悟り

ノベルバユーザー288525

 あるところに男がいた。
男は、人の心を知りたがっていた。
何故知りたいのか誰も知らない。当の本人ですら分かっていない。
それでも男は、知りたがっていた。

 男は、まず目を潰した。
心を見るには目が邪魔だと思ったから。
しかし、前に広がるのは、真っ暗な闇だった。
心らしきものは、一つも見えない。

 男は、諦めなかった。
次に彼は、耳を切った。
心の声を聴くため。
しかし、何も聴こえてこない。
男の前の闇は一層深まった。

男は、激怒した。
「何故何も現れない。」
そう言って男は、鼻を折った。
すると、突然何もなかった暗闇に一つの明かりが現れた。
男は歓喜し、吸い込まれるように、それに近ずいた。
「これが心か。」
そう言って男は、光に触れた。
次の瞬間急な吐き気におそわれた。恐怖や痛みも彼をおそった。
「もう、止めてくれ」
そう言って男は、逃げた、逃げて逃げて必死になって、気がつくと、闇がなくなっていた。
目や耳、鼻ももとに戻っている。

男は、呟いた。
「そうか、これが。」
それから男は、二度と人の心を知ろうとしなかった。


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