回復職が足りません!

栗塩

04 魔法使いは変人

それからのフォードの行動は早かった。
物理アタッカーしかいないのを極度に気にしていて、魔法アタッカーを入れると言って聞かなかった。
後から分かった話だが、どうやら男だらけのパーティが気に入らないらしく、女性を勧誘しようとしているらしかった。

フォードは早速、冒険者登録へ行く前に、村で魔法使いの求人張り紙を貼ったり配ったり、とにかくよく働いた。勧誘の紙には女性は優先!と書かれていた。まぁ、控えめに言ってドン引きである。










『で……なんで男が面接に来るんだよ』



面接はフォードの家で行われた。ルシオやコロも呼ばれて、長テーブルに三人、面接官として座らされた。面接の日付は固定されていて、希望者はその日にフォードの家に訪れる仕組みだった。

残念なことに、時間になって面接に訪れてくれた人物は男だった。

三人並ぶテーブルの前に設置された椅子に、魔法使いと思われる人物は静かに腰を降ろした。物静かそうな雰囲気の、感情が読み取りにくい表情をした若い青年だった。
無言で座り、言葉を発しない様子を見ると、こちらの声かけを待っているのだろう。絶望するフォードを横に、ルシオがとりあえず面接官っぽいことを言ってみる。

『名前と、志望動機をお願いします』

青年は表情を変えないまま、ルシオをジッ……と、30秒ほど見つめた。長いよ。

『グリスだ。志望動機は、ショタが居るから志願した。パーティに入れてくれ。頼む』

『…………は?』

暫しの沈黙の後、間の抜けた声が漏れた。

『え、ちょ……ショ…なんだって?』

え?今の聞こえなかった?と、言わんばかりに今度は少し大きめな声で青年──グリスは口を開く。

『グリスだ。ショタの気配を察知したからどうしてもパーティに参加したい、採用してくれ』

『いやお前不採用だよ何言っちゃってんだよ!?』

思わずルシオが叫ぶ。先程からグリスの視線が痛い。何か大きな勘違いをしている様だった。それに気付いたフォードが、心底どうでもよさげに耳をほじりながら問いかける。

『ああ、もしかして、ルシオがチビで童顔だから勘違いしたか?こいつもう成人済みの21歳ですけど』

『え……』

表情筋が死んでいるのかと思われたグリスが目を微かに見開く。しかしグッと拳を握って、揺るがない瞳で真っ直ぐルシオを見据える。

『合法ショタか……なおのこと良い!!!』

『いや帰れ!!!!』

再びルシオがガタッと席を立ち上がり出入り口を指差して叫ぶ。その顔は必死である。

『何が悲しくて犯罪者一歩手前の奴を採用するんだよ!?フォードも女の子がいいんだろ!?不採用だよ不採用!!どうもありがとうございましたお引き取りください!!!!』

『ばかルシオ、こいつのこと知らないのかよ?どこから流れ着いたか知らねぇけど、ここんとここの村に滞在してる魔法使いだよこいつ。腕は確かだ、上級魔法を使いこなせるって噂だ。表情筋は死んでるけど』

『ルシオ大丈夫。このヒトから悪い臭いはしない、優しい臭いがする』

『犯罪者の臭いの間違いじゃなくて?』

同じテーブルに座る二人から望んでいない言葉が飛び交えば、焦りからか立ち上がったままだったルシオが力無く座り込んだ。
グリスはその一部始終を黙って眺めていた。

『闇魔法なら上級を習得してる。期待は裏切らない。そろそろルゴーラにも移動したいと思っていたから、同行させてくれ。どうせ組むなら視界眼福で進みたい』

『よし分かった!面接はお前しか来てくれなかったし、これ以上村に時間も勿体ない。採用!』

フォードが明るい声で、新しい仲間へ手を差しのべる。グリスも座っていた椅子から立ち上がり、テーブルを挟んで、まずフォードへと近付き握手を交わす。次にコロ。次にルシオ、と近寄る。

『……ルシオ、と呼べばいいか?宜しく頼む、長い付き合いになるだろうから』

『アッ、ハイ』

握手を一瞬躊躇うものの、先程の変人発言以外は至って普通の対応を取る人間に見えた。またもルシオは雰囲気に飲まれ、片手を差し出し握手をする。と同時にグリスがもう片方の手を握手をしたルシオの手にガッと重ねる。ぎっちりとルシオの手はグリスの両手で包まれる。力が強い。そして長い。

『……………あの、』

『…………小さな手だ』

『ヒェッ…』

瞬時にぶんぶんと繋がれ拘束された手を大きく振り離させる。手汗がすごい。
不安が増すルシオとは反対に、四人揃ったパーティをルシオを除いた三人は喜び、そして改めてそれぞれは目標に向かって胸を高鳴らすのであった。

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