才能ゼロのサキュバスは世界最強の弟子となりやがて魔王となる

蒼凍 柊一

第五話 魂の元素と魔導魂剣。それは、ソウル・デバイス


 グレンとシオンが一緒に転移を終えると、壁際に見慣れぬ大きな置物が複数置いてある部屋に出た。部屋の中央はそれなりに広く場所がとられており、武術の訓練も出来るようになっていた。

「これは……?」

 興味深そうに壁際の置物を見るシオン。どんなものなのかが良く分からないようだ。
 その疑問に答えるようにグレンは解説を始めた。

「これは魔導機械だ。王都の列車の機構にもこの技術が基盤となって使われてる。使用者が魔力を送り込むとそれに応じて機械に組み込んだ魔導が発現し、動かすってわけだ」

「……魔導機械」

 シオンの脳裏を嫌な記憶が過った。
 魔力がないシオンは当然、魔導機械を使えない。
 王都での生活もそのせいで随分不便を被ったものだ。水一つにしても水を出す魔道具に魔力を注がねば水が出ないため、誰かに頼むか井戸から汲んでこなければならなかった。

 グレンはシオンの表情を見てそのすべてを悟った。
 道理で、彼女の部屋には魔道具の類もなかったというものだ。

「暗い顔になるな。これからのシオンはそんな悩みとはおさらばするんだからな!」

 いいながらグレンは一冊の本を虚空から取り出した。
 超高等魔導の一種である『空間結合』だ。
 その場所に居ながらにして遠方の空間をつなぎ、人や物を移動させられる魔導だ。

「それは……?」

 無論、シオンは知識がないのでグレンのやること全てが魔導戦士の常識だと思ってしまっていたが、そんなことグレンは露ほども知らない。

 グレンは取り出した魔導書をシオンに渡す。
 シオンはずしりと重いそれを受け取り少しふらつくが、なんとか持ち直した。

「その本には君の魔導戦士生活第一歩に必要な魔導が入ってる。開いてくれ」

 シオンが恐る恐る魔導書を開くと、頭の中に声が響いた。
 平坦で抑揚のない声だ。

『シオン・グレイス 対象認定 完了』

 一瞬にして眩い光が魔導書からあふれ、ページがどんどん自動的にめくられていく。
 そして目的のページにたどり着いたのか、その個所を開いたまま魔導書はシオンの眼前に浮遊した。

「――っ!?」

 一つの魔導陣が頭の中に流れてきて、鮮烈なイメージとなって脳内に残る。
 この効果こそが魔導書の力なのだ。

 強烈な魔力によって描かれた魔導書は読んだものに魔導を与える。
 それが魔導に適さないものであっても。
 その反動で頭に負荷がかかり酷い痛みを伴うのだが、立っていられない程ではない。

「頭痛がひどいとは思うが頑張れ。さぁ、イメージが薄れる前にその魔導を地面に描くんだ。できる限り大きく、な」

 魔力を宿した石である魔導石を加工した物をシオンは受け取った。
 これで地面に魔導陣を描けという事なのだろう。
 魔力が込められた石など国宝級なのだが、知識もそんなことを考える余裕もないシオンは遠慮なくそれを地面に突き立てる。

 痛む頭はそのままに、ゆっくりと、だが確実な綺麗な線を引いていく。
 数分後、広間を埋め尽くすほどの線が書き込まれた魔導陣が出来上がった。

「――よし。これから君の魔導魂剣ソウル・デバイスを作り上げる。魔導陣の真ん中に立つんだ」

「は、はい……っ」

 魔導の力が視えるシオンは唯々その光景に圧倒されていた。
 自分が書いたとは思えない程精緻な魔導陣があり、正常に稼働していたからだ。
 強烈な魔導の力。狂おしいまでの力への渇望を感じていた。

 シオンは指示通りに中央まで歩き、たどり着く。

「目を閉じて。自分の魂に強く刻まれている理想とするものを思い描け。強く、これだけは揺るがぬという理想をだ」

 グレンの言葉を聞いてイメージする。

 ――求めるもの、理想とするもの。それは当然魔導戦士になることだ。
 けれど、具体的には違う。

(私は、神話の英雄であるグレン・ラヴォスチナのようになりたい。そう――いまここにいる彼のような人に)

 それはどこまでも澄んだ願い。切実で純粋な願い。
 周囲から蔑まれ続けても揺るがず、忘れ切ることが出来なかった幼いころからの願い。

 いや――揺るがぬ理想だ。

 魔導陣がシオンの想いに呼応するかのように脈打った。
 強烈な光が溢れ、周囲から根こそぎ魔力が奪い取られ、魔導陣へと流れ込む。

「今だ! 唱えろ、心のままにっ!!」

 グレンの叫びがシオンに届き、言葉を口にする。
 魂に刻まれた理想を力に変えるために――。

『我は、真なる悪神を討滅せし者。果てなき理想の誓約を以て、此の魂に契約せし者。今、新たに喚び起こさん。出でよ! 我が契約の刃――【白銀の討滅剣シルヴァ・リンドヴルム】!!』

 唱え終えると同時に光が弾け、稲妻を放ちながら光の塊がシオンの周囲を駆け回り、周囲全ての魔力を収束させていく。
 建物自体にダメージが行っているのか、激しい地響きともに揺れが激しくなった。

「はは――いいぞ、いいぞっ! そのまま具現化までしてしまえっ」

 グレンの言葉が届いたシオンは本能が命じるままに右手を突き出す。
 すると、収束した光が手元にあつまり、その美しい刀身を現した。

 銀色に煌く純白の剣。束には彼女の瞳のように澄んだサファイア色の魔石がはめ込まれている。

 剣が完全に具現化し、シオンの手に収まった。
 数秒して光が完全に収まるころにはシオンは腰を抜かして座り込んでしまっていた。
 グレンがシオンを支えながら呟く。

「よくやったな。――見事な剣だ。君の理想はとても気高いものなんだな」

 その白銀の剣は何もせずとも煌きを放ち、美しかった。

「グレン師匠……これは、何?」

「分かっている癖に……。これが君の【理想】と【魂】を基に具現化させた魔導魂剣ソウル・デバイスだ。魔力がない俺たち専用の武器……というか、魔力っていう不純物がないおかげでこの魔導陣だけで自らの魂と思想までをも媒体に、すべてを懸けた武器を生み出せるんだ。これがあれば魔導の力を思い通りに操ることが出来る。正確には魔導魂剣ソウル・デバイスに魔導刻印を施すことで、自分の魂に魔導を植え付けるっていう技なんだけどな」

 こんなにあっさり手に入るものなのだろうかとシオンは疑問に思ったのだが、よく周りの状況を視ると、周囲の魔導機械は今の衝撃で吹き飛ばされており、その爆心地である自分は――なんと、裸だった。

「ひっ/// なななな、なんで裸!?」

 あわてて局部を隠すシオンだったが、すぐにグレンがローブを渡してくれた。
 そこでようやく、自分の体に力が入らないことを知る。

「あー……一回、シオンは魂と根源残して肉体が弾け飛んだんだよ。魔導魂剣ソウル・デバイス作成の反動でな。でも成功するのは分かってたし、俺の再生魔導術式もしっかり機能してたから今シオンは無事で、しかも自分の魂で作った魔導魂剣ソウル・デバイスまで手元にある。大成功だろ?」

 開いた口が塞がらないとはこのことだ。
 一回死んだ? なんだそれ聞いてないとシオンは思ったが、ここまでしないと魔力がない自分は魔導を使えなかったということだと自分を納得させる。

 だがそれよりも何よりも。今シオンが一番気になっているのはグレンの手の位置だ。

「……お尻、触ってる」

 顔を真っ赤にしてつぶやいたシオンに対し、グレンの心拍数が跳ね上がる。
 裸を見たときはまだ耐えられた。魔導魂剣ソウル・デバイスの作成をしているのだ。気にすらしていなかったが、今は話が別だ。

(やけに左手が気持ちいいと思ったのはこれが原因か!!)

 思ったが時すでに遅し。穴があったら入りたいとばかりにシオンが身を縮こまらせているのだ。
 愛弟子をこれ以上辱めるのはグレンのプライドが許さなかった。

「す、すまん! すぐに回復魔導をかけて着替えられるようにするから!」

 全力で治癒の魔導をかけて、シオンを回復させる。
 目を瞑ったままそれを確認したグレンはすぐさまシオンを一人で立たせ、転移魔法でシオンをヴィオラのいる部屋に送ったのだった。

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