日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

epina

127.異世界ダンジョンバトルロワイヤル

「さて、どうしたもんかなぁ」

 静止した時間の中、三崎へのネタ晴らしを終えた俺は今後の方針を検討する。

 最初のゲーム……異世界人狼は率直に言ってクソだったなー。

 ゲーム自体が異世界構図の縮図って点は風刺として評価できなくもない。
 だけど、参加者の大半が転移経験のない日本人っていうのは片手落ちだ。

「クソ神主催っていうのは違う気もするんだよなぁ……」

 クソ神は確かに悪辣で救いようのない外道だが、ブラックユーモアには妙なこだわりを持っている。
 参加者がこれっぽっちも理解できないようなジョークを押し付けるほど無粋でもない。

 最初のゲームだけで判断するのは難しいが、クソ神が自分で作った遊戯ゲームに俺を招待したって線はかなり薄くなったように思う。
 いや、不出来だからこそ俺にブチ壊してもらうために召喚したってことも有り得なくはないが。
 そもそも『ナロンコン』自体が名義貸しか協賛、あるいは主催者がクソ神の名前を勝手に使ってるって言われたらそれまでの話だ。

 ただ、黒幕がクソ神じゃないと仮定すると俺の誓約は「ゲームに参加すること」じゃないって話になってくるんだよなあ。
 召喚者がクソ神じゃないなら願いを固定するって真似はできないはずだし。
 面倒くさいけど、参加者が別の願いで俺を召喚したって可能性は捨てられない。

 御遣いと三崎のセリフからして、参加者枠は13人。
 誰が俺を喚んだにせよ、そこに嵌め込まれたのは間違いないない。
 それこそ人狼サイドが召喚者だったってオチも有り得る。

 他の参加者についても……まあ、いつもどおりの対処でいいか。
 一部を除いて完全な被害者だし、向かってこない限りは助ける方向で。
 それに、今回のケースなら『あの手』が使えるはずだしな。

「何をブツブツ言ってるのさ?」

 時間停止の例外に指定されていた三崎が、俺の顔を横からのぞき込んでくる。

「いや。ちょっと考え事」
「ふーん。とりあえず次のゲームにいかない?」
「それもそうだなー」

 どっちにせよ、ゲームに参加しなきゃならんのは変わりないし。
 とりあえず再開しましょ。

「はいはーい! それでは第二回やっていきましょー! さーてさてさて、一部のリピーターの方にはお待たせしましたぁ! 次のお題はおなじみ! 異世界ダンジョンバトルロワイヤル! 略してぇ……ダンロワー!」

 どんどんぱふぱふー!! と相変わらず御遣いが一人で盛り上がってる。
 いや、三崎だけは「待ってました!」と合いの手を入れているが。
 樋口の件を引きずっているのか、ほとんどの連中の顔は疲労の色が濃い。

「残りが9人ですのでぇ、お次はこのゲームでーす! 最初に言っておきますと生き残って次のゲームに行ける人数は5人となりまぁす! なのでみんなで仲良くゴール♪ とか甘ぇこと考えてる頭お花畑ちゃんは今のうちに首くくる用意をしといてくださいねぇー!」

 へいへい、必ず4人死んで5人生き残るゲームなのね。
 別にそれでいいから、早く進めろよ。

「ルールは簡単! これから皆さんは迷宮ダンジョンに閉じ込められるわけですがぁ、そこで出口を誰よりも早く見つけ出して脱出するだけでーす! 先着5名様が脱出した段階でダンジョンに残ってるのんびり屋さんには問答無用で死んでいただきますので、そのつもりでいてくださいねぇ!」
「ねぇねぇ、キャピエル質問ー!」

 やたら目を輝かせた三崎が元気よく挙手する。

「ルールは前回と同じでいいんだよね?」
「はい、もちろんですよぉ」

 ニッコリ笑い合う御遣いと三崎。
 あー、そーゆーことね。完全に理解した。

「他に質問はありませんかぁ? はい、ないですねー。配置はランダムなんですがぁ、転移耐性を持ってる人は一時的にオフにしておいてくださいねぇ。抵抗すると初期位置バグって壁の中とかになりますよー!」

 はーい、わかりましたぁ。

「それじゃあ、ゲームスタート!」




 俺が飛ばされたのは石壁に囲まれた部屋だった。
 一応、目の前の壁には扉がついてはいるけども。

「如何にも初期位置って感じだが……宝箱とかも何もなしか。んじゃま、とりあえず」

 扉のない方の石壁に向けて大破壊魔法をぷっぱなす。
 しかし、傷一つつかなかった。

「ふーん。破壊不可能な壁。ゲーム模倣型っていうより、ゲームそのものっぽいな」

 このダンジョンは誰かが人工的に作ったものではなく、何かのゲームのようだ。
 ゲームの器物は破壊可能に設定されていない限り、破壊不可能なことが多い。
 何かのゲームを箱庭世界にインストールしてるんだろう。
 いらんと思うが、一応ソース解析しとくか。

 今度は扉に向けて大破壊魔法。こっちは跡形もなく砕け散った。

「試しに負けてみるってのもアリっちゃアリなんだが……それでうまくいった試しはほとんどないからなー」

 リピーターのどっちかが勝利を願ったことで俺が喚ばれたとかなら、代理誓約を立ててみるって手もあるんだけど。
 あー、駄目だな。あっさり弾かれた。
 まあ、本命は本人たちが神の遊戯ゲームで勝ち残ったときに叶えられるっつー願いのほうだろうね。
 三崎と仮面チビにインタビューしてみるのもありかなぁ?

「とりあえず、脱出を目指す方向で動いてみるか」

 しっかし、嫁がいないと独り言が多くなる。
 シアンヌあたりがいい気がするけど、最近は負けがこんでて悩みがちだしなー。
 とはいえ、こんな殺伐としたところでイツナやステラちゃん出すわけにもいかんし。
 ここはひとつ、一度だけ深夜プロレスして以来出してない反抗的な嫁をリリース前提で――

「……お?」

 俺の進行方向、通路前方から誰か歩いてくる。
 この特徴的な殺気は――

「あちゃー、リョウジかー」

 やっぱり三崎だったか。

「人の顔を見るなりその反応は失礼だろ」

 俺と遭遇した三崎はあからさまにガッカリしていた。
 殺気は嘘のように消えており、少年のような顔には取り繕うような笑顔を浮かべている。
 つーか、ガスマスク外したんだな。なんでだろ。

「いやあ、そんなことないよ。また会えて嬉しいよリョウジ」
「なんだよ。あんなにはりきってたのに襲ってこないのか?」

 今回の異世界……なんだっけ?
 とにかくゲームタイトルからして参加者同士の殺しが推奨されているはず。
 御遣いとのやりとりからして三崎は殺る気マンマンだと思ってたんだが。

「だって僕が君を殺そうとしたら、その前に僕を殺すでしょ?」
「当たり前だ」
「だからやめとく。リョウジに勝てるビジョンが全然浮かんでこないしねー」

 んー、これでも魔力波動は一般人並みに落として誘い受けモードなんだけど。
 まあ、三崎には時間操作系能力者って思われてるみたいだから、仕方ないか。

「逆に俺が襲い掛かってきたらどうするんだよ」
「うーん。そのときはできるだけ抵抗はさせてもらうよ」

 なるほどね。
 三崎という殺人鬼がどういうタイプなのか、だいたいわかってきた。
 こいつ、自分の生存や利益のために誰かを殺すことを躊躇わない系だ。
 典型的なサイコパスだな。

「いや、やめとく。敵対してない女を殺す趣味はないからな」
「そうなんだ~……って!? 僕が女だって気づいてたの!? いつから!?」
「なんだ、隠してるつもりだったのかよ」

 ノリツッコミ気味に食って掛かる三崎をなだめてから、肩を竦めてみせる。

「そんなの最初からだ」
「最初からって、どうやって!?」
「匂いに決まってんだろ」

 こんなの別にチートでもなんでもない。
 フェロモン矯正手術でもしてる奴ならともかく、男と女を嗅ぎ分けるぐらいなら朝飯前だ。

「そ、そうなんだ。一応男装してるし、匂いも消してるはずなんだけどなぁ……」

 体をクンクン嗅いでる三崎はぶかぶかのパーカーみたいなのを羽織ってるし、確かに体のラインは見えにくい。

「声は女にしちゃ低い方だし体の凹凸も乏しいから、男装できてると思うけどな。顔も中性的だし」

 俺のわざとらしい言い草に三崎がムッとする。

「女とわかってる相手に失礼じゃないかな! かな!?」
「じゃあ、お互い失礼なことしたってことでおあいこだな」

 俺がおどけてみせると、頬を膨らませていじける三崎。

「なんか誰か殺すって気分じゃなくなっちゃったなー」

 三崎はホント表情がコロコロ変わるな。
 本人はこう言っているが、何かスイッチが入るきっかけがあればすぐに殺人鬼モードに戻ると思う。

「そういや、このゲームもやったことあるんだろ。出口はやっぱりランダムなのか?」
「え? ああ、うん。構造は前回とも前々回とも違うし、そうなんじゃないかな」

 となると、新しい情報はなし、と。

「あっ、今あからさまに『役立たず』って顔したでしょ!」
「してないしてない」
「ふん! じゃあ、いいよ。僕の有能さを証明して君の鼻を明かしてやるんだからね!」

 よくわからんけど三崎がついて来いとばかりに前を歩き始めた。
 何も言っていないのに、いつの間にか共闘する流れになっているのはどういうこっちゃね。

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