日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
125.人狼は誰だ
「なんだ!?」
慌てて出ていく樋口の後についていくと、外では凄惨な光景が繰り広げられていた。
3mほどの体躯の狼頭の毛むくじゃら……人狼らしき奴が両腕にひとりずつ人間を抱え、片方の喉笛に喰らいついていたのだ。
もう片方の人間も既に首に噛み跡がついて死んでいる。
犠牲になった2人は、俺の中では完全にノーマークのモブだった。
「こいつはすげぇ! 人狼化って能力を使えば、どんな奴も敵じゃねえってわけか!」
イキり倒している人狼の様子からして、どうやら人狼サイドには人狼に変身する能力が与えられるようだ。
ん、これってひょっとして?
…………あー、やっぱり。
つまり、この異世界人狼ってゲームは俺が参加した時点で……。
「はっはぁ! 要するに村人が減ればいいってことなら、簡単じゃねえか! 人狼だってわかってる奴ら以外、みんな殺しちまえばいいんだ!」
んー、さてと。どうすっかな。
楽しむ楽しまない以前に、俺視点でカラクリが見えた段階で異世界人狼はとっくに破綻した。
俺自体は村人サイドだから、この人狼はとりあえず殺していいとして。
その後はどうすっかなぁ……面白い壊し方も思いつかないし、流れに身を任せればいいか。
「あー、まったく。キミみたいに短絡的なのがいると、つまんなくなるんだよねー」
次のアクションを思案している間に三崎が人狼の前につかつかと歩み出て、呆れ気味に巨躯を見上げた。
「あぁん? じゃあ、次はてめぇだ。覚悟しやがれ!」
人狼が死体を放り投げて、三崎に踊りかかった。
しかし、人狼の素早い掴みかかりを三崎は紙一重で回避する。
「とりあえず、大人しくしてもらおっかな」
そしてどこから取り出したのか、その手に握った銀色の短剣をカウンター気味に人狼の脇腹あたりに突き立てた。
「い、いてええええっ!!! な、なんで……攻撃は効かないはずじゃあ!」
「人狼の弱点は銀武器なんだよ。ちゃんと人狼化のデータ確認した? してないよね。してたら、こんなバカな真似はしないでしょ?」
人狼が怒り狂って暴れまわるが、すぐさま間合いを取った三崎にはかすりもしない。
「人狼カミングアウトってことならキミ吊り確定だね。そんでもって人狼に襲われた僕は村視点でも村人サイド確定で問題ないかな? あ、ちなみに僕が人狼データ知ってて銀武器持ち込めてるのは前にも参加したことのあるリピーターだからね。信じるも疑うもご自由にどうぞ。それと、とりあえず村人サイドのみんなは、あの人狼を指差して『吊り』って念じてみて。それで動きは止まるし、あいつは死ぬよ」
「……あ、そういうことか!」
「えっとえっと……わけわかんないけど、とにかく指差せばいいんだよね!?」
「……わかった」
三崎の指示に真っ先に従ったのは人狼博士ヲタク君だった。
ちょっと遅れて女子高生と樋口。
俺も人狼を指差すと、他の連中もまばらに人狼を指差しだした。
「ぬおおおおっ! な、なんだこりゃ! 動けねえええええっ!!!」
すると空間から縄のようなものが出現して、人狼の全身を縛り上げた。
縄は首にもかかっている。
「君はもう『吊り』が確定したんだよ。だから死ぬ。じゃ、遺言があればどうぞ」
「嘘だ! 俺が……俺がこんなところで……! 人狼ども、俺に続け! コイツらをすぐ皆殺しにすれば俺も生き返れるんだぁあああああ!!!」
何人かが逡巡するように顔を見合わせたが、結局は人狼に向かって指を差した。
「てめえらぁぁぁ!! 俺を見捨てやがって! 絶対に許さねえからなぁぁぁ!!」
その叫びは首の縄がきゅっと絞まるとともに、ぱたりと途絶える。
後に残るのは縄も人狼化も解けて地面に放り出された、無様なガテン系の死体だけだった。
「し、死んでる。本当に死んでる……」
「あははは……どうしよう、頭がどうにかなりそう……」
人狼ヲタと女子高生がすっかり脱力して尻もちをついた。
目の前で起きた惨劇は、普通の日本人には刺激が強すぎるよな。
てっきり喚き散らして逃げ出すかと思ったが、他の連中のリアクションも似たり寄ったりで……現実を認識できてなさそうな様子だ。
そんな中、樋口が深呼吸をしてから手を合わせた後、人狼だったガテン系と犠牲者に近づいて手を掲げた。
「……人狼、だな。被害者は村人。まあ確認するまでもないだろうけど……」
「あっ、霊媒師だな! 役職があるってことは、他の誰かがカミングアウトしなければアンタは村人確定なんじゃないのか!?」
人狼ヲタが我が意得たりと樋口に声をかけるが、三崎が首を横に振る。
「いーや。残念ながら、それはわからないよ。人狼は誰が村人で人狼か最初から知ってるから、いくらでも役職騙れるし。各役職がどういう能力持ってるかも人狼になった時点で把握できるから。ちなみに役職は何が何人いるのか完全にランダムで、僕が今まで参加した異世界人狼では『占い師』『霊媒師』『狩人』が13人の中にそれぞれ1~2人ずつってところかな。だから他に霊媒師がカミングアウトしたとしても、村人か人狼かは確定できないんだ」
一気にまくしたてるようにして、他の連中に現状を理解させようとする三崎。
明らかに人狼にとっては知られたくないことで、村人にとって利のある情報。
真っ先に反応したのは樋口だ。
「見た目はどうしようもなく怪しいが、リピーターだっていうのは本当みたいだな」
「今の情報を信じるか信じないかは自由さ。疑うならキャピエルを呼んで真偽確認したらいいよ。僕の説明に嘘はないってわかるから」
確かに嘘はなさそうだ。
村人からすれば頼もしい限りだが、だからこそ他の連中からすれば信用を得ようとする人狼にも見えなくもないってところか。
「で、見てのとおり生き残りの過半数が指差した奴はその時点で『吊り』で死ぬよ。だから人狼だと思ったらコイツが人狼だと思うからって好きなタイミングで決を採れば、そいつは殺せるんだ」
「えっ……『吊り』は1日1回のが普通なんじゃ?」
人狼ヲタの質問に三崎が肩を竦めてみせた。
「そんな回数制限ないよ。人狼化も今みたく好きなタイミングでできる以上、村人サイドの対抗手段に回数制限があったら不公平でしょ。一応、人狼か村人かを判別できる占い師の占いは早朝しか発動しないから、今回みたいなことが起きない限り吊りは1日に1回ペースだけどね。『霊媒師』の検死は無制限。『狩人』が指定した相手は人狼の攻撃に対して無敵になる。ただ同じ相手を2日間続けて守ることはできないし、狩人は自分本人を守ることはできないからカミングアウトはよっぽどのことがないかぎりしないほうがいいね」
長い説明だったが……要するに、人狼は他の村人がいる前で人狼化を使った時点で吊られるのが確定するってわけだな。
「で、早速みんなに提案なんだけど。そこの2人、試しに吊らない?」
三崎に示唆された渋谷系カップルの男女がビクッとした。
「な、なんでだよ!」
「そ、そうよ。何の根拠があって!」
「人狼は無意識に群れる。さっきの奴が吊り確定して遺言を残したとき、そこの2人は最後の方まで人狼を指差さなかった。しかもお互いにどうするかってアイコンタクトを取ってたんだよね」
三崎の指摘にカップル男がブンブンと首を振る。
「そ、そんなの出鱈目だ!」
「いや、俺も見たぜ。そこの2人は最後まであいつの吊りをするか迷ってたな」
俺の援護射撃にカップルが顔を青くした。
「そんなこと言って、アンタたちグルなんでしょ! 村人のみんな聞いて、あいつらこそ人狼よ!」
「待て!」
一触即発の雰囲気に割って入ったのは樋口だった。
「この中に占い師っていうのがいるなら、ここで挙手してくれ」
誰も出てこない。
三崎の説明が真実なら、占い師は確実に襲われるだろうしな。
ひょっとしたらさっき殺されたどっちかが占い師かもしれないし。
よし、ここは――
「俺が占い師だ」
挙手してカミングアウトした。
「……もう一人いないのか? 狩人をつければ少なくとも今日は安全なんだから、出てきてもいいだろう?」
樋口が困ったように全員に確認する。
カップルと対立している俺が占い師では真偽が付きづらいから当然と言えるが、結局もうひとりの占い師は出てこなかった。
「ひょっとして、殺された2人のどっちかだったのか……? 仕方ない。狩人は初日、彼を守ってやってくれ。そういうわけだから、4人とも一旦ここは落ち着かないか? 少なくともひとり、人狼を吊れているんだから。とりあえず、この2人のどちらかを占う。それでいいな?」
「ん、いいよー」
樋口の提案に三崎は意外にもあっさり引き下がった。
「クソッ、人をいきなり疑ってきやがって」
「感じ悪いー」
カップルもしぶしぶといった様子だが矛を収める。
「あ、ちなみに夜は全員、それそれ好きな建物で寝られるよ。村人は夜の間は建物の外に出られないし、建物ひとつにつき一人しか入れないようになっちゃう。だから夜に出歩く人狼が他の村人に目撃されることはないってわけね。そんでもって、人狼は1日につき建物の扉をどれかひとつだけ開けられる。だから村人は原則として1日に1人ずつしか殺されない。さっきみたいな考えなしの馬鹿が現れなければね。そういうわけで……今のうちに自分がどこで寝るかを決めておいたほうがいいよ。じゃ、僕はあそこで。じゃねー」
手をふりふりしつつ、三崎は家の中に入っていった。
その際、俺に何やらアイコンタクトを送ってきたが……気づかないフリをしておいた。
他の連中もしばらくはどうしたものかと話していたが、結局は自分が決めた各々の建物へと入っていく。
最後に残ったのは、樋口と俺だけだった。
全員がさっきまで集まっていた集会所の中心には薪が並べてあって、空が急速に赤くなっていったかと思うと勝手に火がついた。
「なんでこんなことになっちまったんだろうな……」
炎を囲んで樋口がひとりごちる。
「言ったと思うが、異世界召喚は運だ。俺たちの都合は一切斟酌されない。交通事故にでも遭ったと思って、とりあえずは受け入れるしかない。抗うのは、その後だ」
「そう、か。そうだな……」
俺の個人的意見を聞いた樋口が何か納得したように深く息を吐いた。
「アンタ、名前は?」
「逆萩。逆萩亮二だ」
「まあ、もう知ってるとは思うけど俺は樋口万里生だ」
樋口が何かを悟ったように、ふっと笑う。
「……こんなこと言うのも変かもしれないけど、アンタには感謝してる。一緒に生き残ろうぜ」
「そうだな」
こうして、初日は終わった。
残りは10名。
村視点で村人7名、人狼残り3名。
次の日。
時間が進むのが早いんだけど、体感時間にして3時間ほどだろうか。
全員の注目が――サラリーマンだけは「構わないでくれ!」と引きこもったまま家から出てこなかったが――家から出てきた俺に集まる。
昨晩寝ていた家ではなく、朝に集会場に現れず、サラリーマンと違ってノックしても反応のなかった奴の家だ。
村人を代表して、俺が死体を確認してきたのである。
「どうだった?」
「ああ、死んでたよ」
人狼ヲタのおそるおそるの確認に、俺は至極あっさり答えた。
「これが遺品だ」
手に持った袋の中から取り出した血だらけのガスマスクを見ると、全員が息を呑む。
死体はなかったが、凄まじい量の血だまりが残されていた。
人狼にかなり凄惨な殺され方をしたのだろう。
「殺されたってことは、三崎は村人だったんだろうな」
役職をカミングアウトしていない三崎を殺害したのは、やはりリピーターを警戒してのことだろう。
まあ、人狼サイドが本当に警戒しなきゃいけないのは俺だったわけだが。
「それで、どっちを占ったんだ?」
樋口が渋谷系カップルの方を見ながら、俺に聞いてくる。
「占い結果だが――」
一拍置いてから、はっきりと告げる。
何かとフラグ立てに熱心だったひとりの男を指差して。
「樋口万里生は人狼だった」
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炙りサーモン
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