日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
151.魔法少女ホノカ☆キラー
「いやーっ! ばけもの!! 助けてーっ!!」
「もう大丈夫だ、水瀬シオリ! 俺は逆萩亮二。お前の命の恩人だから、契約して魔法少女になってもらうぜ!」
「あのっ、そのっ。こういうのはちゃんとお付き合いしてから……!」
「何勘違いしてるんだ、篠塚ミユキ。俺は逆萩亮二。お前を契約で魔法少女にする男だ!」
「紅の月が導く宿命、そして黒き前世との死の因果……つまり汝の目的は吾輩の肉体ということなのか?」
「え、ええと。そのとおりだ、笹原ナグモ。我が名は逆萩亮二。契約により、汝の肉体を魔法少女に作り替える者なり!」
ホテルで魔性どもの襲撃に遭ってから、さらに1日後。
紅月が浮かぶ夜空の下。
コンテナが並ぶ港で、俺はクレーンの上から魔法少女たちと魔性の大軍の戦闘を見守っていた。
「あのさ、契約にはしっかりとした同意が必要だと思うのは僕だけなのかい?」
すぐ隣にまた黒猫が出現する。
「そんなもん俺には関係ない」
「やれやれ。まさか君が本当に僕たちの真似をするとはね」
別になんてことはない。
俺が昔、強奪チートでエッグメイカーの別端末から奪った『変身契約チート』を使用したのだ。
もっとも、チートの初期設定は大幅に変えてある。
エッグメイカーの『変身契約チート』は願い事を叶えることと引き換えに、魔法少女の『事後のすべて』を担保とする。
俺の変身契約は願いを叶えない。
その代わりに強制契約を行える。
チート能力は無担保で貸すし、クーリングオフも可能だ。
つまり、魔性たちを全滅させた後は魔法少女をノーリスクでやめられる。
俺は魔性に襲われていた女の子たちに恩を着せ、全部で23人の魔法少女を用意した。
あとは「みんなを守れるのは君たちだけだ」と甘い言葉を囁けば、愛と勇気の魔法少女のできあがりってわけ。
……何人か口説いて嫁にしたのはここだけの話な。
「確かに僕らにはできないやり方だ。それは認めるよ。だけど、僕らの真似事をして魔法少女を増やさなくたって君ならもっと簡単に女性源理を克服する方法はあるんじゃないのかい?」
「もちろんそうだ。だけど、今回はこれで行くことにしたんだよ」
「やれやれ、本当に僕らへのあてつけなのかい? 君たちはいつもそうやって主観で物事を小さくとらえて、僕たちに八つ当たりをする。意味がわからないよ」
もちろん、理由はあてつけだけじゃない。
紅月に強化された女性源理の効果で、俺のやる気がどうしても出ないのだ。
誓約と関係ないし、地球ではノスタルジックに過ごしたいからだろうな。
とはいえ、相手側が俺を狙ってきている以上は自衛しないといけない。
そして敵に思い知らせるためなら俺は手段を選ばない……それだけのことだ。
だからエッグメイカーの予想外のセリフには眉をしかめることになった。
「ミサキホノカのことがそんなに気になるのかい?」
「はぁ? なんだそりゃ」
「君が女性をカラダ目的で攫って行くのは珍しいことじゃないからね」
こいつ、微妙に痛いところを突いてきやがる。
「強制的に連れていくのは心の腐ったビッチに限ってんよ」
「そうなのかい。だったら、ミサキホノカは条件を満たすと思うけど?」
「あいつは……そうだな。あいつがタダの殺人鬼だったらそうしたかもな」
三崎ホノカの当初の願いは力を手に入れることだった。
箱庭世界でも、そのように証言している。
ところが俺に一目惚れしてしまい、やがて恋人関係になることを望むようになった。
確かに俺は嫁を娶るが、恋愛ゴッコをする気はサラサラない。
恋心に付け込んで深夜プロレスに持ち込むことはあっても、バカップルみたいに愛を囁き合うなんざ死んでも御免だ。
だから、三崎ホノカの恋が叶うことは絶対にない。
「わわっ! 見て見てっ、また他の子たちが戦ってるよぉ!」
「見て! タマの隣にいるのって!」
「この間、ホノカといっしょにいた人」
どうやら姦し娘たちもご到着のようだ。
「リョウジー!!」
彼女たちと一緒にいた三崎ホノカが空飛ぶスケボーですっ飛んでくる。
キラキラと色とりどりの星マークを振りまきつつクレーンの上に着地すると、俺の方に迫ってきた。
「もう! どうして姿をくらませたりしたのさー!」
「なぁに、友達同士で仲良くしたいだろうなっていう俺なりの気遣いさ」
「んもーっ!」
ぷりぷり怒る三崎ホノカ。
箱庭世界にいたときより、だいぶ女の子らしい雰囲気を纏っている。
どうやら仲間との交流はうまくいっているみたいだ。
「あっ、そうだ! ホノカちゃんはそこで休んでていいよーっ!」
「えっ……? あ、そうね! 三崎さん、ここはわたしたちに任せて!」
「ぐっどらっく」
「へ? ちょ、ちょっとーっ!」
姦し娘たちは魔性たちのほうに飛んで行ってしまった。
エッグメイカーもいつの間にかいなくなっている。
余計な質問をされるリスクを避けるためだろう。
ややこしいことになるから俺としても助かるが。
「なあ。あの子たちはお前の本性を……」
「え? あ……うん。知らないよ」
まあ、知ってたらあんな風に仲良くできるわけないもんな。
「リョウジは……なんで僕がこうなったか、知りたい?」
三崎ホノカが目を細め、少し言いにくそうに。
しかし、どことなく訊いて欲しそうに小さく首を傾げた。
はっきり言って殺人鬼の起源なんてものに興味はない。
そんなもん、胸糞悪いに決まっているからだ。
だが――
「言いたければ勝手に喋れよ」
誰かに打ち明ければ楽になることも実体験で知っている。
「優しいね。リョウジは」
「なんだそりゃ。わけがわからん」
くすぐったそうに微笑む三崎ホノカが、自らの過去をとつとつと語りだす。
その中身は案の定、鬱展開のオンパレードだった。
本人の感情や呪詛を省いて要約すると以下のようになる。
三崎ホノカは幼いころから両親による虐待を受けていた。
父親は酒乱で何かと暴力をふるってきたし、母親も育児放棄同然に家を空けて堂々と不倫していたという。
父親が家に連れ込むギャンブル仲間たちの『酌をさせられる』地獄が何年も続いてから、三崎ホノカはエッグメイカーと出会った。
三崎ホノカは両親と父親の仲間を自らの手で殺害する力をエッグメイカーに願い、魔法少女となった。
しかし、その直後に両親は魔性に殺されて死んだ。
三崎ホノカは代償行為からなのか……似たようなクズ親どもを殺しまくり、気づいたら人殺しが楽しくなっていたという。
そんな何一つ救いのない、袋小路のどん詰まりのような最悪のストーリーが、三崎ホノカの口から語られた。
「つまり復讐対象を魔性に奪われて、その八つ当たりを別の誰かでしてるってことだろ」
「うん。自分でも最低だと思ってるよ。魔性だけで済ませればいいのにね。でも、できなかった」
自嘲気味に言う三崎ホノカのセリフを聞いて、俺は大きくため息をつく。
「ま、呪詛に囚われた人間なんざ、そんなもんだよな」
「そんなもん、なのかな」
「ああ、本当に……そんなもんなんだ」
そこで一度、会話が途切れた。
三崎が昔話をしてる間に、戦いの趨勢は魔法少女側に傾いていた。
女性源理の能力強化はハンパじゃないらしく、魔法少女たちは俺が与えた力以上の戦闘力を発揮している。
数で勝る魔性どもは、だいぶ数を減らしていた。
……ようやくわかってきたぞ。
確かに紅月は女性源理を強化してるみたいだけど、女性源理自体も相当に強固だ。
きっとここは、もともと女性優位の宇宙なのだろう。
エッグメイカーの言ってた『この世界が男が戦うことを望んでいない』っていうのは、そこまで含んだ意味だったんだな。
だとしたら、尚のこと防衛側が優位になる紅月を魔性どもが使う意味がわからない。
そんなふうに考え事をしていると、三崎ホノカが大きく伸びをした。
「……まあ、それからかな。僕がホノカじゃなくて、コウって名乗るようになったのは」
なるほど。
真名がホノカでもコウでもあるのは、そういうことだったか。
……よく、わかった。
「もう、あの子たちだけなんだ。昔の名前で僕を呼ぶのは」
ああ、まったく……。
だからこういう話は聞きたくないんだ。
「言っとくけど、俺はお前の過去について手を差し伸べてやるつもりはないからな。それはお前自身がケリをつけるしかない」
「リョウジ……」
三崎ホノカ……いや、コウが寂しそうに俺を見上げた。
「まあ、胸ぐらいだったら貸してやるよ」
視線を戦闘の方へと向けたまま呟くと、コウが驚いたように目を見開く。
ひと際大きな爆発音がした。
魔性同士が合体した巨大な怪物を、魔法少女たちが力を合わせた必殺技で撃退するところだった。
「うっ……グスッ……」
コウが嗚咽しながら倒れこんでくる。
別にわんわんと泣き喚いたりはしなかったが、静かに俺の服を濡らし続けた。
なんとなく頭を撫でてやりながら、空を見上げる。
「紅月消えねぇな……」
さっきの巨大魔性が結界主と思ったんだが、違ったのか?
「……ん?」
紅月に影が差している。
女のシルエットだ。
この間のローブを羽織った姿ではなく、くっきりと女性の輪郭が浮かび上がっている。
そいつは、巨大なハンマーのようなものを背負っていて――
えっ、あのハンマーは……。
「なにっ、この膨大な魔力は……!?」
コウが紅月をあおぎ見る。
暴風を伴う魔力の渦はハンマー女の影を中心に膨れ上がっていった。
魔法少女たちも気づいて上空を指差したりしている。
このひたすら狂暴な魔力波動は……!
「お前ら、逃げろぉーーーーー!!」
魔法少女たちに向かって叫ぶが……間に合わない!
「トォォォォル……ハンマァァァァァァァァァッッッ!!!」
女は裂帛の気合とともに大きく振りかぶったハンマーを眼下に投擲した。
凄まじい神雷を纏った超速質量が轟音とともに魔法少女たちへ迫る。
「自己領域展開!」
あいつが俺の予想した人物なら時間停止は無時間移動チートで対応される!
今はとにかく魔法少女たちを防御結界で守るしかない!
だが、俺の展開した結界は落下物とぶつかるや否や見るも無残に砕け散る。
「ん、だとぉ……!?」
衛星の落下にも余裕で耐えるはずの自己領域結界が破壊された。
さらにドゥムッという、低音の震動が魔法少女たちの中心で響いた瞬間、彼女たちのいた港は爆発に巻き込まれ跡形もなくなっていく。
命中地点から全方位に伸びる無数の稲妻がさらなる破壊を生み出していった。
電気の嵐が起きている巨大クレーターに周辺の海水が怒涛の渦を巻いて流れ込む。
「結界で威力を減衰して、これかよ……!」
俺が知ってるものより女性源理で威力が何倍にも跳ね上がってやがる。
ともあれ爆発で吹っ飛ばされた魔法少女たちにかかった運動エネルギーを『物理操作チート』でゼロにして宙空に静止させてから、結界で保護した。
幸いハンマーに直撃した子はいないし、魔法少女はコウと同じで全員『ゴキブリチート』持ちだから死んではいないようだが、念のため延命チートも使っておく。
「みんなーっ!!」
「駄目だ、今は行くな!」
それでも飛び出していこうとするコウの首筋に高速当身を食らわせて意識を刈り取る。
いつもなら睡眠魔法を使う場面だが、この強度の女性源理の下では男の魔法が通用しない可能性が高い。
コウを封印珠に入れた後、ふたたび空を見上げる。
自慢じゃないがエヴァのヤンデレループ幽閉を乗り越えてから、俺の結界は破られたことがない。
だが……一度だけヒビを入れられたことならある。
一枚貼りの展開速度重視の薄いものだったとはいえ……エヴァにも突破不可能な俺の結界を破壊できる奴は、後にも先にもあいつしかいない!
海面からハンマーが上空に向かってひとりでに飛び出して、紅月に向かう。
女が事もなげに飛来したハンマーを掴み取ると、俺に向かって笑いかけてきた。
「遭いたかったぜェ……サカハギの旦那ァ」
……出会いは、どこにでもあるゲーム模倣型異世界。
最初は敵同士だったが、意気投合したことで嫁となった女。
イツナやシアンヌ、ステラちゃん……豊作の今期嫁の中でもぶっちぎりに最強で。
位格としては中位雷神でありながら、純粋な戦闘で俺を驚かせた雷神トールの記録継承者。
そしてエヴァとの確執がきっかけで、リリースすることになった元嫁。
まさか、こんなに早く……あいつの名前を呼ぶ日が来るとは!
「サリファ!!」
俺の呼びかけに、褐色肌の女がニヤリと笑った。
「もう大丈夫だ、水瀬シオリ! 俺は逆萩亮二。お前の命の恩人だから、契約して魔法少女になってもらうぜ!」
「あのっ、そのっ。こういうのはちゃんとお付き合いしてから……!」
「何勘違いしてるんだ、篠塚ミユキ。俺は逆萩亮二。お前を契約で魔法少女にする男だ!」
「紅の月が導く宿命、そして黒き前世との死の因果……つまり汝の目的は吾輩の肉体ということなのか?」
「え、ええと。そのとおりだ、笹原ナグモ。我が名は逆萩亮二。契約により、汝の肉体を魔法少女に作り替える者なり!」
ホテルで魔性どもの襲撃に遭ってから、さらに1日後。
紅月が浮かぶ夜空の下。
コンテナが並ぶ港で、俺はクレーンの上から魔法少女たちと魔性の大軍の戦闘を見守っていた。
「あのさ、契約にはしっかりとした同意が必要だと思うのは僕だけなのかい?」
すぐ隣にまた黒猫が出現する。
「そんなもん俺には関係ない」
「やれやれ。まさか君が本当に僕たちの真似をするとはね」
別になんてことはない。
俺が昔、強奪チートでエッグメイカーの別端末から奪った『変身契約チート』を使用したのだ。
もっとも、チートの初期設定は大幅に変えてある。
エッグメイカーの『変身契約チート』は願い事を叶えることと引き換えに、魔法少女の『事後のすべて』を担保とする。
俺の変身契約は願いを叶えない。
その代わりに強制契約を行える。
チート能力は無担保で貸すし、クーリングオフも可能だ。
つまり、魔性たちを全滅させた後は魔法少女をノーリスクでやめられる。
俺は魔性に襲われていた女の子たちに恩を着せ、全部で23人の魔法少女を用意した。
あとは「みんなを守れるのは君たちだけだ」と甘い言葉を囁けば、愛と勇気の魔法少女のできあがりってわけ。
……何人か口説いて嫁にしたのはここだけの話な。
「確かに僕らにはできないやり方だ。それは認めるよ。だけど、僕らの真似事をして魔法少女を増やさなくたって君ならもっと簡単に女性源理を克服する方法はあるんじゃないのかい?」
「もちろんそうだ。だけど、今回はこれで行くことにしたんだよ」
「やれやれ、本当に僕らへのあてつけなのかい? 君たちはいつもそうやって主観で物事を小さくとらえて、僕たちに八つ当たりをする。意味がわからないよ」
もちろん、理由はあてつけだけじゃない。
紅月に強化された女性源理の効果で、俺のやる気がどうしても出ないのだ。
誓約と関係ないし、地球ではノスタルジックに過ごしたいからだろうな。
とはいえ、相手側が俺を狙ってきている以上は自衛しないといけない。
そして敵に思い知らせるためなら俺は手段を選ばない……それだけのことだ。
だからエッグメイカーの予想外のセリフには眉をしかめることになった。
「ミサキホノカのことがそんなに気になるのかい?」
「はぁ? なんだそりゃ」
「君が女性をカラダ目的で攫って行くのは珍しいことじゃないからね」
こいつ、微妙に痛いところを突いてきやがる。
「強制的に連れていくのは心の腐ったビッチに限ってんよ」
「そうなのかい。だったら、ミサキホノカは条件を満たすと思うけど?」
「あいつは……そうだな。あいつがタダの殺人鬼だったらそうしたかもな」
三崎ホノカの当初の願いは力を手に入れることだった。
箱庭世界でも、そのように証言している。
ところが俺に一目惚れしてしまい、やがて恋人関係になることを望むようになった。
確かに俺は嫁を娶るが、恋愛ゴッコをする気はサラサラない。
恋心に付け込んで深夜プロレスに持ち込むことはあっても、バカップルみたいに愛を囁き合うなんざ死んでも御免だ。
だから、三崎ホノカの恋が叶うことは絶対にない。
「わわっ! 見て見てっ、また他の子たちが戦ってるよぉ!」
「見て! タマの隣にいるのって!」
「この間、ホノカといっしょにいた人」
どうやら姦し娘たちもご到着のようだ。
「リョウジー!!」
彼女たちと一緒にいた三崎ホノカが空飛ぶスケボーですっ飛んでくる。
キラキラと色とりどりの星マークを振りまきつつクレーンの上に着地すると、俺の方に迫ってきた。
「もう! どうして姿をくらませたりしたのさー!」
「なぁに、友達同士で仲良くしたいだろうなっていう俺なりの気遣いさ」
「んもーっ!」
ぷりぷり怒る三崎ホノカ。
箱庭世界にいたときより、だいぶ女の子らしい雰囲気を纏っている。
どうやら仲間との交流はうまくいっているみたいだ。
「あっ、そうだ! ホノカちゃんはそこで休んでていいよーっ!」
「えっ……? あ、そうね! 三崎さん、ここはわたしたちに任せて!」
「ぐっどらっく」
「へ? ちょ、ちょっとーっ!」
姦し娘たちは魔性たちのほうに飛んで行ってしまった。
エッグメイカーもいつの間にかいなくなっている。
余計な質問をされるリスクを避けるためだろう。
ややこしいことになるから俺としても助かるが。
「なあ。あの子たちはお前の本性を……」
「え? あ……うん。知らないよ」
まあ、知ってたらあんな風に仲良くできるわけないもんな。
「リョウジは……なんで僕がこうなったか、知りたい?」
三崎ホノカが目を細め、少し言いにくそうに。
しかし、どことなく訊いて欲しそうに小さく首を傾げた。
はっきり言って殺人鬼の起源なんてものに興味はない。
そんなもん、胸糞悪いに決まっているからだ。
だが――
「言いたければ勝手に喋れよ」
誰かに打ち明ければ楽になることも実体験で知っている。
「優しいね。リョウジは」
「なんだそりゃ。わけがわからん」
くすぐったそうに微笑む三崎ホノカが、自らの過去をとつとつと語りだす。
その中身は案の定、鬱展開のオンパレードだった。
本人の感情や呪詛を省いて要約すると以下のようになる。
三崎ホノカは幼いころから両親による虐待を受けていた。
父親は酒乱で何かと暴力をふるってきたし、母親も育児放棄同然に家を空けて堂々と不倫していたという。
父親が家に連れ込むギャンブル仲間たちの『酌をさせられる』地獄が何年も続いてから、三崎ホノカはエッグメイカーと出会った。
三崎ホノカは両親と父親の仲間を自らの手で殺害する力をエッグメイカーに願い、魔法少女となった。
しかし、その直後に両親は魔性に殺されて死んだ。
三崎ホノカは代償行為からなのか……似たようなクズ親どもを殺しまくり、気づいたら人殺しが楽しくなっていたという。
そんな何一つ救いのない、袋小路のどん詰まりのような最悪のストーリーが、三崎ホノカの口から語られた。
「つまり復讐対象を魔性に奪われて、その八つ当たりを別の誰かでしてるってことだろ」
「うん。自分でも最低だと思ってるよ。魔性だけで済ませればいいのにね。でも、できなかった」
自嘲気味に言う三崎ホノカのセリフを聞いて、俺は大きくため息をつく。
「ま、呪詛に囚われた人間なんざ、そんなもんだよな」
「そんなもん、なのかな」
「ああ、本当に……そんなもんなんだ」
そこで一度、会話が途切れた。
三崎が昔話をしてる間に、戦いの趨勢は魔法少女側に傾いていた。
女性源理の能力強化はハンパじゃないらしく、魔法少女たちは俺が与えた力以上の戦闘力を発揮している。
数で勝る魔性どもは、だいぶ数を減らしていた。
……ようやくわかってきたぞ。
確かに紅月は女性源理を強化してるみたいだけど、女性源理自体も相当に強固だ。
きっとここは、もともと女性優位の宇宙なのだろう。
エッグメイカーの言ってた『この世界が男が戦うことを望んでいない』っていうのは、そこまで含んだ意味だったんだな。
だとしたら、尚のこと防衛側が優位になる紅月を魔性どもが使う意味がわからない。
そんなふうに考え事をしていると、三崎ホノカが大きく伸びをした。
「……まあ、それからかな。僕がホノカじゃなくて、コウって名乗るようになったのは」
なるほど。
真名がホノカでもコウでもあるのは、そういうことだったか。
……よく、わかった。
「もう、あの子たちだけなんだ。昔の名前で僕を呼ぶのは」
ああ、まったく……。
だからこういう話は聞きたくないんだ。
「言っとくけど、俺はお前の過去について手を差し伸べてやるつもりはないからな。それはお前自身がケリをつけるしかない」
「リョウジ……」
三崎ホノカ……いや、コウが寂しそうに俺を見上げた。
「まあ、胸ぐらいだったら貸してやるよ」
視線を戦闘の方へと向けたまま呟くと、コウが驚いたように目を見開く。
ひと際大きな爆発音がした。
魔性同士が合体した巨大な怪物を、魔法少女たちが力を合わせた必殺技で撃退するところだった。
「うっ……グスッ……」
コウが嗚咽しながら倒れこんでくる。
別にわんわんと泣き喚いたりはしなかったが、静かに俺の服を濡らし続けた。
なんとなく頭を撫でてやりながら、空を見上げる。
「紅月消えねぇな……」
さっきの巨大魔性が結界主と思ったんだが、違ったのか?
「……ん?」
紅月に影が差している。
女のシルエットだ。
この間のローブを羽織った姿ではなく、くっきりと女性の輪郭が浮かび上がっている。
そいつは、巨大なハンマーのようなものを背負っていて――
えっ、あのハンマーは……。
「なにっ、この膨大な魔力は……!?」
コウが紅月をあおぎ見る。
暴風を伴う魔力の渦はハンマー女の影を中心に膨れ上がっていった。
魔法少女たちも気づいて上空を指差したりしている。
このひたすら狂暴な魔力波動は……!
「お前ら、逃げろぉーーーーー!!」
魔法少女たちに向かって叫ぶが……間に合わない!
「トォォォォル……ハンマァァァァァァァァァッッッ!!!」
女は裂帛の気合とともに大きく振りかぶったハンマーを眼下に投擲した。
凄まじい神雷を纏った超速質量が轟音とともに魔法少女たちへ迫る。
「自己領域展開!」
あいつが俺の予想した人物なら時間停止は無時間移動チートで対応される!
今はとにかく魔法少女たちを防御結界で守るしかない!
だが、俺の展開した結界は落下物とぶつかるや否や見るも無残に砕け散る。
「ん、だとぉ……!?」
衛星の落下にも余裕で耐えるはずの自己領域結界が破壊された。
さらにドゥムッという、低音の震動が魔法少女たちの中心で響いた瞬間、彼女たちのいた港は爆発に巻き込まれ跡形もなくなっていく。
命中地点から全方位に伸びる無数の稲妻がさらなる破壊を生み出していった。
電気の嵐が起きている巨大クレーターに周辺の海水が怒涛の渦を巻いて流れ込む。
「結界で威力を減衰して、これかよ……!」
俺が知ってるものより女性源理で威力が何倍にも跳ね上がってやがる。
ともあれ爆発で吹っ飛ばされた魔法少女たちにかかった運動エネルギーを『物理操作チート』でゼロにして宙空に静止させてから、結界で保護した。
幸いハンマーに直撃した子はいないし、魔法少女はコウと同じで全員『ゴキブリチート』持ちだから死んではいないようだが、念のため延命チートも使っておく。
「みんなーっ!!」
「駄目だ、今は行くな!」
それでも飛び出していこうとするコウの首筋に高速当身を食らわせて意識を刈り取る。
いつもなら睡眠魔法を使う場面だが、この強度の女性源理の下では男の魔法が通用しない可能性が高い。
コウを封印珠に入れた後、ふたたび空を見上げる。
自慢じゃないがエヴァのヤンデレループ幽閉を乗り越えてから、俺の結界は破られたことがない。
だが……一度だけヒビを入れられたことならある。
一枚貼りの展開速度重視の薄いものだったとはいえ……エヴァにも突破不可能な俺の結界を破壊できる奴は、後にも先にもあいつしかいない!
海面からハンマーが上空に向かってひとりでに飛び出して、紅月に向かう。
女が事もなげに飛来したハンマーを掴み取ると、俺に向かって笑いかけてきた。
「遭いたかったぜェ……サカハギの旦那ァ」
……出会いは、どこにでもあるゲーム模倣型異世界。
最初は敵同士だったが、意気投合したことで嫁となった女。
イツナやシアンヌ、ステラちゃん……豊作の今期嫁の中でもぶっちぎりに最強で。
位格としては中位雷神でありながら、純粋な戦闘で俺を驚かせた雷神トールの記録継承者。
そしてエヴァとの確執がきっかけで、リリースすることになった元嫁。
まさか、こんなに早く……あいつの名前を呼ぶ日が来るとは!
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俺の呼びかけに、褐色肌の女がニヤリと笑った。
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