チートはあるけど異世界はありませんでした

シャムゴット

3

 
 転生してから半年の月日が経った。


 この半年の間で俺は自分についての情報を集めることに成功した。


 まず、俺の名前のアルトは英語ではなく漢字で主音と書くらしい。
 そう、まさかのキラキラネームだ。


 本当に紛らわしいことを……


 これは、最初に俺が異世界だと勘違いしたのも仕方がないと思う。
 苗字は氷室で名前と合わせるとアーティストっぽい感じになる。


 容姿は母さんに似たみたいで、自分で言うのもなんだが金髪に青目で、おそらくかなりイケメンになると思う。


 それと俺が転生した時期はやはり生後3か月だったらしく、今はまだ生後9か月の赤ちゃんである。
 しかし俺の身体能力はすさまじく、今では歩くどころか走れるようになっている。


 更には、若干舌足らずではあるがかなり喋れる。


 そのおかげで、近所ではすごい赤ちゃんがいると噂になっているが、うちの両親は天然なのか「主音は天才ね!」で終わるため特に支障はない。


 あと最も気になっていた完全コピーこと完コピの能力は未だわからない。
 早く知りたいのだが、残念なことにきっかけすら掴めない。
 まあ、このあたりは焦らずやっていこうと思う。


 最近では、幼児向け番組やアンパ〇マンだけでなく日曜日の7つの玉を集めるアニメも見ている。
 俺の前世の頃には終わっていたんだが、今は新しくなって始まっているみたいで、これがかなりおもしろいんだ。


 ガチャ


 ん、父さんが帰ってきたみたいだ。


「アリア、主音、ただいまー!」


「ぱぱー、おかえりー。母さんは買い物にいってるよ」


 父さんの名前は氷室海斗。


 このイケメンは、やはりサッカー選手で数年前までイングランドでもプレーしていたらしく、結構すごい人らしい。
 ちなみにポジションはトップ下、背番号はエース番号の10番、今は東京の強豪クラブチームに在籍している。


 この間テレビを見ていてCMで父さんが出てきたときは本当に驚いた。
 なにしろ実力もあるしイケメンだからな、オファーもわんさか来るのだろう。


 おかげで家もかなり大きく、あまり使わないらしいのだがプールまである。
 なぜ、金持ちは家にプールを付けたがるのか甚だ疑問である。


「一人で留守番なんて主音はえらいな。よーし、そんな主音にお土産だ! 確か朝やってるアニメ好きだったよな?」


 普通の親なら1歳未満の子供が留守番していたらもっと驚くんじゃないだろうか……


 いや、もうなれたしいいや。


 それよりお土産はなにかな?




 ガサ、ゴソ……




 へー、ゴ〇ウのお面に胴着か……


 俺がいつも観てるから買ってきてくれたのか。
 まあ、まだ赤ちゃんだし着ていてもおかしくないな。


「ありがとう、ぱぱ。もう着てみてもいい?」


「おう、着てみろ」


 意外とすごいなこれ、帯まで本格的だよ……
 おおっ、それにリストバンドまであるな。


「着たよー」


「おお! 良く似合ってるぞ!」


 うん、思ったよりテンション上がるな!
 ここは一発お決まりのやつやっときますか。


「かぁーめぇー……」


 ギュイーン


 あれ?これまたお決まりの効果音が……


 父さんも固まっちゃってるよ……


 てっ、これってどうしたら止まるんだ!?


 何とかして被害は最小限に抑えないと!
 どうにかして、気のようなものを抑え込もうとやってみるが、これがかなり難しい。


 くそっ、抑えられな……い……




 ズドーン!!




 その日、俺の両手から放たれたエネルギー弾により、氷室家のベランダは木っ端みじんに消え去った。






 ―翌日―




『昨夜7時ごろ、東京の空にレーザーのようなものが観測され、さらにサッカーで有名な氷室選手の自宅が被害を受けました。幸いご家族の方も無事で現在調査が続いています』


 どうやら昨日の出来事がニュースとなって世間を騒がせているようだ。


 まさか、こんなに大事になるとは……


「もーう、本当にびっくりしたんだからね! でも2人とも無事でよかったわ」


「「ごめんなさい……」」


 昨日は母さんに説教をくらい俺は、某手からビームを出す技禁止令を受けた。
 ちなみに父さんも悪くないのに怒られていた。


 ごめんよ、父さん……


 ここで母さんについて説明しておこう。
 母さんはイギリス出身の元モデルだ。


 もともと日本に興味があったらしく日本語は話せて、ちょうど海外にいた父さんと結婚して日本で暮らすことにしたらしい。
 それを機にモデルの仕事も辞めたらしく、今では立派に専業主婦をやっている。


 ちなみにかなりの天然で、昨日のことも我が家には戦闘民族の血が流れているという結論に落ち着いて、これは我が家だけの秘密となった。


 うん、まあありがたいんだけどね……


 そして、ビーム事件により我が家は現在工事中となっている。
 ベランダの先の庭は地割れが起こり、植物たちはまるで台風が通り過ぎたかのような悲惨な状況だ。


 本当に申し訳ないと思っている……


 それにしても、完コピの能力は思っていた以上に凄まじかった。


 自分が見たものであれば何でもコピーができる能力で合っていたのだが、まさかアニメまでいけるとは……


 しかも、手からビームを実際に撃ってみてわかったのだが、あれは精一杯に加減してあの威力だった。


 おそらくだが、あの50倍は出ると思う。
 さすが宇宙で一番強い男の技だなと納得させられた。


 もちろん使い道が無いから封印させてもらう。
 空も飛べるんだろうけど、実際に飛んでしまうと研究所送り間違いなしだろう。


 うん……あれ?


 せっかくチートを得たのに、ずいぶん生きにくく感じる。


「人生ままならないもんだ……」


 生後9か月の赤ん坊はそうつぶやくのであった。



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