹減ったー……」
「ほれ、これでも食え」
「ん、もらうー」

 もっしゃもっしゃ。

「むーん……」

 むさぼった後も、しばらくぼーっとしていたが……フェアチキの美味にコウがカッと目を見開いた。

「あっ、みんなは!?」
「無事だ。安心しろ」
「よかったぁー……」

 俺が笑いかけてやると、心底ほっとしたようで……コウは胸をなでおろしていた。

「それとたぶん、魔性はもう出ない」
「そうなの?」

 侵攻勢力がメガミクランだったってことは、動いていたのは魔女単独。
 つまり魔性――おそらくは現地の怪異を利用したエコロジーな兵隊モンスター――を操っていたのは、屋上でコウに瞬殺されたあの魔女だ。
 あのときは代行分体だったが、魔力波動からして本体も助っ人のサリファより明らかに弱かった。
 誰かは知らんがよっぽどのバカじゃない限り、この世界から手を引くだろう。

 それに――

「奴らの狙いは俺みたいだったからな」
「ええっ、そうなの!?」

 メガミクランがよく使う手だ。
 俺に会いたがっているクランの魔女を世界に侵略者として配置して『召喚と誓約』で召喚し、さらに願いとして要求を突きつけてくる。
 そのときの願いは本当にさまざまだが、仮にも元嫁ともなると俺と喧嘩してリリースしたのでない限り、代理誓約を立てることは滅多にない。
 それが異世界侵略にせよ深夜プロレスにせよ、希望を叶えてやることになる。

 さらに言うと『召喚と誓約』により復縁を要求された場合のみ、エヴァの手により直接リリースされた元嫁は俺のハーレムに復帰できる。
 もちろんルールを破れば再びリリースされる。そこに特別扱いはない。
 ちなみに十三禍神の1柱の中に復縁とリリースを繰り返している女がいるのだが、あいつはもはやそれが目的になってるからなぁ……。

 それはともかく。
 本来なら、あの魔女が誓約者になる手筈だったのだろう。
 だけど、実際に俺を召喚したのはコウだった。
 だから俺もサリファが現れるまでメガミクランが関わっていると見抜けなかった。

 こんなことならあの魔女に鑑定眼ぐらい使っておくんだったかな。
 でも瞬く間に退場してしまったし。
 本当に何者だったんだ……?

「俺がいるとまた世界が狙われる可能性がある。あと何日かウロウロする予定だったけど、どうやらおいとました方が良さそうだ」

 まあ、封印珠を表に出さない限り、サリファの魂魄座標を追跡されることもないしな。
 サリファには悪いが、盟約に従って、彼女の身柄は今後のメガミクランとの取引に使わせてもらう。

「お暇って……リョウジ、どっか行っちゃうの?」
「実を言うと、俺はな――」
 
 ここで初めてコウに、俺の抱える事情を話した。

「そんな……この地球がリョウジの故郷じゃなかったなんて」

 コウがショックを受けている。
 大方、地球なら普通に会ったりできると思っていたのだろう。

「そういうわけで、俺は――」
「僕も連れてって!」

 ああ……そう言うと思ったよ。
 これで三崎コウの願いは、よりはっきりとした。
 俺の旅についていくという、明確なカタチになったのだ。

 つまり俺の選択肢はコウを嫁として連れていくか、置いていくか。
 俺の中で答えは出ている。
 だが、その前に……。



「ご苦労様だったね、ミサキホノカ。君たちは自分たちの世界を救ったんだ。その身を犠牲にしてね」



 予想通り、黒猫の姿をした取り立て人がやってきた。
 契約者に魂以外のすべてを捧げさせる、悪徳金融業者エッグメイカー
 前と同じく、ホテルに備え付けられたソファの上に現れた。

「タマ? え、犠牲って……どういうことなの?」
「言葉どおりの意味さ。魔法屍妖女まほうしょうじょは命と引き換えに願いを叶え、世界を守る。そしてすべてが終わったら、存在ごと消え去るんだ。もちろん、人々の記憶から消えてなくなるから家族のことは心配したりしないでいい」
「僕が……みんなが、消える?」
「安心して。君たちの魂はガフがなくなった今でも僕らが回収できるし、体は『変身』させて部品パーツとしてガフの部屋の修理に活用される。記憶はその辺の異世界人に『前世として植え付ける』から、何一つ無駄になることはないよ」

 まったく、何度聞いてもおぞましい理屈だ。
 こいつらにとって魔法少女とは、あらゆる万物に『変身』させられる卵、材料なのである。
 肉も、骨も、記憶も、命も、有効活用できる資源に過ぎない。
 そしてどうやらガフ亡き今となっては、魂すらも。

 コウも当然、エッグメイカーに対する殺気を膨れ上がらせる。

「タマがなに言ってるのかさっぱりわからないけど、要するに……君は僕たちの敵ってことでいいよね。そんなことを強要してくるってことは……!」
「強要? これはすべての魂が生まれ落ちたときから持っている義務だよ。宇宙に存在するあらゆる生命は僕たちに管理運営され、初めて生き延びることができるんだ」

 問答無用。
 コウのナイフはソファの上の黒猫をバラバラに切り刻んだ。
 しかし、エッグメイカーはすぐ隣に新しい黒猫たんまつを出現させてくる。

「無駄だよ。僕たちは全にして一、一にして全の集合知なんだ。端末を破壊しても僕らは殺せない。そして――」
「うっ……!?」
魔法屍妖女まほうしょうじょが僕たちに抗うことはできないよ」

 黒猫の瞳が輝くと、コウの動きが止まった。
 奴らの魔眼は魔法少女を無力化するのだ。

「まさか君だって、自分の命が数多の星の命より尊いとは思い上がっていないだろう? 君たちは宇宙を回す歯車として、その命を役に立てるべきだよ」

 一方的な言い分に、三崎コウが悔しそうに歯噛みする。
 エッグメイカーがこちらを振り向いた。

「それにしても意外だったね、サカハギリョウジ。前みたいにもっと邪魔してくると思ったのに」
「ああ……そんなことも、あったんだなぁ」

 ……たった今、思い出した。
 俺は嫁に誘っていた魔法少女を目の前でエッグメイカーに『回収』されたことがある。
 封印されていた記憶が解けたことで怒りが噴出しそうになるものの……グッと抑え込んだ。

 エッグメイカーに再利用された魔法少女とは既に再会している。
 あいつは仕返しなんて望んじゃいなかった。
 今では、いろんな子供の願いを叶える願望の高利貸し……本物の魔法少女になっている。
 もうひとりの高利貸しを救うために、今でもどこかの宇宙を奔走していることだろう。

 だから、ここから先は俺の我儘ねがいだ。

「もう一度やってみろよ、エッグメイカー。俺の目の前で。それをもって、俺に対する宣戦布告とみなす」

コメント

  • 炙りサーモン

    かっこいい

    0
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