一万の聖剣を持つ精霊

夢野つき

呼び出し Ⅱ

「はぁ〜、まぁいいです。そこのソファーに座ってください。お話があります」

 リチャードはにこやかに微笑みながらソファーに座るように指示をする。彼の目には少し期待したような感情が映って見えた。
 
「で、話ってなんだ?こっちは学園に入って来てまだ間もないのに話す事なんて無いだろう。初日の授業から連れ出してまで話す事なのか?」
「はい、こちらとしては確認したいことが山ほどあるんですよ」

 相変わらず笑顔を崩さない。その態度にイルミナは、緊張で尻尾が少し震えている。ヒメはと言うと…眠たそうにあくびをしていた。朝のあの行動で目が覚めたと思ったんだが、そんな事は無かったらしい。
 まぁ俺は精霊だからよく分からないが、昨日の夜から寝ずにずっと戦って学園に戻って来たんだから眠たくもなるか。よく見ると、イルミナもなんとか堪えている感じがした。

「それでは手短にお話をしましょうか。」

 そう言うと、リチャードは一度立ち上がると後ろの棚から分厚い書類を持ち出して来た。机に置くと同時に『ドスンッ』と鈍い音が机を鳴らす。

「これは?」
「これは今回の魔物襲撃についてまとめた資料です。それについていくつかお聞きしたいことがありまして…」
「なんで俺たちに聞くんだ?その時は寮室のある生徒は寮室に、通っている人は体育館に避難していただろう?寮での避難状況でも言えば良いのか?」

 今言った事はおそらくあっている。戦っている時、ギリギリ魔力感知圏内に入っていた。
 俺はリチャードを睨みつける。あくまでしらばっくれるつもりだ。
 その只ならぬ雰囲気で、ほぼ寝かけていたヒメは目を覚ます。

「え?なにこの状況…」
「「…」」

 少しの沈黙が学園長室を包み込む。

「はぁ〜、そちらからは話してもらえないようですね…」
「話すもなにも、俺らはなんで呼び出されているかが分からないからな」

 こちらからは口を開かない。イルミナが俺の態度に少し慌てているようだったが今回は置いておく。

「…ならこちらから話をしましょう」

 すると、リチャードは自分の椅子から立ち上がり窓から外を眺める。街の中を荷物を持って移動する兵士達。窓からでは壁の向こうはよく見る事は出来ないが、きっと王国に来た時に見た景色はもう無いだろう。

「実は私もあの戦いに参戦していたんです。魔物を倒しても倒しても終わりが見えない。仲間の兵士達も次々にやられていってしまう。そんな中、私は前線で魔法を使って戦っていました」

 その言葉を聞いた途端、精霊なのに冷や汗が流れたような気がした。

「実に悲惨な光景でしたよ…。しかし、少しだけですがあなた達を見た気がしました。魔物達がいきなり凶暴化した時もそうです。なにが原因かわかりませんが兵士の方々が次々と殺されていく中、戦えていたのはほんの数名。絶体絶命の中に突如として巨大な防御魔法が現れたんです。その防御魔法の魔力の流れを伝って見ていった時…イルミナさんとヒメさんがいました」

 リチャードは後ろを振り返った。その目は確実に俺達を捕らえていた。

「つまり、私が言いたいのはあなた達…あの戦場にいましたか?それが聞きたいのです」
「…」

 それでもなを睨みつける。イルミナとヒメは汗を流し血相が強張ってしまっている。
 沈黙は続く。ほんの数秒の時間がとてつもなく長く感じる。

「…なら言い方が悪かったですね。…これは学園長として聞きます。あなた達はあの戦場にいましたね?」

 睨み合いが続く。

「…はぁ…リチャード、流石に学園長の権限を使うのはずるいぞ…」

 私的な疑問で聞いてくるなら答えるつもりは無かったのだが、国や学園の権限を使われると答えるしかない。あくまで今は国や学園と敵対するつもりはないからだ。敵対したら国は潰せるだろうが失うものが多い気がする。俺の行動の第一はイルミナだ。イルミナは『学校生活を楽しみたい』と言っていた、だから敵対すると学校生活を楽しめなくしてしまうかも知れない。
 それに、出来るだけ権利を使わずにリチャードは聞いてきた。そこに悪意を感じられなかった。だから知ったところで別にどうこうするつもりはないのだろう。

「あぁ、居たぞ…その戦場に」
「…そうですか。やっと話してくれましたね」

 すると、リチャードは盛大に大きなため息をつく。その反応にイルミナとヒメも少しだけ肩に入った力が和らいだ気がした。

「で、それが聞きたかっただけなのか?」
「い、いや、それだけでは無いんですけどね。あなたと話していると何だか気を使ってしまうんですよ」
「それはいい心がけだな」

 そう言って、リチャードは自らの席に座った。椅子に深々と座り、額には少し汗が浮かんでいた。

「いや、私達の王国を守って下さった人はあなた達だったか個人的に確認したかっただけですよ。本当は王様にも報告をしたかったのですが…話して見た感じだと『めんどくさいのは嫌いだ』と言った感じだったので、この事は報告しません」
「それは助かる。実際、そんなめんどくさい事に巻き込んでいたらイルミナの意見なしで王国を潰してしまっていたかもな」
「ちょッ、りょうにー!?」
「や、やめてくださいよリョーマ!」

 イルミナとヒメが慌てながら俺を止めに来た。こいつらは俺をなんだと思っているんだ…そんな事実際にするわけ無いだろ。王国が敵対したらするかも知れないがなにも無かったらしないに決まっている。

「今回はここまでにしときましょう。初めての授業でしたのに邪魔して申し訳ございませんでした。また呼出をする時があるかも知れませんが、今日のところは教室に戻っていただいて構いませんよ」
「おう、そうするわ」

 そう言って、俺は颯爽と立ち上がって校長室を出て行こうとする。

「し、失礼します」
「待ったね〜おじさん♪」

 そう言い残すとリョウマ達は学園長室から出ていった。

ーーーーsideリチャードーーーー

「はぁ〜疲れました…」

 リチャードは椅子に座ったまま額に手を置く。いつもの資料の整理などの仕事や、魔物との戦闘の疲れが顔に出てきてしまっている。

「しっかし、今回の戦いは彼らがいなかったら厳しかったでしょうね…本当に助かりました。でも、本当に彼らかわからない状態で、力を試すためにドアに簡易的な施錠せじょう魔法をかけていたんですがね…簡単に破られてしまいました」

 施錠魔法は防御魔法の一種の一つだ。ドアなどに決められた魔力の道を自分で描き、そのように魔力を流さないとドアが開かないというものだ。簡単に言うと、ドアを開けるための迷路と思った方がいい。
 今回仕掛けた施錠魔法は、簡易的と言ってもそんなすぐに開けれるような簡単なものでは無い。しかし、リョウマさんは簡単に開けて入ってきた。そこまでは良いのだが、問題は…施錠魔法を解除すらせずに力だけで突破してきた事だ。

「一体、彼はどんなステータスなんですか…」

 我々王国の強力な味方になってくれそうな人達が見つかった反面、新しい問題ができてしまったかも知れない事への苦痛で体力が持ちそうにない…。
 そう思いながら、リチャードは大きなため息をこぼす。


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 更新遅れて申し訳ございません。まだ生きてます。
 

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コメント

  • るーるる

    良かった生きてたε-(´∀`*)ホッ

    0
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