The King of Old ~うちの老いぼれが竜を斬った~

烏山鴉片

1 「英雄」

 兵士が担架に乗せられて王の部屋まで運ばれてきた。
 彼は右腕の肘から下が無く、血みどろで呼吸も危うい。


 トーンズは顔を真っ青にしてバーンズの方を見た。


「こっ…… この傷は一体何があったんでしょうね。それにこの全身の火傷は……」


 兵士は担架の上で最後の力を振り絞るように左手を上にあげ必死で何か言葉を発している。


「……ゴン……が……ちが……炎で……」


 最後まで話さないうちに力尽きてしまった。


 だが、王にはだいたいの状況はわかったらしい。
 目の前に転がる焼け焦げた抜け殻の前で呆然と立ち尽くす。


 トーンズも恐怖におののく目で死体を凝視して、


「これを……ドラゴンが?」


 いつものトーンズと話している時のような腑抜けた面は、今のバーンズには無かった。


 王室の窓からは城下町の賑やかでのどかな光景が広がっている。
 

 彼はうつむいたまま、低い声で話した。


「レガシリアは滅んだ。それも、一匹のドラゴンによってだ……」


 王の今まで見たこともない表情に、トーンズも今回の事態はただ事ではないと察した。


「あそこはいい場所でしたのに…… もしかしたら他の国も……」


「それは知らん……我々の国もいずれ襲われるに違いない。いいかトーンズ、我々はこの国だけは守らなくてはならんのだ……この国だけは……」


 王は見るからにしわを深くしていた。


「トーンズよ。我らが国、エルド・ローンズは先祖の時代から三百年の平和を守ってきた。この国は必ず私が守ろう。」


 と言うと、王は再び力強い表情で語り始めた。


「古の竜が空を舞う頃、奴らと戦っていた勇者たち。彼らの血を引く者たちは今、その勇猛さゆえに世界各地に名を轟かせている。幸い、我が国にも数多くの勇者達がおる。彼らを集めよ。」


 この地には数々の王国があるが、バーンズが言うように国々には一騎当千の戦士、勇者と呼ばれている者がいる。
 このエルド・ローンズも例外ではなく城内には英雄たちの石像が立ち並び、その子孫も現在、多大な戦果を上げている。 
 エルド・ローンズが他国に比べ、内乱や侵略の危険が少なく、民も安心して暮らせるのは、王政が優れていることや、この勇者たちの活躍があるからだ。


 トーンズも勇者の存在を思い出したのか、さっきまでの怯えた様子は消えていた。
 バーンズは再び王座にゆっくりと腰かけた。


「トーンズ。早く勇者のリストを…… どんな勇者がいるか教えてくれ……」


「はい。えー…… まずは、百人力のヴォース。彼の腕力は百人力。どんな怪物も斧さえあれば真っ二つにできます。」


 バーンズは手を叩き、頬を緩ませた。


「うむ…… それならたとえドラゴンであろうとも対応しうるな。とりあえず彼をを呼ぼう。」


 トーンズは当惑の眉をひそめ、申し訳なさそうな表情で、


「あの…… それがでしてね…… 彼は縫合手術の直後で療養中なんです。なんでも遠征中に盲腸にかかって、自ら腹を裂いた後、患部を引きちぎったとか……まだ生きていることが驚きです。」


 そのような豪傑を呼べないことに落胆した王は、肩を落とした。


「だったらいい。他には……」


 トーンズはページをペラペラとめくる。


「えーと…… 大地の王者と呼ばれたテラゴスなんかがいますね。」


「うむ。大地の王者……」


 バーンズはそいつなら問題ないという安堵の表情を見せた。


「あっ! テラゴスは今、レガシリアに新婚旅行中で不在でした!」


 バーンズは顔を手で覆った。


「はぁ…… そういえば、この前エルド・バラで町を挙げてセレモニーがあったが、あれはテラゴスだったか。しかも行き先がレガシリアだとは…… まったくどいつもこいつも…… トーンズ、ちゃんと使えるやつはいないのか。」


「いや、最後にもう一人だけ精鋭がいました。不屈の戦士と謳われるジーク…… 彼はどんなことがあろうとも自らの目的を果たすまで屈しない男で有名です。現在、城下の街はずれの温泉地で休暇を取っています。」


「おお!それならば呼びつけられる。不屈の男か…… 良いではないか。そういう男こそ勇者に向いておる。」


 早速、王は使いの者を温泉地まで走らせた。


 沈みゆく太陽の光に照らされて、今日も街では店じまいの準備が始まる。





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