隻眼の現人神《隻眼のリビングゴッド》

有江えりあ

雷霆の小太陽



「チィとマズイねぇ……あまりにも数が多過ぎらぁ……」


2人は襲いくる魔獣達をなぎ倒し、ティアマトまでの距離は目前まで迫っていた。
だが、巨龍の腹から次から次へと産み出される魔獣達は一向に数が減る事なく、隼人とネルガルは囲まれてしまっていた。
背中越しに聞こえたぼやきに対して、隼人は口を開く。


「……全力で権能使えば半分くらいはやれるかも知れねえけど、そうなるとあのデカいのはキツいな」


権能は元々、人間に扱える力ではないため、多様するとそれ相応に体力を消費する。
隼人は、シグムンドとの戦いで今までに無いほどの力で権能を使った後に、異常な疲れが身体を襲ったためその事に気付いていた。


故に、魔獣達との戦いでは権能を極力使わずにグラムによる斬撃をメインに戦い、ここまで進んできた。
ヴィンセントの身体を借りて戦っているネルガルもおそらく同様だろう。


「あんちゃんの言う通りだねぇ…… おじさんもこれ以上兄ちゃんの身体に負担はかけれねえ……  だけどよぉ…もう時間がねぇ!!」
 

ギリッと歯を食いしばり、ネルガルは立ちはだかる獅子と狼の群れに飛び込んで行く。


「馬鹿野郎!! さすがに無謀すぎるっての!!」


重戦車の如く、立ちはだかる魔獣達の中をネルガルは返り血に塗れながら突き進む。
隼人は、ネルガルの拓いた道を進みながら、彼を背後から狙う魔獣達を掃討し、サポートに徹する。


だが、いくら倒しても魔獣の数は減ることがなく、失速し、隼人は飛びかかって来た獅子、ウガルルムに再び倒される。


ウガルルムは、勝ち誇ったように咆哮を上げると、ウリディンムの群れは隼人へと群がる。


「あんちゃんッ!!!」


咆哮を上げる獅子に気を取られ、ネルガルは背後へと顔を向ける。
その隙を逃さぬように、ウリディンムの群れはネルガルの両の腕に噛みつき、攻撃を封じる。


「クソがッ!! 離せよ犬ッコロが!! 早くしねぇと、あいつが……消えちまう……!!」


一瞬にして、2人は敗北へと近づいた。
必死に自らに襲いかかる魔獣達を振り払う隼人。
両腕を塞がれた挙句、更には両足にまで魔獣に食らい付かれ、完全に動きを止められてしまったネルガル。


絶望的な状況。
だが、そんな中、魔獣達を蹴散らしながら突き進み、雷光を発して近づいてくる二人の人影があった。


「最高にハイってヤツだな!! 來花ちゃんすげぇよホントに!!」


透は一直線に、動きを封じられ、力任せに振り払おうとしているネルガルへと駆け出すと、飛び上がり、彼の動きを縛っている狼に飛び蹴りを繰り出す。


「その分副作用は強いんだよぉ…… 多分これ終わったら1週間くらいは動けないと思うよ…… でも、みんな死んじゃうくらいなら全然マシだけど、ねッ!!」


來花は、金色の槍を音速をも超えるような速さで振るい、隼人を襲う魔獣達を打ち砕く。
群がっていた魔獣達は一瞬の内にチリと化すと、來花は隼人へ手を差し伸べ、特徴的な八重歯を剥き出しに笑う。


「來花ちゃんさんじょー!! 間に合ってよかったよ!!」


「……來花!!?  お前、無事だったのか!??」


「死なないっていったでしょー!! そんなに僕のこと信用できないかなあ??」


心の底から安心し、涙を浮かべて手を握る隼人に向かって、來花は頰をプクッと膨らませながら手を引き上げる。


「悪かったよ……  てか、さっきのなんだよ!? 全く攻撃が見えなかったぜ!!」


「あ、これはね!! ……って談笑してる場合じゃないね。 あのデカいの、早く倒さないとホントにみんな死んじゃう」


來花はひどく真面目な表情を浮かべ、槍を強く握ると、立ち上がり剣を構えた隼人に向かって続ける。


「隼人さん、あいつ全体的にヤバい気配してるんだけどさ、その中でも胸の辺りから感じる気配が凄いんだよね。 もし、あいつにも僕ら現人神リビングゴッドみたいに核があるとすればそこだと思う。 道は僕が開くからさ。僕らの命、隼人さんに預けていいかな……?」


「……俺に任せていいのか?」


「むしろ、隼人さん以外にやれる人いないよ! その剣から感じる気配も相当だからね…… かなりの業物と見た!!!」


自信なさげに表情を曇らせた隼人に、來花は再び襲いかかってくる魔獣達を槍で捌きながらニカッと笑う。


「あんちゃんよぉ、悪りぃが俺も一緒させてもらうぜ? あの爬虫類の核にゃあ、俺の大事な女がいるんでね 」


「あんた…… わかった。 一緒に行こうぜ!!」


纏っている衣服は敵の血か自分の血かも分からないほどに鮮血に染まり、ボロボロになったネルガルは、葉巻に火をつけ、ジッポライターをギュッと握ると、今までの飄々とした表情は姿を消し、重々しいシビアな表情へと切り替え、隼人の肩をポンと叩いた。


肩を叩かれた隼人は、不安げに細めた瞳をカッと見開き、キリッとした表情へと切り替えると、ネルガルに向かって薄く微笑む。


「そしたら決まりだね……! 少し力を溜めないといけないんだ、30秒くらい僕を守って欲しいな……」


來花は槍を天高くかざす。
すると、槍の矛先に光り輝く小さな球体が生まれ、電流が渦巻き始める。
來花の金色の槍が生み出した光に、魔獣達はまるで誘蛾灯に誘われる虫のように群がると、隼人、ネルガル、透の三人は魔獣達に攻撃を仕掛けた。


「……おい、ナムタルさんよぉ」


凄まじいスピードでウガルルムに拳を打ち出しながら、透は口を開くと、ネルガルは戦鎚を振るいながら無表情に答える。


「……さっきは悪かったねぇ。 気が収まらねえってんなら、俺を後で殺したらいい。 ただ、申し訳ねぇが条件はつけさせてくれや。 この戦いが終わった後、兄ちゃんの体から出て行くまで待ってくんな。 そしたら煮るなり焼くなり好きにくれていいからよぉ」


「そんなこと誰も言ってねえだろが!! ……あんたとの戦い、まだ決着が付いてねえんだ。 だからよ、生きて帰ってきてもう一度俺と戦え。  それが言いたかっただけだよ」


ネルガルは面食らった顔をして驚いた後、くすっと笑うと呟く。


「……人間も捨てたもんじゃないねぇ、オーディンのじいさん」


來花が力を溜め始めてそろそろ30秒。
三人の背後で唸る雷鳴は荒々しさを増し、球体もそれに比例してバランスボールほどの大きさへと変化していた。


「ありがと!    みんな、避けてよね!!」
來花の声に、三人は散開すると、來花は矛先を前方の軍勢に向けて叫ぶ。


「  いっくよー!!!! 雷霆乃ガルジャナ小太陽・スーリヤ!!!」」


矛先から放たれた球体は、轟音を響かせながら軍勢を飲み込んで進んでいく。
ネルガルと隼人の二人は、球体が作った道を進み、生き残った魔獣は透が担当して倒して行く。


三人がティアマトの前までたどり着いた事を確認した來花は地面に膝をつき、そのまま倒れ込むと、薄れゆく意識の中、口を開いた。


「後は、任せたよ。 隼人さん」


來花と透は、ネルガルとの戦いの時点で戦えるほどの力はなく、立っているのもやっとだった。
そんな二人が通常よりも速く、そして強くなっているのは、筋肉に送られる電気信号を自らの権能で狂わせ、無理矢理動かしているからだった。


人間の身体は、本来100%のうち30%程度の力で動かされており、それ以上の力を出すと、身体に負荷がかかり、壊れてしまうのでそうならないように脳が制御している。
二人は死なない程度に加減してはいたが、リミッターを外したことで膨大な体力を消費していたため、限界を超えた來花は気を失い、瞳を閉じた。

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