日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

epina

28.異世界の新魔法

「わー、すごい。人がいっぱい!」

 予選大会当日。
 馬鹿でかい闘技場にむさ苦しい連中が集まっていた。
 どうやらヒュラムや王国近衛隊長は本選入り前提のシード選手らしく、予選会場には姿がない。
 予選ということもあってか観客の数はまばらだ。
 まあ、こんなもんなのかね。

「ねーねー、この人達をみんなやっつけるの?」

 初めて味わうお祭り感にイツナがはしゃぎまくっていた。

「そうだ、皆殺しにしてやればいい」
「いや、殺したら失格だろ」

 はいシアンヌちゃん、そこで「バカな!?」って顔をしない。

「へへっ、ここはお姉ちゃんたちみてえなのが来る場所じゃないぜ」
「レクチャーしてやるよ、ぐへへへへ」

 などとお約束どおり絡んでくるチンピラが何人かいたが、いずれもシアンヌに物陰に誘われた後、戻ってこなかった。
 かわいそうにね。

「これより魔戦大会、予選を執り行います」

 司会役によるルール説明が行われた。
 武器も魔法も何でもありだが、相手選手を殺害したら失格。
 故意だと認められなければ事故として扱い、罪には問われない。
 ダウンか場外で審判がテンカウントとるか、気絶や降参なら勝敗が決する。

 転生者が考案した大会だけあって、実にテンプレに基づいたルールだった。

「予選は多人数勝ち抜きサバイバル戦です。事前に渡された番号を呼ばれた選手は闘技舞台に上がってください」

 割り振られた番号が読み上げられると、少しずつ舞台の上に選手が集まっていく。

「あっ、わたしの番号呼ばれた!」

 おお、早速か。
 ふとあることを思いついて舞台に駆け上がっていこうとするイツナを引き止める。

「イツナ。予選の間はショックバトンだけで戦え」
「なんでー?」

 イツナが首を傾げた。
 ショックバトンというのは、召喚奴隷の異世界でイツナが持っていた警棒のことだ。イツナの電気を通すことができる白兵武器である。
 もちろんこの指示は実力を知られ過ぎないようにするためのものだが、そんなふうに言ってもイツナは理解しない気がする。

「それができたら、なでなでしてやる」
「ほんと!? やる!」

 嫁のハンドリングはアメとムチ。
 イツナのご褒美はこれに限る。

「何人かあきらかに魔力波動が他と違うヤツがいる。なんだ?」

 お、シアンヌは鑑定眼を使ってるみたいだな。

「この異世界の新世代魔法の使い手ってところだな。そのまま見ててみ」
「ほう」

 なんて会話をしてる間に試合が始まったらしい。

「ほえ?」

 イツナ以外の選手が申し合わせたように、魔法使いへ殺到する。
 まあ、魔法使いが毎年好成績を残すほど脅威になってるなら、それが定石になるわな。

「マナエクス……うわああッ!!」

 何やら呪文を唱えている間に魔法使いがひとりフルボッコにされた。
 さすがに数の暴力は強い。

「スタンクラウド!」
「フリーズボール!」
「フレイムウェーブ!」

 しかし、魔法使い側もやられるだけではない。
 広範囲魔法で固まった選手たちを薙ぎ払う。

「ファイアウォール!」
「ファイアウォール!」
「フライト!」

 さらに舞台の角を確保した魔法使いがふたり、炎の壁で陣地を確保した。
 炎の壁に飛び込むのは勇気がいるから、近づこうとしていた何人かの選手がたたらを踏む。
 もうひとりは空に上がった。

 シアンヌが驚愕の叫びを上げながら、身を乗り出す。

「あいつら、詠唱もなしに魔法を使うのか!?」
「そうさ」

 シアンヌの異世界では魔力波動は固定と考えられていたから、当然知らなかっただろう。

「あれが魔力波動を操って使う『波動魔法』だ」

 異世界魔法を使うには通常、動作と詠唱が必要である。
 なんでと言われてもよく知らん、なんかとにかくそうなのだ。
 魔法を使うために必要な異世界源理の力にアクセスするには必要なプロセスだと、嫁のひとりが言っていた気がする。

「波動魔法は、自らが纏う魔力波動を操作することで源理へアクセスする課程を簡易化した……いうなれば第二世代の異世界魔法なんだよ」

 なんで簡易化できるのかもやっぱりよく知らん、とにかくなんやかんやあるのだよ。
 無詠唱チートとの違いは、発動する魔法の名前だけははっきり声に出さなければならない点かな。

 ちなみに魔力波動や波動魔法っていうのは俺が勝手に言ってるだけなので、この異世界でも別の呼ばれた方をしているはずだ。

「詠唱省略以外にもメリットはあるのか?」

 シアンヌが興味深げに聞いてくる。
 まあ、あと代表的な利点と言ったら……。

「精神力の消耗が圧倒的に少ない」
「それは確かに大きいな」

 実感の籠った返事だった。
 魔力消耗の激しい暗黒球体を使っているシアンヌにはわかりやすい利点だろう。
 魔力回復チートを手に入れているから、もうあんまり意味ないけど。

 さて、会話をしている間に角の魔法使いがひとりやられていた。
 とはいえ、戦士タイプの選手もだいぶ数を減らしている。
 空を飛んだ魔法使いが一方的に範囲魔法による爆撃を加えているからだ。
 何人かに射掛けられているが、飛び道具避けの魔法で弾いている。

「ファイアボール! マナエクスプロージョン! はは、どうだ!」
「わわっと」

 爆撃くんのターゲットはイツナのようだ。
 イツナの魔力抵抗なら十分レジストできると思うけど、全部避けている。

「ずるいよ! 降りてきてよー!」

 いつもなら雷を落として倒せるだろうが、バトン縛りなので近づかないといけない。
 見上げて抗議するイツナに、爆撃くんが調子に乗って余計なことを言った。

「やなこった! 悔しかったらお前も空を飛んでみるんだな!」
「あ、そうか! お兄さん頭いいね!」
「なんだと!? ガキが、バカにしてんじゃ――」

 次の瞬間、イツナが飛んだ。

「イオノクラフトか!」

 高電圧で空気をイオン風にして物を浮かす、SFとかでよくみる技術である。
 もちろん、俺のいた時代では人間を浮かす……ましてや飛ぶなんてことはできない。
 だけど電流操作は現実の法則を『だいたい』再現するチートなんだから、細かいことを気にしては負けである。
 イツナも直感的にできると感じたから、ぶっつけ本番で飛んだのだろう。

 UFOのような不規則な飛行を繰り返すイツナに、爆撃くんは何の対処もできなかった。
 電流の通ったバトンを腕に食らい、感電。気絶したところをイツナに回収される。

 この時点で魔法使い組は全滅しており、残った選手も満身創痍。
 当然イツナの敵ではなく、程なく本選出場を決めた。

「えへへへ! サカハギさん!」

 なでなでへの期待を胸いっぱいに秘めて、満面の笑みで俺を見上げるイツナ。
 俺もにっこり笑いかける。

「バトンだけって言ったのに、イオノクラフトを使ったな。なでなではなしだ」
「そんなぁ、ひどい!!」


 俺とシアンヌも普通に無双し本選出場となった。
 予選で俺たちが被ることはなかったので、身内で試合をするとしたら本選ってことになるな。
 イツナがおねむになったので封印珠、シアンヌは他の試合が退屈だからと先に帰ったので俺ひとりだ。

「待ちなさい」

 会場を出たところで、フードを被った女に真正面から声をかけられた。

「おろ、わざわざお出迎えかい?」

 あの豪奢ローブは忘れもしない。
 ヒュラムと一緒に道場に来た女だ。

「どうして貴方がここにいるのですか」
「アンタは?」

 怒気の籠った質問に質問で返していくと、女が乱雑にフードを脱いだ。
 お、チート転生者のハーレムメンバーだけあって美人じゃん。

「アマリア。ヒュラム様の一番弟子です」
「へー、それで? 俺がここにいると何か問題でも?」

 俺の挑発にキッと視線をきつくして、アマリアが傲岸に言い放った。

「ヒュラム様が道場に関わるなと厳命したはず。なぜ魔戦大会に出ているのですか!」
「いつ俺たちが出場すると知ったと聞きたいところだが、まあいいや」

 まあ、あの魔法使いたちはヒュラムの弟子らしいから、そこから知らせを受けて来たってところかな?

「俺は道場とは関係なく、自分の判断で大会に出てるだけだぜ?」

 俺の言い分に対し、勝ち誇るように嘲笑するアマリア。

「貴方が予選で使っていた剣技は間違いなく剣星流でした。私の目は誤魔化せません」
「あ、見てたのね。バレた?」

 それなら言い訳してもしょうがない。
 確かに俺が使った剣技は剣星流のものだ。 
 まあ、剣星流として勝たないと誓約を果たせない可能性があるからな。
 エイゼムの心境を考えたら、剣だけで魔法に勝って優勝するのがベストだろうし。

「どうしてそこまでヒュラムは剣星流を目の仇にする?」

 まあ、剣星流のせいで魔法の才能つきで転生したのに思いっきり不遇な目にあったとか、そんな感じだろう。
 俺が知りたかったのはアマリアがどういう理由でヒュラムに従っているかだ。
 ヒュラムの動機にどういう態度をとるかがリトマス試験紙になる。

「ヒュラム様がそうおっしゃるからです。他に理由などありません」

 アマリアの目にある種の誇りが輝いたのを見逃さなかった。

「ああ、なるほど」

 その返答に得心して頷く。

「お前、奴隷か元奴隷だろ」

 わざと無神経な言い方をして反応を見る。
 予想通り、アマリアは絶句した。血の気も引いている。

「ヒュラムに買われて魔法を習って、いろいろよくしてもらったから忠誠を誓ったとか、そんなところ?」
「私とヒュラム様のことをそのように軽々しく言うな!」

 挑発に激発し、アマリアが右のてのひらを俺に向ける。
 魔力の高まりを感じた俺は強引にその手首を取った。
 アマリアの表情が痛みに歪む。

「やめときな」

 魔力波動に干渉してアマリアが発動しようとしていた攻撃魔法を散らし、耳元で囁く。

「お前の大事な大事なご主人のことを思うなら、こんなところで命を無駄にするんじゃない」

 拘束から解放すると、アマリアは触れられた手首を抑えながら距離を取った。

「今のは、何をした!?」
「もし俺と本選で戦うことがあったら教えてやるよ」

 理解不能と訴える瞳を正面から見返してから、アマリアの横を堂々と通り過ぎる。

「貴方は私の敵です!」

 そのまま歩き去ろうとした背中に、強い怒りをぶつけられた。

「ヒュラム様には指一本触れさせないから、そのつもりでいなさい!」

 ……へいへい、安心しなよ。
 徹頭徹尾、お前さんの敵であることを貫いてやっから。
 だから精一杯、後悔のないよう自分の人生を生きることだな。

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