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才能ゼロのサキュバスは世界最強の弟子となりやがて魔王となる

蒼凍 柊一

第六話 魂に魔導を刻む、魔導刻印。

「あら? おかえりなさい早かったね……って、きゃー! どうしたのシオンちゃん! グレンちゃんが乱暴したの!? だったら私に任せて! 殺せないけどお仕置きくらいならきっとできるはずだから!!」

 ヴィオラが半裸のシオンを見て叫ぶ。
 どうやら彼女の思考回路ではグレンがシオンに乱暴したように見えるようだ。

 ――確かに、状況からすればそれしか考えられないのだがいくら何でもグレンの信用がなさすぎだろう、とシオンは心中で突っ込みを入れる。

「こ、これは魔導魂剣ソウル・デバイスを作ったら服が……!」

 きゃーきゃーと騒ぐヴィオラにシオンは事情を説明する。

魔導魂剣ソウル・デバイス……ああ、あの聖剣を作ったのね? なるほど、グレンちゃんも考えたわねぇ」

 ふむふむ、と妙に感心した様子のヴィオラだったが、シオンとしては早く家に帰ってこのぼろぼろのローブではないものに着替えたかった。

「あの、ヴィオラさん。私を家に……流石にこの格好で鍛錬を続けたくは……」

「あぁそうだったわね! ごめんなさい、私ったら魔導の事になるとついつい考えこんじゃって。服ならさっき検査した時のデータが残ってるから、再生できるわ! ちょっと待っててね☆」

 ウィンクをしてなにやら魔導を無詠唱で発動させたヴィオラ。
 すると、みるみる内に先ほどまで着ていた服が虚空から生成されて出てくるではないか。

 ――下着まで寸分たがわず同じものが出てきた。

「……こ、これは……」

「? さっき検査した時にあなたのすべてのデータを取らせてもらったの。だから、あなたが魂の元素オリジンだけになっても、ここで生き返らせることが出来るのよ」

 今シオンは耳を疑うようなことを聞いたが、聞かなかったことにした。
 意味が分からないし、仕組みを知りたくはない。
 知るとしてももう少し落ち着いて、魔導戦士として一流になってから研究したいと思ったのだ。

 気軽に渡された服一式を身に着けたシオンは、再び訓練場の転移魔導陣の上に立たされた。

「まだ魔導は使えないみたいね? 行ってらっしゃーい♡」

 ふりふり、とヴィオラが手を振りシオンを転移させる。
 されるがままのシオンの目は少し死んでいたとか。


――――――――――


「お、戻ってきたか。さっきはすまなかったな」

 シオンが戻るなりグレンは腰を折って謝罪した。
 婚姻前の女性の肌を直に触れてしまったことを思い悩んでいたのだ。

「気にしないで。グレン師匠は悪くない。……それより、魔導の指導、よろしくお願いします」

 表情的には平然を保ちつつ、クールにシオンは立ち振る舞う。
 ここで赤面してしまってはグレンをさらに困らせることになってしまうからだ。
 サキュバスとはいえ、師匠に色仕掛けを所かまわずやるほどではない。

「あ、ああ。じゃあこの剣に魔導刻印をしよう。――魔力がないとは言え、魔導刻印くらいは聞いたことがあるだろう?」

 シオンはこくりと頷く。
 魔導刻印とは武器や防具に魔力を込めて魔導の刻印を掘ることによって切れ味の強化や強度を高めたりする魔導の一種だ。

「んで、その魔導刻印をこの魔導魂剣ソウル・デバイスにするわけだが、さっきも言った通り、この魔導魂剣ソウル・デバイスは君の魂に等しい。魂に等しいということは、魂に魔導刻印を施すのと同義だという事を覚えてくれ」

「魂に魔導刻印を施すと、どうなる……?」

 当り前の疑問を聞くとグレンは得意げに解説をしてくれた。

「魔力の増強という刻印を掘れば、君は魔力をため込むことができるし、身体強化の刻印をすれば君は常時凄まじい力を発揮できるようになる」

「――それって、かなりすごいことじゃ」

「ああ。すごいな。こんな危険でヤバイことしてるのは俺くらいのもんだ。下手な奴というか、魔導にかなり詳しい奴でも魔導魂剣ソウル・デバイスを作った瞬間絶命するからな。刻印したらその本人まで影響が行くとか考えもしないだろうし」

 その言葉を聞いたシオンは、自分はいい実験台にされているのではないかと少し疑念を抱いてしまったが、すぐに思い直した。
 グレンとは誓約を交わしているのだ。自分が魔導戦士になれなければグレンは絶命する。
 そんな状況で自分を謀ろうなどと思うはずもない。

「さて、それじゃあシオンの剣を喚び出してくれ」

「……どうやるの?」

「教えてなかったな……さっきの魔導陣を思い浮かべてくれ」

「――思い浮かべた」

 何故か先ほどよりも鮮明に思い浮かべることが出来た。
 細部まで鮮明にだ。

「そうしたら、それを解放するように右手を突き出せ」

 解放するように、が良く分からなかったが、手から放出するイメージでシオンは右手を突き出す。
 すると、先ほどの白銀の剣が何もない場所から現れた。

「できた……!?」

 こんな簡単に魔導を制御できるなど知らなかったので、シオンは嬉しくなった。
 しかも魔力などひとつも使ってはいない。一体どういう仕組みなのか良く分からないが、とにかくこれは大きな進歩だろう。

「ははは、まぁ、魂と同一だからな。陣として描かなけりゃ、永続自動治癒と魔導魂剣ソウル・デバイスの出し入れができるだけの魔導だ。さて、こっからが本番だぞ? まず、その【白銀の討滅剣シルヴァ・リンドヴルム】と君の魂の同調率を上げてくれ……って言っても分からないよな。理想を思うだけでいい。やってみてくれ」

「やってみる」

 シオンは思い浮かべる。
 熱く胸にある理想を。気高き魔導戦士の姿を。

 すると、【白銀の討滅剣シルヴァ・リンドヴルム】が光を放った。

「流石俺の弟子だ! 初っ端からこの同調率とは……! これならいつでも魔導刻印を施せるな。よしっ、シオンに一番向いていて力が最大限に活かせるのは……この組み合わせだな。シオン。一度剣から意識を放してこの魔導書を開いてくれ」

 いつの間にかシオンの目の前に山ほど魔導書が積まれていた。

「……これ、全部刻印するの?」

「ああ。自分でやらないと事故につながるからな。一応言っとくが、その魔導書全部読んで一つの魔導として刻印するから、開き忘れがないようにするんだぞ。まぁ、読み終わったら消えるから、どんどん手に取って開いていってくれ」

 そこから初めてシオンは修行らしきものをした。
 平坦な声を延々と聞き続け、魔導に頭を支配される感覚を延々と繰り返す。
 ――苦行だった。

『シオン・グレイス 対象認定 完了』
『シオン・グレイス 対象認定 完了』
『シオン・グレイス 対象認定 完了』
『シオン・グレイス 対象認定 完了』
『シオン・グレイス 対象認定 完了』







――――――――――

 百数えたあたりでもう数えるのをやめた。
 途中から不思議なことに変な頭痛が消え、魔導陣がスっと頭に入ってくる感覚に変わった。

 グレン曰く、それは魔導に慣れてきた証だという。

 最後の一冊を開き、魔導が刻み込まれ本が消失するのを見届けると、シオンは大きく息を吐いた。
 いつのまにか【白銀の討滅剣シルヴァ・リンドヴルム】が消えていたが、グレンによると、魔導魂剣ソウル・デバイスは所有者が必要のないときには魂と同化するのだとか。

「ははは、疲れたか? これくらいで音を上げるなよ? シオンは俺の弟子なんだからな」

「は、はい……。頑張る」

 目頭を押さえながらよたよたと歩いていると、先ほど刻み込まれた数百という魔導陣が幾何学模様となって頭の中で巨大な陣として構成された。
 酷い頭痛を伴って。

「痛っ……」

「流石にサキュバスは早いな。種族的に魔導処理が速いのか。……シオン。でかい一つの魔導陣に組みなおされたか?」

 その様子を見てグレンがいい、シオンはこくりと頷いた。

「じゃあさっきの剣をもう一度出して、同調率を上げ、あとは魔導が導いてくれる」

 上手くいくことを祈りながら、シオンは剣を顕現させた。
 痛む頭を無理やり働かせ、強い意志の元理想を掲げる。

 先ほどと同じように剣は白銀の光を放った。

 そこからは驚きの連続だ。
 ただただ剣を握っているだけなのに、頭に描かれている魔導陣が剣の刀身にどんどん書き込まれていくのだ。
 柔らかな光で刻まれていくソレを見ていたら、不意に心臓のあたりが苦しくなった。

「くっ――あぁっ!」

 激痛に立っていられなくなり、剣を放そうとするも両手が自分の意思を聞かないかのように、剣から手が離れなかった。

「魔導展開速度に異常はない。サキュバスの体としてこれは普通の反応か……。ふむ、血の呪いとの因果関係も解消されるはずだ……シオン、耐えるんだ。今君の魂に魔導を制御するための刻印され、それが自動的に最適化してる。」

 体を支えられて、グレンの手がやさしくシオンの手を包み込む。
 それでも痛みは引かず、シオンの目から涙があふれてくる。

「ひぃんっ、も、だめぇ……耐えられ、ない……はぁ、はぁんっ!」

 痛みにあえぐシオンの姿を見て、グレンの情欲に灯がともりそうになる。

「…………/// はっ! いかん、惑わされるな俺」

 小声でつぶやき魔導に集中する。
 途中でふよふよとした柔らかな二つの膨らみの感触がしたが、集中力だけは切らさないように務める。

「ひゃめぇっ、それ、ゃめぇぇぇえ! ひっ、ひっ、あぁぁ……!」

「なんだってそんな喘ぎ声を……! くそ、もう少しで全部入るから、落ち着け――深呼吸しろっ」

 それでも喘ぎが止まらないシオンを危険と見るや、グレンはすぐさま行動に移す。

 ――人工呼吸。

 口と口を合わせ、空気を送り込んだ。

「――――!?」

 それに驚いたのはシオンだ。
 抑え込まれるように抱きかかえられ、口づけをされている。
 驚いて少し暴れるも、グレンの膂力に抑え込まれた。

「――ぷはっ、落ち着いたか? シオン」

 正常に息を繰り返すシオンの気配を察知して、唇を放すと、真っ赤になったシオンと目が合った。

「にゃ、にゃにを……!?///」 

 噛みまくってしまったが、意図は伝わったはずだとシオンは思う。

「あのままだったらシオンは窒息してたからな。応急処置だ……その、すまなかった。とっさであれしか思いつかなくてな」

「……/// だい、大丈夫です……! それよりも魔導の方は上手くいったの……?」

 剣を見ると、薄く光が放たれている場所が刻印がされているように見える。
 グレンはそれを一通り眺め、満足そうに頷いた。

「大成功だな。これで魔導と剣を君が扱うのに最高の魂になった」

 その言葉にシオンの鼓動が高鳴る。
 キスのせいもあるが、ついに魔導戦士に近づくことが出来たのかもれしないのだ。

「じゃ、じゃあ、これで私もグレンみたいに魔導が?」

「ああ、だが魔導戦士が普段使う詠唱式の魔導を正しく俺は使えないから、多分シオンもそうだろう。そこは覚えておいてくれよ?」

「わかった」

 話しながらグレンはまたもや魔導書を出した。
 二十冊ほどなので、さっきの数百冊に比べたらなんてこともない量だ。だが違う点もある。
 それは、背表紙にきっちりと魔導名が書かれていることだ。数百冊もあった方は、ほとんどが古びていて読み取ることが出来なかった。

「さて、それじゃあ基本的に戦闘に使うこの魔導を頭に入れてくれ。ちゃんと魔導名と陣を関連付けて直感で引き出せるようにすること。但し、試験に出る魔導とは形式も考え方もほとんど違うから、俺式の魔導のことは合格してから教える。とにかく今は戦闘に耐えうる技術と、一般的な魔導の考え方を頭に叩き込むんだ。いいな?」

 一息に言われたが、完璧にシオンは理解した。
 魂に刻み込まれた魔導の効果の一種で、聞いたことや見たことは一瞬で記憶できるようになったのだ。

「わかった。頑張る。最初は戦闘訓練?」

「その通り。読み終わったら俺との模擬戦をやるぞ」

 グレンとの模擬戦。本格的に師匠と弟子の関係になったとシオンは自覚し、同時にわくわくが込み上げてきた。
 伝説の英雄らしき人(立ち居振る舞いや名前、魔導書の蔵書数から言ってほとんど当たりだろう)から直接教えを受けるなんて自分だけの特権だ。
 シオンは少し、ほんの少しだけ幼少期に自分を馬鹿にした人たちに対して優越感を覚えたのだった。


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