日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
148.魔性結界★クレヅキ
俺と三崎はとりあえず埠頭を離れ、国道に出るために夜道を歩いていた。
「ん、あれは……」
国道沿いにコンビニがある。
あのロゴマークはフェアリーマートによく似ているが……。
「……フォクシーマート、ね」
「フォクマがどうかしたの?」
この地球が故郷の三崎にとっては当たり前の光景なのだろう。
特にこれといった感動もなく入店すると、フェアマによく似た入店メロディが流れた。
「何か買い物?」
「ひとまず現金を調達しようと思ってな」
ATMに地球でだけ使えるチートブラックカードを挿入する。
とりあえず100万円ほど引き出すと、横で見ていた三崎がぎょっとしていた。
「えっ!? リョウジって、結構金持ちだったりするの!?」
「違う違う。借りただけだ」
そう、借りただけだ。永遠に。
チートブラックカードでキャッシングをすれば、どこかの犯罪組織の口座から足がつくことなく綺麗な現金を引き出せる。
何人かが詰め腹切らされてどっかの湾に沈むことになるだろうが、俺の知ったことではない。
「うわー。僕が言うのもなんだけど、リョウジはすごくヤバイ橋を渡ってる気がする」
三崎のジト目をスルーしつつ、かごに商品を入れていく。
テキトーに日用品をいくつかと、豆乳。あとはやっぱりチキンかな。
フォクチキか……ちょっと楽しみだぜ。
「……ねえ、なんで普通に買い物したの? 時間停めたりして持っていっちゃえばよくない?」
何事もなく普通に会計を済ませて退店すると、三崎がきわめて不穏なことを言い出した。
「何言ってんだ。そんなことしたら犯罪だろうが。こういうときは、ちゃんと金払って経済回すんだよ」
「そーゆーもんなの?」
「そういうもんだ。そういうお前は何か買わなくてよかったのか?」
「えへへー……正真正銘の一文無しだよ!」
あー……体がひょろっちいとは思ってたけど、案の定ちゃんと食ってないのか。
「つまり住所不定の無職ってことでいいか?」
「むぅ、失礼だなあっ……そのとおりだけど」
パーカーも汚れが目立つし、きっと残飯とか漁って暮らしているんだろう。
だから元の素材は良さそうなのに、いろいろもったいないんだな。
「さて……香りよし。味はどうだ?」
車道脇の歩道でタクシー待ちをしながらフォクチキをほうばる。
うん、うまい。
やっぱり味は違うけど、これはこれでいいな。
フェアチキ近似値91点。
「ああ、やっぱりいいもんだな……」
アスファルトの道路を通り抜けていく涼やかな風を頬に浴び、星のない空を見上げながら……俺は何となくつぶやいていた。
ここが俺の住んでいた地球でないのはわかっている。
それでもここは地球なのだ。
異世界には違いなくとも、ここには俺の求めるものがある。
だから1週間ほど可能な限りお行儀よく滞在して、去る。
俺のルーチンワークの中での数少ない純粋な羽休めだ。
「むー……」
三崎が物欲しそうにこちらをジッと見ている。
さらにダメ押しとばかりにお腹が鳴ると、恥ずかしそうに俯いた。
「…………食うか?」
「いいのっ!!?」
腹が膨れる程度には買い込んだので、やる分には問題ない。
……と、思っていた時期が俺にもありました。
「はぐっ、もぐもぐもぐもぐ!」
三崎が凄まじい勢いでフォクチキを消費していく。
よっぽど腹が減っていたようで、俺が買った分は全部食われてしまった。
「おかわり!」
「ったく、しょうがない奴だな。別のをやるよ」
無限増殖しておいた出来立てホヤホヤのフェアチキをアイテムボックスから取り出して与える。
パクついた瞬間、三崎の目がカッと見開いた。
「……この味! なんかさっきまでのと違うけど、どこかで食べたことある気がする!」
「あー、お前が気絶してるときに食わせたからな。気に入ったのか?」
「うん! すっごくおいしい!!」
「そうかそうか!! それなら、いくらでも食わせてやるぜ!!」
なんていってもフェアチキは完全食だからな!!
体力回復なら、これを食べるのが一番だぜ!!
三崎は拾ったタクシーの中でもひたすらフェアチキを食べ続けている。
血色が見るからによくなってきているし、肉付きもよくなっていた。
これは俺のフェアチキがチートなのではなく、三崎がそういう超代謝能力を持っているからだ。
運転手にかなり気味悪がられたが、俺は気にすることなく三崎にフェアチキを与え続ける。
「ふー、おなかいっぱい! ごちそうさまー!」
至福の笑みを浮かべながらお腹をさする三崎の体型はすっかり変わっていた。
ぶかぶかのパーカーの上からでもはっきりわかるほど、体に凹凸ができている。
心なしか美人にもなっている気がするし、これなら深夜プロレスもありよりのありだな。
「ほれ、着いたぞ」
「えっ!?」
タクシーから降りた三崎が天を仰ぐ。
俺達の目の前には巨大なホテルが鎮座していた。
「魔王ホテルじゃん! ここって、すっごく高いんじゃ……」
「お前が食ってる間に部屋を取っといた。支払いも終わってる」
クレカ決済できるなら、例によってチートブラックカードが使えるからな。
オンラインなら金の心配はいらない。
「ううっ、ナロンコンに参加するときよりも緊張する……」
おっかなびっくりついてくる三崎を尻目に、俺はドレスコード対策の高級オーダーメイドスーツをアイテムボックスから瞬間装着する。
「ちょっ、いつの間に着替えたのさ! わわっ!」
三崎の今の体型に合わせてカスタマイズした現代用ドレスをアイテムボックスから出して投げて渡す。
「お前もどっかで着替えてこいよ」
「で、でもこんなの着たことないし、わかんないよ」
「本当に世話の焼ける奴だな」
仕方がないので秒で着せ替えしてやった。
「おお、よく似合うじゃねーか」
「え? これが、僕!?」
三崎に鏡を見せてやると、自分の姿に驚いているようだった。
ついでに化粧もしてみたんだけど、まるで別人のようだ。
「……待って? ひょっとして時間停めて無理やり着替えさせた?」
「ああ。元着てたパーカーも一応俺のアイテムボックスにとっといてあるから安心しろ」
三崎が口を引き結んで、真っ赤になる。
「バカバカバカ! リョウジのバカーッ!」
照れ隠しのつもりなのか、どこからともなく抜いたダガーナイフで鋭い突きを繰り出してくる三崎。
俺の肌に触れた刀身は跡形もなく砕け散ったが……なんか三崎の攻撃にブースト強化がかかってたような?
「バカはお前だ。俺じゃなかったら死んでるぞ、そのツッコミは」
「避けてくれると思ってたんだよー! ううっ、お気に入りのナイフがぁ……」
バラバラになったナイフの刃を見つめながら涙目になる三崎。
相手をするのが疲れたので時空操作でナイフを元に戻してやりながら、ホテルに入る。
その瞬間。
「リョウジ、待って! これは……!」
三崎が慌てて俺を止めようとしたが、遅かった。
「っと。先客か?」
ホテル内に結界が展開されてる。客もフロントのホテル員の姿も消えてなくなった。
周囲の光景が紅色に照らし出される。
この感じ……外側からは見えず、迷い込んだ者を餌にする典型的な監獄結界かね?
特に警戒してなかったし、まったく気づかんかったよ。
「ほれ」
とりあえず適当に空間をデコピンすると、結界は粉々に砕け散った。
「えー……リョウジ、それはさすがにどうかと思うよ。いろいろと」
戦闘態勢に入っていた三崎が脱力したように俺の隣へ並ぶ。
ホテルのロビーは外から見た通りの賑わいを取り戻していた。
「これアレか? お前が言ってた侵略者ってやつ? 」
「うん。『紅月』が出てたからね。『魔性』に間違いないと思うよ」
俺は空を見てなかったけど、そういや周りの景色が紅くなってたな。
なるほど、あれは月光だったのか。
「あ、まただ」
「しつこいな」
再び結界が展開されたのか、ホテルロビーが紅で染め上げられた。
どうやら再展開もノーコストでできるらしい。
「ん、アレか」
ホテルのガラス張りから空を見上げると、煌々と輝く紅い月が見えた。
「なるほど、あれが紅月ね。本物の月じゃない。実体もない。結界の起点が空に鏡みたく映し出されてるって感じか」
「何ブツブツ言ってるの! 来るよ!!」
床から影のような黒い何かが、絵画からは描かれていた人物や物体が具現化して俺たちを取り囲んでいる。
それをボーッと眺めていた俺は、ロビーに備え付けられたソファにどっかと座った。
「お前に任せる」
「えっ!? ちょっと! なんでさ!」
「俺はオフだからな。それに――」
三崎に向かってニヤリと笑いかける。
「殺し足りなかったんだろ?」
「…………えへへ、バレてた?」
こちらをチラリと振り返った三崎の笑みは、邪悪な殺人鬼のそれだった。
「ん、あれは……」
国道沿いにコンビニがある。
あのロゴマークはフェアリーマートによく似ているが……。
「……フォクシーマート、ね」
「フォクマがどうかしたの?」
この地球が故郷の三崎にとっては当たり前の光景なのだろう。
特にこれといった感動もなく入店すると、フェアマによく似た入店メロディが流れた。
「何か買い物?」
「ひとまず現金を調達しようと思ってな」
ATMに地球でだけ使えるチートブラックカードを挿入する。
とりあえず100万円ほど引き出すと、横で見ていた三崎がぎょっとしていた。
「えっ!? リョウジって、結構金持ちだったりするの!?」
「違う違う。借りただけだ」
そう、借りただけだ。永遠に。
チートブラックカードでキャッシングをすれば、どこかの犯罪組織の口座から足がつくことなく綺麗な現金を引き出せる。
何人かが詰め腹切らされてどっかの湾に沈むことになるだろうが、俺の知ったことではない。
「うわー。僕が言うのもなんだけど、リョウジはすごくヤバイ橋を渡ってる気がする」
三崎のジト目をスルーしつつ、かごに商品を入れていく。
テキトーに日用品をいくつかと、豆乳。あとはやっぱりチキンかな。
フォクチキか……ちょっと楽しみだぜ。
「……ねえ、なんで普通に買い物したの? 時間停めたりして持っていっちゃえばよくない?」
何事もなく普通に会計を済ませて退店すると、三崎がきわめて不穏なことを言い出した。
「何言ってんだ。そんなことしたら犯罪だろうが。こういうときは、ちゃんと金払って経済回すんだよ」
「そーゆーもんなの?」
「そういうもんだ。そういうお前は何か買わなくてよかったのか?」
「えへへー……正真正銘の一文無しだよ!」
あー……体がひょろっちいとは思ってたけど、案の定ちゃんと食ってないのか。
「つまり住所不定の無職ってことでいいか?」
「むぅ、失礼だなあっ……そのとおりだけど」
パーカーも汚れが目立つし、きっと残飯とか漁って暮らしているんだろう。
だから元の素材は良さそうなのに、いろいろもったいないんだな。
「さて……香りよし。味はどうだ?」
車道脇の歩道でタクシー待ちをしながらフォクチキをほうばる。
うん、うまい。
やっぱり味は違うけど、これはこれでいいな。
フェアチキ近似値91点。
「ああ、やっぱりいいもんだな……」
アスファルトの道路を通り抜けていく涼やかな風を頬に浴び、星のない空を見上げながら……俺は何となくつぶやいていた。
ここが俺の住んでいた地球でないのはわかっている。
それでもここは地球なのだ。
異世界には違いなくとも、ここには俺の求めるものがある。
だから1週間ほど可能な限りお行儀よく滞在して、去る。
俺のルーチンワークの中での数少ない純粋な羽休めだ。
「むー……」
三崎が物欲しそうにこちらをジッと見ている。
さらにダメ押しとばかりにお腹が鳴ると、恥ずかしそうに俯いた。
「…………食うか?」
「いいのっ!!?」
腹が膨れる程度には買い込んだので、やる分には問題ない。
……と、思っていた時期が俺にもありました。
「はぐっ、もぐもぐもぐもぐ!」
三崎が凄まじい勢いでフォクチキを消費していく。
よっぽど腹が減っていたようで、俺が買った分は全部食われてしまった。
「おかわり!」
「ったく、しょうがない奴だな。別のをやるよ」
無限増殖しておいた出来立てホヤホヤのフェアチキをアイテムボックスから取り出して与える。
パクついた瞬間、三崎の目がカッと見開いた。
「……この味! なんかさっきまでのと違うけど、どこかで食べたことある気がする!」
「あー、お前が気絶してるときに食わせたからな。気に入ったのか?」
「うん! すっごくおいしい!!」
「そうかそうか!! それなら、いくらでも食わせてやるぜ!!」
なんていってもフェアチキは完全食だからな!!
体力回復なら、これを食べるのが一番だぜ!!
三崎は拾ったタクシーの中でもひたすらフェアチキを食べ続けている。
血色が見るからによくなってきているし、肉付きもよくなっていた。
これは俺のフェアチキがチートなのではなく、三崎がそういう超代謝能力を持っているからだ。
運転手にかなり気味悪がられたが、俺は気にすることなく三崎にフェアチキを与え続ける。
「ふー、おなかいっぱい! ごちそうさまー!」
至福の笑みを浮かべながらお腹をさする三崎の体型はすっかり変わっていた。
ぶかぶかのパーカーの上からでもはっきりわかるほど、体に凹凸ができている。
心なしか美人にもなっている気がするし、これなら深夜プロレスもありよりのありだな。
「ほれ、着いたぞ」
「えっ!?」
タクシーから降りた三崎が天を仰ぐ。
俺達の目の前には巨大なホテルが鎮座していた。
「魔王ホテルじゃん! ここって、すっごく高いんじゃ……」
「お前が食ってる間に部屋を取っといた。支払いも終わってる」
クレカ決済できるなら、例によってチートブラックカードが使えるからな。
オンラインなら金の心配はいらない。
「ううっ、ナロンコンに参加するときよりも緊張する……」
おっかなびっくりついてくる三崎を尻目に、俺はドレスコード対策の高級オーダーメイドスーツをアイテムボックスから瞬間装着する。
「ちょっ、いつの間に着替えたのさ! わわっ!」
三崎の今の体型に合わせてカスタマイズした現代用ドレスをアイテムボックスから出して投げて渡す。
「お前もどっかで着替えてこいよ」
「で、でもこんなの着たことないし、わかんないよ」
「本当に世話の焼ける奴だな」
仕方がないので秒で着せ替えしてやった。
「おお、よく似合うじゃねーか」
「え? これが、僕!?」
三崎に鏡を見せてやると、自分の姿に驚いているようだった。
ついでに化粧もしてみたんだけど、まるで別人のようだ。
「……待って? ひょっとして時間停めて無理やり着替えさせた?」
「ああ。元着てたパーカーも一応俺のアイテムボックスにとっといてあるから安心しろ」
三崎が口を引き結んで、真っ赤になる。
「バカバカバカ! リョウジのバカーッ!」
照れ隠しのつもりなのか、どこからともなく抜いたダガーナイフで鋭い突きを繰り出してくる三崎。
俺の肌に触れた刀身は跡形もなく砕け散ったが……なんか三崎の攻撃にブースト強化がかかってたような?
「バカはお前だ。俺じゃなかったら死んでるぞ、そのツッコミは」
「避けてくれると思ってたんだよー! ううっ、お気に入りのナイフがぁ……」
バラバラになったナイフの刃を見つめながら涙目になる三崎。
相手をするのが疲れたので時空操作でナイフを元に戻してやりながら、ホテルに入る。
その瞬間。
「リョウジ、待って! これは……!」
三崎が慌てて俺を止めようとしたが、遅かった。
「っと。先客か?」
ホテル内に結界が展開されてる。客もフロントのホテル員の姿も消えてなくなった。
周囲の光景が紅色に照らし出される。
この感じ……外側からは見えず、迷い込んだ者を餌にする典型的な監獄結界かね?
特に警戒してなかったし、まったく気づかんかったよ。
「ほれ」
とりあえず適当に空間をデコピンすると、結界は粉々に砕け散った。
「えー……リョウジ、それはさすがにどうかと思うよ。いろいろと」
戦闘態勢に入っていた三崎が脱力したように俺の隣へ並ぶ。
ホテルのロビーは外から見た通りの賑わいを取り戻していた。
「これアレか? お前が言ってた侵略者ってやつ? 」
「うん。『紅月』が出てたからね。『魔性』に間違いないと思うよ」
俺は空を見てなかったけど、そういや周りの景色が紅くなってたな。
なるほど、あれは月光だったのか。
「あ、まただ」
「しつこいな」
再び結界が展開されたのか、ホテルロビーが紅で染め上げられた。
どうやら再展開もノーコストでできるらしい。
「ん、アレか」
ホテルのガラス張りから空を見上げると、煌々と輝く紅い月が見えた。
「なるほど、あれが紅月ね。本物の月じゃない。実体もない。結界の起点が空に鏡みたく映し出されてるって感じか」
「何ブツブツ言ってるの! 来るよ!!」
床から影のような黒い何かが、絵画からは描かれていた人物や物体が具現化して俺たちを取り囲んでいる。
それをボーッと眺めていた俺は、ロビーに備え付けられたソファにどっかと座った。
「お前に任せる」
「えっ!? ちょっと! なんでさ!」
「俺はオフだからな。それに――」
三崎に向かってニヤリと笑いかける。
「殺し足りなかったんだろ?」
「…………えへへ、バレてた?」
こちらをチラリと振り返った三崎の笑みは、邪悪な殺人鬼のそれだった。
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