スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~

Mei

大浴場にて

「加減はいかがですか? レクス君」

 シュレムはボディタオルを泡立たせて、レクスの背中を洗いながら言った。

「だ、大丈夫です……」

 っていうか近い、近いですよ! シュレムさん!! 

 レクスとシュレムの距離は大体拳一個分くらい。およそ恋人と接するような距離だ。少なくとも、今日会ったばかりの距離感ではない。レクス自身、ここまで女性に近づかれた経験はほぼ皆無のため、どうしてもドギマギしてしまう。

「前もお洗いします♪」

 シュレムの爆弾発言にも近いセリフを聞いたレクスは。

「い、いやいや!! 前くらい自分で洗えますよ!!」

 そう言うと、慌ててシュレムからボディタオルを取る。

「え~? 洗わせてくださいよ」

 相変わらずニマニマするシュレム。そんなシュレムを無視し、黙々と前を洗い続けるレクス。やがて洗い終わると、もう一度風呂へと浸かりにいく。

「ふぅ~……」

 二度目の入浴ですが、全く飽きませんね……。

 レクスはようやくリラックス出来たとばかりに一息ついた。シュレムさんも流石にここまでは入ってこないだろう。そう思ったレクスだったが。

「いや~、やっぱり何時入ってもいいものですね、風呂は」

 シュレムはそんな事を言いながら、レクスの隣で風呂に浸かっていた。距離は相も変わらず近い。レクスはシュレムの方を向くわけにもいかず、そっぽを向く形で視線を逸らした。

「「…………………………」」

 しばらくの間、場を沈黙が支配する。特に何を話すでもなく、二人ともただ風呂に浸かっているだけ。

 レクスはそんな空間に気まずくなったのか、急いで立ち上がり大浴場を出るべく出口へと向かうーーーが。

「ーーーレクス君」

 シュレムに呼び止められた。レクスはその呼び掛けに立ち止まる。シュレムの方は向かずに。

「ーーーここに来る前に何があったか存じ上げませんが」

 シュレムの声は一転して真剣味を帯び始めた。

「ーーここでは遠慮は無用です。言いたいこと、伝えたいこと、やりたいことがあれば遠慮なく申してください」

 シュレムがニッコリと微笑んだような気がした。というのも、レクスはシュレムの方を向いていないので表情はわからない。

「ーーーどうしてそれを今?」

 レクスはこのタイミングでシュレムが何故そう言ったのか理解出来なかった。故にそう問う。

「フィアお嬢様に初めてここに連れてこられた時、レクス君、何か思い詰めたような感じでしたから」

 ーーーどうしてこうもネスラさんと言い、ネスラ家の方々は鋭いのでしょうか?

 シュレムの言葉でレクスの中にあった、何かーー曇りのような部分に光が差したような気がした。レクスの頬を一筋の涙が伝う。だが、その姿はシュレムには見えない。これはレクスにとって幸いだった。

 シュレムさんに見られるわけにはいきません。からかわれるかもしれませんし。

 レクスは涙を拭うと。

「ーーーはい!」

 力強く返事した。

 レクスは今度こそ、立ち止まることなく大浴場を後にした。シュレムはそんなレクスの様子を微笑ましげに見つめていた。



◇◆◇◆◇



 ネスラ家の一室にて。

「う~ん……。この服、何か落ち着きませんね……」

 レクスは自分の服を見て呟く。レクスの着ている服はネスラ家の礼服だ。黒を基調とし、所々に黄色っぽいラインが入っており、これまたシンプルなデザインだった。因みに、シュレムによればレクスに合うサイズの服が礼服しか無かったからだとか。レクスは後で自分の服を買ってもらえるよう、頼んでみることにした。

 さっき大浴場でシュレムさんに遠慮は要らないと言われましたからね。思い切って頼んでみるとしましょう。

「……まあ、流石に600万セルクは自分で稼がなければなりませんが」

 600万セルクを貸してくれなど頼めるわけがない。仮にそんな大金を貸してもらえたとしても、何に使うの? とでも聞かれれば終わりだ。奴隷を買うためです、などと答えられる訳がない。

(……そういえば、奴隷を買ったとしてどうやって連れて行けば……)

 そのままネスラ家に連れて帰る訳にも行かない。レクスは思案する。

「……もう一個袋を作りますかね」

 レインコボルトが入れているのだから問題は無いはず。

「……600万セルクを稼ぐためにも早くランクを上げないとですね……」

 レクスは誰もいない部屋の中でそう呟いた。




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