日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

epina

145.消えた星にも願い事を

「と、いうわけで。僕はそろそろ行くからね」
「あばばばばばばばばばばばばばば★★★」

 未だに痙攣している御遣いの首を掴んで猫みたいにぶら下げるクソ神。

「なあ、クソ神。もうひとつだけ」
「僕は忙しいんだよ~? はいはい、なんだい?」
「ガフの部屋がなくなったら、俺やアディって解放されてもいいんじゃねえか?」

 俺やアディが異世界を彷徨う運命を課せられた理由は『ガフの部屋が詰まっちゃう』からだったはずだ。
 なら、ガフがなくなった俺たちは今後、自由になってもいいのでは……?

「ダーメ♪」

 うん、もちろん期待なんてしてなかったけどね。クソ神だし。
 それでも俺のガラスのハートは傷ついたので御遣いもろとも大破壊魔法で滅却する。

「むしろ、ようやく始まるんじゃないか。僕とキミの望んだ真のカオス時代が」

 何事もなかったかのように復活したクソ神が、やはり何事もなかったかのように復活した御遣いをぶら下げながら、ステッキの先端で器用にシルクハットのつばを持ち上げる。

「クソ神……テメーひょっとして、野上シノの企みも全部わかってた上で放置してたんじゃ――」
「フフフ……前も言ったよね。再生は破壊からしか生まれないんだよ、サカハギくん……フフ、アハハハハ!」

 ひとしきり笑った後。
 タンタン! と踵を踏み鳴らしてから、クソ神は肩越しに流し目を送ってきた。

「それにキミはまだ、ゴールしてないだろう?」
 
 などと意味深に呟いて次元転移していくクソ神に向かって、俺は。

「クソ神の癖にかっこつけんな」

 広範囲熱線魔法を放ってジュッと焼いた。

「あふっ」
「あばば★」

 それが今回のナウロン・ノイエの最期だった。
 舞台の上にはクソ神と御遣いの影だけが残る。
 ロリーノに焼き殺されたヲタクの影と3人仲良く綺麗にポーズをとって並んでいた。

 まあ神殺しでもなんでもないただの異世界魔法だから、元いた次元で復活しているだろうけどな。

「さて……これで誓約達成ってわけだな?」

 世界核はもはや元の色がわからないぐらいに赤と黒で明滅し、脈動し、つついただけでも割れ爆ぜてしまいそうな状態だ。
 心臓のように見えなくもない。
 仮想空間に存在するっていうガフに物理的な形なんてものはないかもしれないが、状況的にこの世界核が疑似ガフの部屋といえるかもな。

 ガフの部屋。
 存在を認知したのは、そこまで昔ってわけでもない。
 もちろん、いい思い出なんてひとつもなかった。
 スワンプ勇者にも苦労させられたしなぁ。

「ハハ、ハハハハ……遂にテメーも年貢の納め時だなあ!」

 だからこそか。
 手が届かないとばかり思っていたのに、いざ破壊できるとなったら笑いがこみあげてくる。
 数多くの魂を喰らってきたであろう、ある意味では最大の魔王を……俺はいよいよ倒すことができるってわけだ。

「あー、でも、敵を殺すときに『ガフに送ってやる』ってセリフ、結構気に入ってたなー」

 俺特有のキメゼリフみたいだったし。
 まあ、相手に通じないから微妙だったかもしれんな。

「でも、やっぱ。なんだかんだいって、ずっとずっとテメーのことが――」

 手の平の上に蓄えた最後のエネルギー塊を出現させながら、俺は凄絶な笑みを浮かべる。

「目障りだったぜ!!」

 世界核に最後のトドメとなるエネルギーを叩き込むと同時に、箱庭世界が爆ぜ割れた。
 その光の中、俺は召喚魔法陣の中に吸い込まれ――


 

 俺が召喚された場所は、夜の埠頭だった。
 海を挟んでネオンの輝きが星空みたいに明滅している。
 平和そうな潮騒を聞いていると本当にガフの部屋を破壊できたのか不安になってくる。

「……ここは、地球か?」

 まず間違いないだろう。
 俺がよく召喚されるファンタジー異世界ではない。
 『原初地球』から分化した地球の……おそらくは日本だ。

 誓約未達の状態で箱庭世界を破壊した場合、誓約者の故郷に再召喚される。
 その場合は魔法陣の役目を果たすものは不要であり、俺は誓約者の近くに現れる。
 案の定、足元に魔法陣の類はない。

 つまり誓約者は俺にいつか会いたいと願っていた縁あるマスちゃんでもなく。
 ガフの破壊という宿願を叶えるために俺の力を借りるしかなかった最上位神でもなく。

「……ほら、また会えた」

 海をバックにゆらりと影が蠢いた。

「実は星にお願い事をしてたんだ。会えますように、ってね」

 乙女のような甘ったるいセリフとは裏腹に、その足運びはまるで伝説の暗殺者のように静かだった。

「でも、この街はもう星が見えない。だからきっと……僕とリョウジはまた会えるって運命だったんだね」

 ああ、なんてこった。
 本当に……本当に最悪だ。

「三崎……前の世界で俺を召喚してたのはお前だったのか」

 月明りに照らし出された三崎洸の顔は、熱に浮かされたように赤く見えた。

「召喚? なんのことかなぁ」

 三崎の瞳の中に炎のような輝きが見えた。
 いや、それはずっと今までも灯り続けていた光。
 俺がずっと見て見ないフリをしていただけで。

 気のせいだと。
 人の心を理解できないサイコパス殺人鬼のこいつに、そんなことは有り得ないと。
 必死に鈍感なフリをし続けていただけ――!

「でも、ここに来てくれたってことは、リョウジは僕のお願いを聞いてくれるんだよね。あはは、緊張するなあ……」

 言うな、三崎。
 それは地雷だ。
 見えている破滅なんだ!

「えへへ……こんなのは生まれて初めてだなぁ……」

 そう……稀代の殺人鬼・三崎洸が胸に秘めているのは決して叶うことのない願い。
 絶対に成就することのない望み。
 例え俺であろうと……いや、俺が俺であるからこそ聞き届けられない呪詛なのだ。

 それを聞いてしまった瞬間、俺と三崎の関係は破局へと進む。

 だから、頼む。

 そこから先は言わないでくれ――!
 







「初めて見たときから、ずっと好きでした。僕と付き合ってください!」
「ごめんなさいちょっと無理です」

コメント

  • 炙りサーモン

    えー、
    リョウジ君さー、

    0
  • さもーはん

    素直に草。
    続きも楽しみに待ってます!

    3
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