チートはあるけど異世界はありませんでした

シャムゴット

12

 
 例の歓迎試合から約半年が経った。

 今日も今日とて幼稚園に来ているがいつも通り、クラスでボッチを極めている。

 なぜなら、相変わらず俺は香久弥ちゃんと冬馬以外の友達は出来ていないからだ。
 サッカースクールでも、実力的に釣り合う冬馬とばかり練習をしていることが多く、そっちでも仲が良いチームメートもいない。

 正直仕方ないことだと思う。
 外見が日本人とは違うせいか、それとも親が有名なせいなのか、遠目から見られることはあっても喋りかけてくる子は少ない。

 自分自身、中身が20歳を超えているせいか幼稚園児のパワフルな行動についていけないという思ってしまうことが多々ある。
 やはり、両親や先生などの大人との会話のほうが楽なのだ。

 このあたりが、記憶引継ぎのデメリットだと言えるだろう。

 こんな具合に転生してから、デメリットばかりが目立つようになっているが、実はここ最近よくチート能力に助けられることが多くなっている。

 例えば、公園で冬馬とサッカーをしていて電柱が急に倒れてきた時にバリアで防いだり、トラックが歩道に突っ込んで来るの躱したりといったところだ。

 ……というより最近、誰かが俺を殺そうとしているとしか思えないような状況が起こっている。

 裏山の近くを通ればよく土砂崩れが起こるし、工事現場の近くでは鉄骨が降ってくる。

 最初は、俺の正体を知ったK国のスパイか何かが、俺の命を狙いに来たのかと考えた。
 しかし、どこにもそれらしき人物は見当たらなく、さらには敵意も殺気も感じられない。

 そんな状況が続いているおかげで、最近では家の中でも安心できず、寝てる時もバリアを貼るようにしている。

 原因はわからないが、一緒に住んでいる両親と冬馬や香久弥ちゃんに危険が及ぶことも考えると、できるだけ早く何とかしたいところだ。

「主音くん、一緒にサッカーしよう!」

 いろいろと考えているうちに冬馬が、俺を誘いに来ていた。

「悪いな、今日は香久弥ちゃんの教室でお絵描きの約束してるから、冬馬もサッカーじゃなくてそっちで遊ばないか?」

「うん、いいよ。じゃあ教室に行こう」

 俺たちが香久弥ちゃんの教室へ向かっていると、例の3兄弟が女の子と口論になっているのが見えた。
 
 3兄弟と口論をしている女の子は、少し気が強い感じを漂わせる顔立ちをしているものの十分に美少女であり、ツインテールがよく似合っている。

 それにしても、あいつらはいつももめてるな。

「よし、冬馬。 この間のこともあるし、仲裁ついでにあいつらに文句いってやろうぜ!」

「いやいや、僕はもう気にしてないし大丈夫だよ。 それより早く止めに行こう」

 やはり、冬馬は相変わらず優しいやつだ。

 ……いや、まてよ。
 これって、もしかしなくても俺より大人の対応なんじゃ……

 そっ、そんなことは置いといて、大人らしく仲裁に向かうとしよう。

「ホントにさっき、あんたの後ろにお婆さんの幽霊がいたのよ!」

「このウソつき女、お化けなんているわけないだろ!!」

「ふんっ、どうせ俺たちをビビらせようとしてるんだろ!」

「こっ、怖くなんかないじょ」

 なかなかにホラーな内容だった。
 また懲りずに、誰かをいじめてるのかと思ったが違うらしい。
 あと、最後のやつ『じょ』ってなんだよ。

 ちなみに、この3兄弟は歓迎試合が終わってから母親を連れて文句を言いに来ていたようだが、うちの父親が氷室海人だと知り俺に対して強く言えなくなっている。

 まあここは、取り敢えず辞めさせるとしよう。

「おい、3兄弟! 女の子1人相手に大声を出すんじゃない!」

「げっ、氷室主音だ!」

「おい、こんな奴ほっといて向こう行こーぜ」

「やっぱり女たらしだー!」

 相変わらず失礼な物言いだが俺は聞き流すことにした。
 まあ、俺は大人だからな。

 ……大事なことだから一応言っておくが、断じて冬馬のほうが大人だと感じたからなんて理由ではない。
 
 そんなこんなで、女の子から3兄弟を追い払うことに成功したので、女の子に声をかける。

「君、大丈夫だった?」

「キャーーー!! ち、近づかないで! あっちにいって!!」

 俺の顔を見たとたん、女の子はしゃがんで泣き出してしまった。

「……えっ?」

 俺は状況が理解できずに困っていると、さっきまでのやりとりを見ていた冬馬が女の子と俺の間に入ってくれた。

「主音くんは、香久弥ちゃんのところに先に行ってて。 僕が話を聞いておくから」

 ここまで人に拒絶されたのは初めてでかなり戸惑ってしまったが、俺が原因のようだから後は冬馬に任せることにした。

 ……冬馬がいてよかった。

 その後、俺は香久弥ちゃんと遊んでいたのだが、さっきのことがずっと気になってしまっていた。

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