私は今日勇者を殺します。

夢空

全ての始まりとなる事件の前兆

脳を直接打っているような酷い金属音。それが意識を取り戻し最初に感じた刺激だった。

「んぅ…うぅ……」

私は堪らず布団に潜り込むが、しかしその音は布団に潜り込む事でさらに音量を増した。

「またか…」

見ると私はどうやら枕元にある目覚ましを布団の中に入れていたようだ。
まあこれでも自他ともに認める寝相の悪さ。こんなこと日常茶飯事なので驚くことではない。

「ふぁ……ふぅ、起きよ」

軽く体を伸ばしその勢いで上体を起こす。昨日はとことん忙しくて、寝る時間も日をまたいでいたが頭は冴えていた。タンスに掛けてある制服を取ろうと暖かい布団から足を出しその時になって気づく。ドアが開いていたことに。

「……………っ!!」

ドアが開いていたということはしずくが起こしに来てくれたという事だ。しかし私は目覚ましで起きたはず。

考えられるのは2つ。

1つは昨日ドアを閉め忘れていたからドアが開いているだけでまだ時間には余裕があるという希望。

もう1つは妹は起こしに来てたし、目覚ましも実はかなり前から鳴っていて、そして今気づいて起きたという絶望。

そしてそれは壁に飾ってある時計によって判決が下された。

「7時45分…………」

いつもは7時30分に家を出ているので完全な遅刻だ。今から急いでも間に合うかどうかかなり厳しい。

(でも急ぐしかない!)

HRが始まるのは8:30からだ。時間は一刻を争う。
もし朝の支度ギネスというのがあるならばかなり上位を狙える程の素早さで支度を済ませ学校のカバンを握る。

「…っとと、忘れるところだった」

机に置いているスマホを充電器ごと引っ張る。充電ケーブルは少しの抵抗を見せるもすぐにスマホを手放して重力に従い机からだらりと落ちていった。
そのままスマホをスカートのポッケに入れて焦りを感じる足取りで階段をかけ下りる。
もう既にしずくは学校に行ったのか1階は真っ暗、リビングに朝ごはんも作られていたが今は食べる時間が無い。帰ってきて食べよう、と心の中でしずくに謝り、足を止めることなくそのまま玄関を出た。


「ん?おお、真昼か
この時間だと寝坊したな」

商店街を抜けようとしたところ、警察の制服に身を包んだりゅう兄と出会った。しかもニヤニヤと笑い冷やかしてくる。

「うるさい!行ってきます!」

焦る気持ちと合わせるようにイライラをりゅう兄にぶつけ私は駅へと急いだ。








「まったく、シャキっとしろよな」

俺は急ぐ真昼を見送りふと、ズボンのポケットが震えているのに気がついた。
どうやら携帯がなっているようだ。番号は同僚の辰巳。

「あーい、なんだ辰巳」

朝礼まではまだ時間があるはず。って事はどうせしょうもないことだろう。

「あ、隆二?なんだ起きてたのかよ、モーニングコール…してやろうと思ったのに」

「やばい、今眠気が完全に吐き気へと変わったわ」

「なら良かった…今から朝飯行こーぜ…
まだ、30分ぐらい…あんだろ?」

俺はチラリと腕時計を見てため息を吐く。

「お前のおごりならな」

「この前は俺が奢ったじゃん」

「この前は俺が奢ったの!お前たらふくパンケーキ食べてただろ!このクソ甘党が」

「叫ばないでくれ…頭に響く…」

そんな小学生のような会話をいつも通り繰り返し、時計を再びチラリと見る。
もう1分過ぎてしまった。朝礼をもう3度も遅刻しているため急がないといけないのに。

「分かった、じゃあ『憩』でな」

結局は俺が折れることで朝食へと急いだのだった。






「はぁはぁはぁ……。
はぁ……間に合ったぁ…」

只今の時刻7:56。この時間の電車に乗ればギリギリHRには間に合う。それはこの1年神代学園に通ってきた成果とも言えよう。

周りを見てみると私服の学生ばかりが耳にイヤホンをつけメールを送ったり横に持ち替えてゲームをしていたりする。

いまこの電車に乗ってる私服の若人はうちの高校である。それほど私服の高校というのは珍しくまた悪目立ちという意味でも有名だ。

私も長いものには巻かれろでは無いがポッケからスマホを出しイヤホンを付け音楽アプリを開こうと電源をつけた。

「んぅぅ……くぅ…」

そこに天使はいた。画面の真ん中でまた赤子のように丸く寝ている。

「ふぇ?」

変な声が自然と発せられ、周りの学生もなんだ?とこちらを見てくる。

慌てて口を閉じイヤホンを耳につけて知らないふりをする。すると直ぐに興味を失ったのか直ぐに自分たちのやりたい事へと戻っていった。
そんな中、わたしの胸中はお祭り騒ぎであった。

先程つけたイヤホンからその少年の寝息がこそばゆく聞こえてくるのだ。
このまま聞いていたいがしかしそうなるとここ一帯が鼻血でまみれてしまうというのは火を見るより明らか。私は直ぐにイヤホンを外した。

(ちょ、ちょっと!なんで私の携帯に入ってるの!)

私は少し興奮気味に画面に映る少年をタップする。しかしそれには全く反応を返さない。それどころか、

「んぅ……」

「………っ!」

寝息を立てながら奥から正面へと寝返りを打った。
その結果可愛らしい寝顔とはだけた服からお腹様やお胸様が垣間見える。
そして私にとってそれは刺激が強すぎた。

「くっ!」

もし今が休日で周りを気にしなくていいのならずっと見続けるのに!

しかしここは公共の場だ。それにふと見れば周りに同学年もいる。
にやけ顔は晒せれない。
悔しいが最後の足掻きだと言わんばかりにスクショをして電源を落とした。


急だが私の通っている学校について説明しようと思う。私の通ってる学校は都立神代学園。なんと世にも珍しい制服着用の義務がない学校なのだ。

(まあ私は生徒会長をしているので毎日制服だが)

だからと言って制服がダサいのかと言われればそうではなく自主的に制服を着て登校する人もいるレベル。

ともかくこの話を聞いてわかると思うがこの学校はかなり緩い。最悪髪を染めたりピアスを開けたりしても先生達は強く言わないだろう。

だからこそ私は今、目の前で起こっている光景に酷く憂鬱な気分にさせられていた。
生徒一人一人が校門前に立っている先生に対しカバンを開け中を見せている。

そう、持ち物検査だ。

別に私は見られて困るようなものをもっている訳では無いから持ち物検査自体はどうでもいい。しかし、問題はそれを仕切っている人物だ。

ゴリラのような体つきに極道のような顔つき。体育教師だからか緑のジャージ姿で時代遅れ感が漂っている人物。剛力 武信(ごうりき たけのぶ)  通称ゴリ公。

彼は体育教師と兼業で生徒指導部もしておりその上、生徒会元締めも行っているオールマイティな人物だ。
元締めというのは文字通りで私達の意見を言える先生はこの先生だけでゴリ公が会議で発言すると言った感じだ。あとは学園祭の進行度の報告などもこの先生にする。

生徒会元締めと生徒会長。関わらない方がおかしいというわけでここ最近無理やり会わないようにしているほどだ。
ちなみに色々な無茶を要求してくる一人がこの人だったりする。

「おはようございまーす(小)」

真昼はカバンを顔の横に上げゴリ公の視線をカットする。そして恐る恐ると持ち物検査をしている風紀委員にカバンをみせ、終わった生徒と一緒に校門をくぐろうとして、

「何してんだ千年原」

「………バレましたか」

カバンを下ろし観念したという顔つきをする。

「そんなことするのはお前ぐらいだ
風紀委員のチェクが済んだならさっさと教室に向かえ」

「あはは、では」

よかったぁ、胸を撫で下ろすが、急いでここを抜けないとまた変な要求をされてしまう。
私は急いで急ぎ足で校門を抜けようとして、やはり止められた。

「あ、そうだ。昨日言っていた掲示板は出来たのか?」

言っているのは昨日命令された『なんでも相談掲示板』の話だろう。
私はため息を我慢しつつ、くるりと振り返る。

「まだ1日も経ってないですよ
私をなんだと思ってるんですか」

今こそ色々とパソコンを扱ってはいるが私は元々機械音痴なのだ。だからパソコンのスペシャリストであるパソコン部にでも頼ればこの短時間でも終わらすことは出来るだろう。しかし、だからと言ってパソコン部に頼めばそれこそ生徒会の意味がなくなる。だから私が頑張っているというのに1日経たずに求められても困るというものだ。

「じゃあ今日中に終わるか?」

「なんとも言えませんよ」

「明後日からゴールデンウィークに入るからな。
もし今日明日で終わらなければゴールデンウィーク中も来てもらうことになるから頑張れよ。」

そう言えば今日は5月1日だ。
なんでも相談掲示板、それがあれば確かに生徒達の悩みを解決したり、その悩みの答弁を他の第三者が見ることで学校の評価が上がるだろう。

だが、と真昼は訝しむ。

だからと言って連休を返上してまで掲示板を作るというのは必要なことなのだろうか。
たかだか5日間。その間掲示板が使えなくてなんの不利益があるのか。
そんな愚痴なら汲めども尽きないのだが、そんな中でも真昼の頭を半分以上仕切る思案があった。

(休日に学校に行くなんて絶対に嫌だ!)

休みの日に学校へ通う。それは学生ならば、いや学生でなくとも社会人だって幼稚園児だって誰でも考えるであろう苦行だ。
これが嫌だからと部活に入らない人も、もちろん存在するし、その中の一人が誰でもない真昼自身なのだ。

「分かりました!今日中に頑張って終わらします」

反抗心が無い訳では無いが、無意識に口調が強くなったのは無理な命令と汚い追い詰め方をしたゴリ公が悪いと自身を棚に上げる。
その返答を最後に真昼はようやく校門をくぐろうと振り返りそして、目の前にいた女性に面食らった。

「生徒会長、早く教室へ戻ってください。生徒の邪魔になっています」

前髪ぱっつんで美しいロングの髪型、少し鋭い眼光に不機嫌さを感じさせる曲がった口元。
彼女の名前は大甕 紬 (おおがめ つむぎ)。

校則に絶対的な信頼を置き、自身に厳しく他人に厳しい人物。
ルール違反をする生徒には勿論厳しいが、間違っているのなら教師にだって意見する怖いもの知らずだ。
だからか最近の風紀委員はよく生徒達のお悩み相談も請け負っている。
絶対中立の風紀委員。そんな異名が付くのも時間の問題であったわけだ。
その頭領とも言える委員長は今日も今日とて不機嫌そうに私を睨む。
笑えば絶対可愛いのに、そんな考えはもう何十回も出てきているがしかし今までその笑顔を一つも見たことがない。
そう言えば一二三君が言ってたっけ。
紬ちゃんはあのままがいい!あの蔑むような視線、虫けらを相手にしているかのような口調、僕達1部の性癖持ちにはご褒美です、だとか。

「会長、ちゃんと聞いていますか?」

「……あ」

急に頭の中に旧友が暴れ出てきたため少しの間ぽかんとしてしまった。
ごめん、そう言おうと愛想笑いを浮かべ委員長の怒りを静めようとする。
だが他人行儀な怒りの静め方を、後ろから襟を引っ張られることで中断された。

「え、な、なに?」

引きづられながら後ろを振り返る。
困っている女の子を助けたぜ、みたいなご尊顔で私を引きずるのは、都立神代学園で最も馬鹿(最バカ)の異名を持つタクだった。
てか靴底がすれる、早く離して。

「まったく風紀委員長は今日もこえーな。
おはよ、真昼」

私はヨレヨレになった襟元を直しつつまだニヤニヤとしているタカに疑問を呈する。

「タカにしては遅いじゃん。どしたの?」

「ああ、今日持ち物検査があるって聞いたからな。風紀委員が帰るHRギリギリを狙ったんだけど……結局無理だったわ」

タカの手には違反物取り上げと書かれた券が握られていた。

違反物を持っている生徒にはこれを渡し違反物を取り上げる。そして生徒は放課後これを職員室へ持っていき先生にこっぴどく叱られるのだ。
ちなみにそれを当日に行わないと処分するという鬼畜な所業は現風紀委員長が定めた規定らしいく、それだけで今の風紀委員長がどれだけ厳しいのかが察せられる。

「ちなみに何持ってきてたの?」

「そりゃ高校生と言ったらマガジンだろ!

あれを授業中にこっそり見るのが青春最大の楽しみだよな」

「……悲しい青春だね」

本人は本気で言っているから本当に悲しい。その証拠に私が言っている意味がわかっていないのかハテナマークが彼の頭の上で踊っていた。

私は最後にとスマホを見るが、しかし美少年はまだ眠っているらしい。次は昼休みに話しかけたみるか。そう考えて再びスマホをカバンにしまった。







チリンとベルを鳴らして喫茶店のドアが開かれる。そこから現れたのは黒髪短髪のイケメン。年齢は22と同い年、しかしキラリと歯を光らすその姿はまだ20を思わせる容姿だ。

「遅いわお前。
また俺が遅刻したらどうすんだ」

俺は遅刻した腐れ縁の男をタバコで指さす。名を小宮山 辰巳(こみやま たつみ)。彼の両親はどちらも刑事だったため、彼も刑事の道を目指すようになったのは決まっていたことのようにも思える。
そんな彼は今日寝ていないのか目の下に大きなクマを作りつつ分厚いファイルを重そうに持っていた。

「あ、ああ。隆二か…
俺はもうだめだ。あとはこれ、任せた……」

そう言いながら向かいの席に倒れ込む成人男性(今年で22)。

その姿は今まで何度も見たことがあるため、あえてツッコミは入れない。どうせ先輩に飲みに誘われて朝まで連れられていたってとこだろ。

「その資料は?」

辰巳が必死に隆二の前へ伸ばしてきたファイルを手に取りぱらりとめくる。

「あー……それは先輩から処分任された…事件の資料だ。11…年前のやつ」

おい、お前の先輩何してんだよ。ちゃんと処分してから飲みに行けよな。
ボロボロの同僚を全く心配することも無く隆二は事件の方に興味が湧いてきた。
11年前の捜査ファイルを今頃に処分となるとそれはただの事件じゃなく、少年心をくすぐられる事件へと変化するのだ。物凄く不謹慎ではあるが。

「そうなるとこれは未解決か」

「ああ。ほら、氷室家って知ってるだろ」

誰だ?
氷室家というワードが頭に入って隆二が出した反応はこれだった。しかし辰巳があまりにも当たり前のように言うためなんとか口には出さずだんまりをしていたが、顔には出ていたらしい。
隆二のポカン顔に溜息を1つ、水を勢いよく飲み干してから解説を入れてくれる。

「3大財閥の1つじゃん。
1000を超える子会社と300兆円を超える総資産。ってキャッチフレーズ知らない?」

「まったく、全然、さっぱり」

氷室グループの権力は日本絶大で、例え話ではあるが氷室家は日本の心臓と言われているほど。
それほど大きなグループを知らない隆二に辰巳はやれやれと首を振る。

「はぁ、まあそこの息子が誘拐された事件だよ。昔…結構騒がれてたでしょ………痛てぇ」

「ああ、確かにテレビで聞いたことがあるようなないような」

勿論ない。が、話を合わせる。
水を飲んだおかげかようやく流暢に話し始めた辰巳。(たまに頭痛に苛まれているが)
それを眺めながらこちらもコーヒーを1口。
うん、なんて気持ちがいいんだ。

「んであれから11年、なんの情報も出ないから捜査の打ち切りが決まったの。んでその処理」

「ふーん、そんな大財閥なら金の力使ってなんでも出来そうだけどな」

サンドイッチを片手に事件の資料を見る。事件の内容が事細かに書かれているが、だからこそこの事件が奇妙だと隆二は感じた。
まず誘拐事件の殆どは何かを見返りにするものなのだ。金と引き換えにというのがよく見られるケースなのだがこの資料によると犯人からの要求は一切ない。
おかしな事件だな、と資料から目を離そうとして誘拐された息子の名前が目に入った。

「ふーん、氷室 天 (5歳)…ね」

(もしまだ生きていたらあいつと同い年か…)

俺はどこか真昼と重ねてしまい可哀想にという同情の念をコーヒーで飲み干した。






それは5月1日の12:15頃。
ある人は食堂に、ある人は屋上に、またある人は教室で机をくっつけ不可侵領域を作っていく。それは傍から見れば常時鎖国の島国を次々と建てていくようにも見えた。
そんな中、周りと同じように机をくっつけた真昼は弁当を開けようとしている友人に問いかけた。

「ねぇ、もし私が目の前に天使が現れたって言ったらどうする?」

「精神科に連れていくよ」

私の前に座っている少女は真顔で小首を傾けつつ残忍なことを宣う。
なら、と真昼は右に座っている別の友人に問いかける。

「超可愛いショタが私の手中にあるって言ったら」

「100当番する」

「だよねー」

一瞬の迷いなくそう言われてしまえばもはやため息しか出ない。それに昨日あったことを全て話したとしても信じて貰えるとはまるで思わない。それどころか本当に心配されてしまう。
ネットもだめ、リアルもだめ。誰にも相談できないというなんとも言えない不快感が真昼の肩にのしかかり、そのまま「あぁぁぁ」と机へなだれる。

「どしたの真昼」

タコさんウインナーを口に運びつつ尋ねるその姿に全く真剣さは感じず、真昼は再びため息をついた。
きっと今の私はたわいもない事で悩んでいると思われているのだろう。
真昼は昨日起こったことの1部を端的に話そうと考えるがしかし、どこをどう話せばこれが解決するのか一向に思い浮かばない。
しょうがない、と真昼が1番気になっている部分について口を開いた。

「昨日パソコンにね、リアルのショタじゃないんだけど画面に小人が現れてぴょこぴょこ動いてたんだけど原因とか分かる?」

これを言った途端に私自身病気みたいな発言をしていると気づいて次第に顔が赤くなってしまう。
こんな話絶対に信じてもらえない。真昼大丈夫?保健室行く?って絶対に言われる…!
しかし、恐る恐る友人達の顔を見るとあまり可哀想な人を見るような目になっていなかった。
それどころか何か思い当たる節があるのか検索をしてくれている。

「それって最近流行ってるVTuberってやつ?」

「!なにそれ?」

まさかあの情報だけで正体が掴めた?

そんな儚い希望を手繰り寄せるように、食いつき気味に尋ね返した。すると暫く携帯を操作し、

「えーとね、リアルの顔とアニメの顔をリンクさせてアニメを動かすっていうのなんだけど…
…あ、こういうの」

それは有名な動画投稿サイトのある一つの動画だった。そこには猫耳を生やした女の子が楽しそうに動き回っている。しかしそれは人間ではない。詳しく言うとアニメの3Dが動き回っているのだ。

「あぁ、確かにそれっぽい
でも…なんか荒いというか」

「まあね。まだ出来て間もない技術だしこんなもんなんじゃない?
そんなん作って真昼もVTuberデビューしたいの?」

「そんな時間あるならカラオケ行ったり買い物行ったりもっと女子高生するよぉ」

私は机に突っ伏しながら昨日の夜と今日の朝を思い出す。

(動画よりも不自然さは全く感じなかった。それにアニメ顔って訳でもないし。)

動画を見ているとそのアニメ顔はきちんとリンクしていないのか時折バグったり不自然さが垣間見える。
瞼が完全に上げたり下ろしたりが出来ていなかったり、指がエグい方向に曲がったり、etc…
その操られている感じと比べるとあれは確かに自我を持って動いてたように真昼は感じたのだ。
結局腑に落ちる回答が出てはくれず真昼はため息混じりに昼食を平らげた。



昼食が終わり真昼は急ぎ足で生徒会室へ赴いた。昼食を食べつつ友人の言っていた言葉を思い出していたらとある言葉が引っかかったのだ。

『えーとね、リアルの顔とアニメの顔を《リンクさせて》アニメを動かすっていうのなんだけど…
…あ、こういうの』

(リンクさせてってことはどこかの機材と私の携帯が繋がってるってこと…?)

考えがそこに達すると同時に弁当をつつく箸を倍速に早め急いで生徒会室に向かったのだ。
お昼休みに生徒会室を訪れる人なんていない。携帯の中の少年と話すには絶好の場所だと思ったのだ。
しかし、

「まだ寝てる…」

それはまだ「くぅくぅ」と寝息を立てていた。
いや、もしこれがVチューバーっていうものならそう見せかけているのか。

(もしこれがVTuberってやつならこの子を遠隔操作してるってこと…だよね
なら情報漏洩とかやばいんじゃ…)

「消すしかない…よね」

するとその言葉に反応したのか突然ムクリと上体を起こして眠気まなこを擦る。

「ふぁあ……」

その目を擦る動きでさえ可愛らしく感じてしまう。

「……ん?君は、だれ?」

そしてとうとうこれは口を開いた。
ふんわりとした声質に穢れを知らない瞳、それに貫かれた私は単純な質問なのに理解が追いつかなかった。

「あれ?聞こえてない、のかな」

ああああ!首をコテンってした!可愛い!可愛い!
ってそうじゃない!

「……私は真昼。君は一体何なの?」

「ぼく?ぼく、は、…ぼくは分からない。何も記憶が無いんだ…」

徐々に不安へと染まる顔を見ているとやはりあの動画にはないリアルさが存在していた。

いやいや、と真昼は首を振って考え直す。

その仕草や顔の表情のリアルさだって最近できた技術かもしれない。
真昼はあえてこちらから正体を明かすことにした。
本当は色々な理由がある。昼休みが短いから、とか、泣いているこの子をこれ以上みたくないとか。

「私は、知ってるよ。きみ、Vチューバーっていうやつでしょ。」

それは相手の正体を明かした大きな一言なはずだ。しかし、それを言われた少年はキョトンとした顔で目をパシパシさせている。
いや、もしかしたらとぼけているだけなのかもしれない。

「悪いけどもう分かってるから。
個人情報を抜くために君がいるって」

真昼は画面に映る不安げな少年を目に入れないように携帯を操作していく。つらつらと決めつけを述べ終わる頃にはデータ初期化の項目までたどり着いた。
少年は真昼からそっぽを向くように画面を見て、真昼が何をするのかをようやく理解したらしい。それは恐怖からか先ほどよりも顔は青ざめ大きな瞳からはこれまた大きな粒の涙がぽたぽたと流れ出した。

「いやだ…死にたく、ない…まだ…生きて、いたい…」

その嘆き方はまるで死刑直前の囚人のようで、かなり真昼は困惑した。

「死にたくないって…
別に生きてるわけじゃないんでしょ?」

別にこの少年を私のスマホから消したってこれを操っている本人はなんら痛くない。さらに言えば今日の朝からずっと私のスマホにいたわけなんだし個人情報は山のように取られているはずだ。
それなのに、そう、それなのに画面に映る少年は泣きじゃくっている。目を何度も拭っているがしかし滝のように流れる涙は留まるところを知らない。

「僕は、消えたら死ぬ、んだ…
だから消さないで、お願いだから…
もう死にたくない…」

消え入りそうな声に再び真昼の心は傷ついていく。罪悪感が真昼を潰しにかかってきている。

(これも全部嘘、なの?)

この泣き言も泣き顔もただ私を騙すために?
そう考えると頭にくる。

「あなたVTuberみたいな遠隔操作してるんでしょ!」

「VTuber…?それは、知らないけど…多分違うよ」

「じゃ、じゃあ証拠出してよ!」

証拠が出せないことなんて真昼にだって分かっている。ただこの少年を操っている輩がもう騙すのは無理だと分かって、本性を出させればいいのだ。

「んぅ?えーと、じゃあ遠隔操作じゃなかったら信じてくれるんだね」

「じゃあほいっと」

その少年は下から上へと動かす。すると、下からスワイプし出てきたのは色々な操作のできるパネルだ。

「ここを押せば機内モードになって外部の通信を止めれる。これで僕が止まったら遠隔操作されてるってなるね」

その自信ありげな言い方に真昼はさらに困惑する。そりゃそうだ。敵が自ら首を差し出してきたのだから。
真意の分からない真昼はそれでもそれの言う通りに機内モードのアイコンを恐る恐るとタップした。

……………

押してから数秒後固く閉じていた瞼を開けた。
ゆっくりスマホが視界に入って、そして携帯の少年が満面の笑みをこちらに向けているのに気づいた。

「ね?」

それは『だから違うって言ったでしょ』という意味なのだろう。
結局少年は機内モードにしても止まらなかった。他のアプリや電話なども試したがそれらは使えず少年は自慢げに胸を張っていた。

「じゃあ本当に意思を持ってる機械ってこと?」

「うん!」

ようやく分かってくれたか、そんな風には大きく頷き返す少年は殺されないという安心からか溜息をついた。
しかし、真昼は再度データ初期化の項目まで画面を戻した。

「でも、やっぱり消す」

「え、待って!なんで!?」

近未来、意思を持った機械が人間を襲いこの世界を征服する映画を見たことがある。
これはいわゆるAIと言うものなのだろう。最近では街中にAIを搭載した機会はいくらでも売っているし、なんなら真昼の家にも搭載しているものはある。
しかし、それらは出来て一言二言の会話だ。このようにお喋りもできて泣いたり笑ったりもできるAIなんて聞いたことがない。

真昼は震える手でとうとうデータ初期化のアイコンに触れようとして、

「それじゃあきみのお手伝いをする!何でも言う事聞くから殺さないで!」

『殺さないで』

その言葉で真昼の手は完全に止まってしまった。
そう、今はさっきまでとは状況が違う。遠隔操作されていないということは、今ここで初期化をすると、この少年を本当に殺すことになるのだ。

「………はぁ」

もちろん真昼に人を殺す勇気なんてこれっぽっちもない。それが例え画面の向こうにいる相手だとしてもだ。
ホーム画面に戻ったスマホの画面を真昼はまじまじと眺める。
落ち着いてから見てみるとやはりこの子はかわいい。何かのキャラを元にしているのか真っ白な髪。その上にアホ毛がついていて表情は少し困り顔。
どうやら今真昼が何を考えているのか分からない感じだろう。

「分かったよ。君を消さないでおいてあげる。」

「……ほんとに?」

本当に怖がっていたのだろう。声が震えている。しかしそんな少年も私が頷くと再び屈託のない笑顔へと戻った。





同日 17:40


「ねぇまひる、何してるの?」

パソコンの横で筆箱に立て掛けているスマホから声が聞こえてくる。
それは5時間ほど前に和解したスマホに住む少年だ。
あの後すぐに昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴ったためちゃんとした話は家に帰ってからにしたのだ。
したのだが、完全に会長の仕事を忘れていた。

「いま誰でも相談できるサイトを作ってるの」

これを今日中に終わらす。もしも今日中に終わらなかったら、

(明日のタイムセールに間に合わなくなる!)

もちろん家には私としずくだけなのでどちらかがその時間にスーパーに行かなければならない。
しずくに頼もうと思ったのだがその日は日番で遅くなると言われている。
そうなるともう使える手は2つだ。今日中に終わらすか、ゴールデンウィークも学校に来るか。どちらを選んだかはもはや言わずとも分かるだろう。
そんな感じに私の中ではブラック会社の残業をこなす社畜となっていた。
しかし、それを傍から見ている彼には私が凄い人に見えるらしく、

「へぇー!じゃあみんなここに助けを求めてくるだね!まひるすごい」

その言葉に社畜となりかけていた真昼の心が溶けていくのが分かる。っていうか、にやけてしまう。
それにそんな純粋に褒められるとむず痒いというか照れくさくなってしまい真昼は「全然」と頭を振った。

「全然すごくないって。どうせこんな掲示板、色恋沙汰ばっかになるってもう分かってるもん」

「色恋沙汰って?」

ポカンとしている少年を見てこちらも目をパシパシしてしまう。
この子の知識はどうなっているのだろう。会話ができることからある程度の知識はあるはずなのだが。
どう説明したものかと悩んだ末、

「んー…たとえば『この子と仲良くなりたい!』みたいな感じかな」

間違ってないはず。

(でももしそんな相談が来ても私じゃまともな答え出せる自信ないんだけどな)

恋の悩みは同じく恋をした人にしか分からない。それは真昼にはないものだ。
今まで憧れや尊敬といった人達はいたが真昼に恋を教えたものはいない。
そんな真昼は逆に相談したいぐらいなのだ。

「ふーん、でもそれって…プツ」

少年は何かを言いかけ消えてしまった。なぜなら真昼が電源を落としたからだ。

「あ、やっぱり真昼いたか!
んじゃ、このあとジュース奢りな」

「何を言ってるんです?私だって会長が生徒会室にいるに票を入れたじゃないですか」

「だーかーら、それじゃあ賭けになんねぇだろって言ってるだろ」

「そもそも『会長が生徒会室にいるかいないか』なんて賭けになりません。
会長は私たちよりも数倍忙しいのですから居て当然です」

一気に騒がしくなる生徒会室。先ほど各文化部の部室へ今年度の変更点をまとめた紙を配っていた生徒会役員達だ。
まず入るなり賭け事の話をしだすタクと高須賀くん。その後ろからスマホを弄っているみはるんと古典単語集と睨めっこをしている山本くんが入ってきた。

(さすがにこの子を打ち明けるのはダメだよね……)

別に真昼は皆のことを信用していない訳では無い。

真昼自身打ち明けたい気持ちが大きいのだが、しかしどう説明したらいいのか分からない。それに、全て説明すると、やはり真昼の落ち度がいくつも気付かされる。別に遠隔操作でもなかったのだから黙っていても大丈夫だろう、そう呑み込んで真昼は仕事を終えた仲間たちを労う。

「おつかれさまみんな
文化部の子達どうだった?」

その一言に全員が溜息をつく。それだけでまあ何となく察しがついた。

「やはり少数の文化部からかなりの反対デモが起こりました。」

「やっぱかぁ。でも『部活成立の最低人数3人から5人に引き上げ』をしないと部費のやりくりが出来なくなるしなぁ」

高須賀くんが端的に報告してくれるが、こればっかりは反対されてもそうしないといけないのだ。少数の部活の人には悪いが諦めてもらうとしよう。

「まあ無事に終わってよかったよ。みんなお疲れ様」

これで今日の生徒会の仕事はもう終わりだ。もう帰っても部活に行ってもお咎めはない。

それなのに、何故かみんなは動かない。

「みんな帰らないの?」

真昼は久しぶりにパソコンの画面から顔を離してみんなを見る。
すると生徒会室の真ん中に備えている役員席に座って各々やりたい事をやっていた。

みはるんはSNS、山本くんは再び古典単語集と睨めっこ、高須賀くんはメガネを執拗に拭いて、タクは家から持ってきたトランプを…

「ってどうやってトランプ持ってきたの!?
今日持ち物検査あったでしょ」

「ふん、風紀委員もまだまだ甘いな。マガジンに気を取られて本命がこっちだとも知らずに」

タクは自慢げに鼻を鳴らしながら承諾も得ず席に着いている4人に配っている。どうやら今からポーカーをするらしい。

「どうしたのみんな?もう解散だよ?」

(私は帰れそうにもないけど)

そんなナイーブな気持ちが溢れてくるがしかし、私のわがままでみんなを巻き込んじゃいけない。
用事のない生徒を学校から帰らすのも生徒会長の役目だ。そう言い訳をして役員達に帰宅命令を出した。
すると、

「今日で終わりそうなんだろそれ」

さっきまで古典単語集と睨めっこをしていた山本くんが言った。

「お前ゾンビみたいな声で『今日で終わらす…今日で終わらす……』って言ってたんだぜ。
もうちょいフリーにやって行こうぜ、待っとくからよ」

トランプをシャッフルしながらニヤニヤとタクが言った。

「タク、生徒会長を侮辱するなら私が喧嘩の相手になりますよ?」

「お、やるか?悪いがおれ親戚の中じゃ『ポーカーの赤兎馬』って異名があるんだぜ」

「お前らうるさいっての。まあ私は真昼のためなら何日でも学校に泊まれるし、
だからそれ終わったら帰りに商店街一緒に巡ろ」

「わははは!女子高生が2人して巡る所が商店街って…
待って腹痛い、まじ腹いゴフッ!」

「ごめん
手、滑った」

静かに笑う山本くん、トランプの手札を睨みつけて唸る高須賀くん、拳を握りしめて怒りを露わにするみはるん、お腹をかかえてのたうち回るタク。
生徒会室は再び賑やかになった。

(そうだ、だから私は生徒会長続けれてるんだ)

何度も辛いと何度も苦しいと何度も辞めたいと思ってきた。
でも、みんながいてくれるから私はまだ会長なんだ。
もし、ここが自室で誰もいなかったのなら私は泣いていたのかもしれない。そんな感情が爆発する前に真昼は静かに深呼吸をした。

「さっさと終わらすから終わったら私もポーカー混ぜてよ!」

先程までのナイーブな気持ちはどこへやら。もう今でさえ私は楽しいと感じていた。


同日 19:58


「おわったあああああああ!!」

猫背からの背伸びをしてとてつもない開放感が真昼を突きぬけ、皆の労いの言葉が真昼をさらに癒してくれる。
すると立ち上がったタクがこちらへきた。

「どんな感じに出来たのか見せてみろよ」

私はマウスを動かしてまず学校のホームページに、それから項目欄にある『なんでも相談掲示板』へアクセスした。

まずサイトのトップには『あなたの悩みはなんですか?』『注目度の高い相談』『解決済みの相談』の3つがあり、ちょこちょこと動物達がいる。
色々こだわって作ったのだが、それでも1番拘ったのはいち早く相談を返すという所だ。

「ここに相談が送られると、このサイトを作ったホストだけ効果音が流れるようにしたの。ほら」

ピロリンピロリン

「これって…あの、あれが揚げられたのを知らせるやつだよね…」

「まあそれはいいの!とりあえずあった効果音を使っただけだから」

ここでは誰よりもマク○ナルドに行ったことのあるみはるんが、いち早く気づくが別に効果音なんてどれでもいい。これで直ぐに気づいて返信できるのだから。

「んなら、これで真昼も帰れるってことだな」

もう興味を無くしたのかタクは既に帰宅用意が完了していた。
まあこんな時間まで待ってくれた方がありがたいのだ。素直に感謝を言っておこう。

「今日はありがとね。みんなまで残ってくれて」 

「いえいえ! 会長もお疲れ様でした!
また大変な時は副会長である私を呼んでください」

「お前ポーカーでショートしてただけだろ」

「タク! いいでしょう。今からまた勝負しますか?」

「いいじゃねぇか。乗った」

今日何度目かの挑戦状を軽々と受けるタク。この2人はあーだこーだと言いつつとても仲が良い。そうしてそのまま2人は生徒会室から出て、私達もその流れで鞄を手に────


ピロリンピロリン


ふいに、先程聞いたばっかの効果音が流れた。

「えっ……」

真昼はハッとしながらも直ぐに学校のホームページに飛ぶ。

その効果音に釣られるように廊下に出た2人も生徒会室にいた2人も自然と真昼の後ろへと集まってきた。
そして、ホームページに辿り着くと『なんでも相談掲示板』の項目に赤い①が光っている。それは相談未対応が1つあるのを知らせるものだ。

「え、え、相談もう来ちゃった!」

どうしたらいいのか分からずマウスを手にブルブルも震える真昼。それを後ろからはやし立てるタクやそれを止めるみはるん、そして、

「大丈夫です、会長。」

「ああ、1度落ち着け。」

両サイドから高須賀くんと山本くんが落ち着かせてくれる。

「すぅ……はぁ……」

深呼吸をゆっくりとして、そうしてようやく手の震えは止まった。

「じゃあ行くよ!」

作って約5分。不思議とワクワクしている自分をよそに新たな書き込みが1件。匿名性の高いその掲示板にはただ一言。


『助けてください』


「なにこれ?………ぇ」

そこには添付ファイルが2枚。それを開いた途端私は息が詰まる。

まず後ろ姿の男。かなり明るい茶髪にピアスの開けた穴が厳つさを増している。こんな見た目しているのはこの高校でたった一人。須川 猛。

その男の向こうにはこの学校の制服の生徒がもうひとりいた。酷く暗いからかうっすらとしか見えない。しかし、腕やお腹には赤い殴打の跡、顔は暗くてよく見えないが、しかしはだけた服から除くその体つきから女性だとわかった。

創設し初めて投稿されたのは進路相談でも恋愛相談でもなく1枚の暴行写真と被害者からの悔しさが籠った手紙の写真だった。




─────────────────────


「ここは今回の話の謎部分を解決していくコーナーです!」

「誰に話しかけてるの、まひる」

「さぁ、私もわかんない。でも送られた紙にそう書いてるの。えーとなになに……『これは大人の事情なので質問に答えるだけして詮索はしないでください』らしいよ!まあ質問を私がするから君はそれに答えてってね」

「うん?よく分からないけどそれがまひるの頼みなら聞いてあげる!」

「うん!じゃあ聞いてくね!
まず1つ目、『少年は最初パソコンで寝ていたのにどうして次の日になるとスマホに移動していたのですか?』だそうです。
これは私も気になってた。どうやって移動したの?」

「あ、理由は簡単だよ。まひるってパソコンをスリープ状態にして寝てるでしょ?スリープ状態だとまひるの目覚ましが本当にうるさかったから電源を切ってたスマホに移動したの。」

「じゃあどうやってスマホに?」

「まひるいつもパソコンに充電器さして充電してるでしょ。あのコードを伝って移動したの」


「じゃあ2つ目、『この少ない話数でかなりの人名が出て来てるんですけど全部覚えた方がいいんですか?』です。」

「これ僕に聞いてもわからないんだけど…」

「これはなんと、答えが書いてある紙が用意されているそうです。てかそれなら私が言わなくてもいいんじゃ…
ってのは嘘です。やります、ちゃんとやりますから…」

「まひる、ほんとに大丈夫?疲れてる?」

「いや気にしないで、大丈夫、大丈夫だからそんな悲しい人を見るような目にならないで!」

「んん、気を取り直して、
えーとなになに、『今まで出てきた人は少なからず物語の本筋に関わってきます。セリフや場面も必要最低限に絞って選んでいますので出来る限り覚えてくれれば幸いです』だそうです。いやぁ、答え方が凄く律儀な感じだね!」

「まひる、すごく無理してる顔になってるよ」

「やめて!それ以上神に抗ったら私主人公からおろされちゃう!」

「それはそうと、僕まだ名前でてないけどこれって物語に関わらないって事なのかな」

「いや、それは流石に無いんじゃない?君はだって、ね。まだ公開されてないだけだし」

「名前自体は既に決まってるってこと?
じゃあもうここで公開しようよ!僕もまひるに名前で呼ばれたい!」

「凄く嬉しいし今のセリフでかなりキュンとしたけどダメだから!」



「えーっとそれじゃあ3つ目いくよ!『今回の話で山本くんが登場したシーンなのですがどうして古典単語集と睨めっこをしていたのですか?古典が大好きなのですか?』」

「山本くんってだれ?」

「あーそっか。確かにまだ君は会ってないもんね。まあそのうちに会えると思うからそれまで我慢しててね」

「えーっとその答えはですね、山本くんは部活に励んでいることはご存知だと思うのですが、部活に力を入れるあまり毎週ある古典の小テストをいつも落とし気味なのです。なのでこの時も古典の再テストの勉強です。」

「まひる、これが最後の質問でよかったの?」

「うん、私も2つ目の質問で止めてたらスッキリして終われたと思うんだけど、まあこれも大人の事情ってやつだよ」

「ふーん、なんか世知辛いね」

「ほんと、君の知識は偏りまくってるね」

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