隻眼の現人神《隻眼のリビングゴッド》

有江えりあ

望まぬ再会

隼人達は、1000段はあろうかという長い石段の半分程度を登り終え、必死に廃寺を目指していた。


上に近付けば近付くほどに、3人を拒むかの如く嫌な気配は強くなり、それを視覚化したように周りは純黒の濃霧に包まれる。


恐らく、彼の権能ですね……
対策を打っていて正解でした。
しかし、この霧から感じる力はあまりにも微弱…
まるで私達の視界を奪うことが目的のような……


「隼人!!  止まってください!!」


ハッとした表情で叫んだハトホルの声に足を止めると、乾いた銃声が辺りに鳴り響き、隼人が足を掛けていた石段に弾痕が生まれる。


隼人は舌打ちをすると、球体状の炎を手から作り出し、空中に放り投げる。


炎が、辺り一帯を照らすと、浮かび上がったのは階段の頂上に屈み、拳銃を構えた警官隊と、その後ろで指揮を執る、喪服を身につけた、目つきの悪い藍色の髪の男の姿だった。


男は手を前に振るい、合図を送ると、一斉に弾丸が放たれる。


「警官までゾンビになってやがんのかよ!?  銃は反則だろぉが!!」


透は、驚愕し、大声を上げながらジグザグに階段を上りつつ躱し、隼人はハトホルの前に立ち、右手から迸った焔で飛び交う弾丸の雨を焼き尽くしながら前へと進む。


「隼人!! 俺が突っ込む!! だから、そんまま小鳩さんを守っててくれ!!」


「ああ! サポートするから気にせずそのまま突っ走ってくれ!! 」


隼人は左手から炎を巻き起こすと、渦巻いた大蛇のような紅蓮に燃える炎は、透の身体の周りに渦を巻く。


一直線に駆け上がる透に向かって放たれた弾丸は、隼人の巻き起こした炎によって飲み込まれジュッと音を立てて蒸発する。


「隼人の奴、すげえじゃねえか! 俺も負けてられねえな!!」


透の身体に、雷鳴を伴った稲妻が走ると、青白く発光し、電撃を身に纏って突撃する。
透は、速度を維持したまま警官隊目掛けて、両手でラリアットをかまし、4、5人の警官が気を失う。


『我が主、アルラトゥに血肉を捧げよ、我が主、アルラトゥに生命いのちを差し出せ』


拳銃から警棒へと、持ち替えて残りの警官達は透に襲いかかる。


「いいねぇ! 俺もそっちの方がやり易い!!」


透は、襲い来る警官を拳と蹴りで蹴散らすと、指揮を執っていた無表情の男に向かって殴りかかるが、確実に命中したはずの拳には手応えが無く、透の拳は宙を切る。


「おいおい、どんな手品だよ」


額に汗を浮かべて、睨みつける透の視線の先にあったものは、拳の当たるはずだった無表情の顔半分が黒い霧と化した男の姿だった。


「不意打ちが二度も成功すると思うなよ、原始人」


純黒の霧は、透の腕を伝い、口腔へと狙いを定め、流れ込むように体内へと進入する。


「ガっぁアアアアあああ!!!」


透は首に両手を当て、苦しげに叫ぶと、地面に膝を付く。


崩れ落ちる透の姿に冷ややかな笑みを浮かべ、男は留めを刺すべく、右腕に霧を収束させ、透の脳天目掛けて振りかぶる。


「なんてな」


ニヤっと歯をむき出しに透は笑うと、中腰で立ち上がり、電撃を帯びた拳を男の腹にねじ込んだ。


バカな… 俺の権能を身体に取り込んだというのに、こいつはなぜ動けている…!!


男は、口から胃酸を吐き出しながら、宙を舞うと、苔生した石灯籠へと叩きつけられ、砕けた石片と共に地面に崩れ落ちる。


「透! 大丈夫か!?」


透は、階段を上がり、こちらに駆けてくる二人を一瞥すると、再び、えづきながら立ち上がる男へと向きなおる。


「來花ちゃんとの約束、破っちまうけど、仕方ないよな」


透の身体は再び青白く発光すると、拳を構え、二人に背を向けたまま、声を上げる。


「隼人! パパッと片付けて追いつくからよ!!  先に行ってな!!」


「お前……! ッ わかった!! また後で会おうぜ!!」


「待ってください!はやー」


隼人はハトホルが言葉を紡ぐ前に手を引き、灯篭が讃える石畳の奥へと駆けていった。


「さて、あいつにもそう言っちまったしな。 さっさと仕切り直そうじゃねえか! 」


「汚い手段に頼らなければ届かなかった拳で粋がるなよ野蛮人。  権能が効かないのであれば仕方がない。 貴様の好きな肉弾戦で相手してやろう」


全身からまるでオーラのようなどす黒い霧を放出すると、石畳を蹴って距離を詰め、透に向かって殴りかかる。


「なんだよ! 汚ねえ霧に頼らねえと何もできねえもやしかと思ったけどよ! 意外と速いじゃねえか!!」


透は、振るわれた拳に合わせるように、雷を纏った拳で撃ち合うと、青みを帯びた白色と、漆黒の闇を具現化したような純黒の光が混ざり合い、山全体を照らした。


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隼人はハトホルの手を強引に引きながら、雑草がはびこり、所々割れのある手入れされた形跡のない石畳に沿って走り、廃寺を目指していた。


「隼人、すぐに戻りましょう!!   あの男に宿りし神、ナムタルは身体を霧へと変化させ、物理的な攻撃を無効化する事ができるのです! 現人神リビングゴッドに目覚めたばかりで権能を上手く使いこなす事ができない透さんでは勝ち目があまりにも薄い……!!」


手を振り払おうと抵抗するハトホルを無視し、背を向けたまま隼人は先へ先へと進んでいく。


「大丈夫だ。 あいつは絶対に負けねえ。 だから俺も勝つまで戦う。 これは俺達二人の約束なんだ。 だから、その、なんていうかな、俺達を信じてくれよ」


本当に透さんの事を信頼しているのですね…
男の約束、ですか。…ひどく懐かしいですね。


「わかりました。 透さんを信じましょう」


「ありがとな……っと見えて来たな。 あの気味の悪い門が 
7つのセブンス・冥界門クル・ヌ・ギア】か。 どうすれば壊せる?」


速度を上げて、不気味に紅に輝く門へと向かう隼人の背に、凛とした表情でハトホルは口を開く。


「あれは権能により召喚された物。 恐らく、召喚者たるエレシュキガルを倒す事ができれば門は消え、街の人達も元に戻るでしょう。 
ですが、彼女の側近たる、ナムタルの現人神リビングゴッドが護衛に着いていない事が不自然ですね……   罠が仕掛けられているかも知れません。 気をつけて進みましょう!!」




二人は、辺りを見渡しながら石畳を進みつづけると、朽ち果てた廃寺の前にそびえ立った門の前へとたどり着いた。


「思ったより、速かった……」


大木の陰から現れた女は、サファイアのように蒼く、美しい瞳を怪訝そうに細めると、隼人らの前に立ち塞がる。


「あんたがエレシュキガルって奴か? 悪りぃけど、叩き潰させてもらうぜ」


隼人は、右腕から炎を起こすと、迸る炎は、赤銅色の長剣へと姿を変えた。


『ティナ、変わってくれる? 後は私に任せて欲しいわ 』
女は誰に返事をするわけでもなく、コクっと頷くと、口を開いた。


「久しいわね、ハトホル。 そっちは旦那の現人神リビングゴッドかしら? 」


先ほどの無表情に抑揚のない喋り方とは打って変わり、妖しく笑みを浮かべて艶やかな口調に変わった女に、隼人は少したじろくが、ハトホルは真っ直ぐと女に視線を合わせる。


「その絡みつくようなねっとりとした口調…… エレシュキガル、どのような魔法を使ったんですか? 封印されたはずの貴女の意識がなぜ存在しているのです」


「この子を生き返らせる時にね、約束をしたのよ。
私の悲願を叶えるために身体を貸して欲しい、ってねぇ。
幸い、ティナと私は物凄く相性が良かったみたいで、無事に約束が成立したって感じかしら。


ほら、普通の現人神リビングゴッドってよっぽど相性が良くないと、あんたの旦那みたいに、身体の中で眠ってしまう神がほとんどじゃない?」


気味の悪い笑みを浮かべたまま、エレシュキガルは漆黒のオーラを身体から迸らせて、目の前に集めると、形を変え、女の身長ほどの大鎌が生まれた。
エレシュキガルは両手で握り、クルクルと回すと、地面付き当てて続ける。


「さて、どうせ邪魔をしに来たんでしょ?まあ私も貴女達の【神核】が必要だし、邪魔しなくても殺すのだけどねぇ!!!」


「悪いが簡単に殺されるつもりはねえ!」


隼人は剣を構えてエレシュキガルに斬りかかるが、開かれた門の中から飛び出して来た人影の剣技によって弾かれる。


「その漆黒の鎧と剣…… 気高き白狼のような白銀の長髪と髭……  何故、貴方のような誇り高き英傑がエレシュキガルのために剣を振るうのですか。  答えてください!! シグムント殿!!」


ハトホルは驚いた目で、口を手で覆い隠すが、隠された顔にはどこか悲哀が感じられた。

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