隻眼の現人神《隻眼のリビングゴッド》
暗躍する少女
春風が心地よく頰を撫で、草花の匂いを鼻腔に運ぶ中、隼人とハトホルは、最寄りのバス停で、博物館に向かうバスを、古びたベンチに腰を下ろし、ジッと静かに待っていた。
黒のテラードジャケットに、西洋の街並みがプリントされた白のTシャツ、カーキのカーゴパンツを身につけた隼人は心地よい陽気に目を細め、大きくあくびをする。
昨日と変わらない白のワンピースに身を包んだハトホルは唐突に問い掛ける。
「隼人、1つ聞きたいことがあったのですが、貴方は左目が見えていないのですか?」
「ああ、産まれた時から見えてない。気味悪がられるから普段はカラコンで隠してるんだよ。なんでそんなこと聞くんだ?」
「いえ、一宿一飯の恩がありますので、その目を私の権能で治して差し上げようかと思ったのですが…先天的なものだとお手上げです。申し訳ありません。」
「あんたそんなことできんのか!? てか権能ってなんだ??」
隼人は驚きを隠せない表情でハトホルに目をやると、彼女は顔を上げて答える。
「権能とは世界創生の時、自らが創生に携わった事象や物を操る神の能力です。 私は美と豊穣に携わったのですが、医療にも多少関わりがあったので傷を癒すができるのですよ」
ちなみに私は美を司っていますので美しいのですよ。美の女神なので。と付け加え、ハトホルはふーっと強く鼻息を吹き出し、胸を張る。
「へえ、やっぱり神様ってすげえんだな。」
隼人は軽く流すと、ハトホルは頰膨らませる。
「そういえば出会った時から不敬ですよ!!私は神な…」
「おー、きたきた!ほら、乗るぞ!」
プシューと、大きな音を立て、扉が開くと隼人は不機嫌そうな顔をしたハトホルを無視して乗り込む。
「まだ私の話は終わっていませんよ!」
ハトホルも隼人の後に続き乗り込む。
バスの中は幸いにも誰もおらず、席も選び放題だったため、1番後ろにある4人がけを2人で独占した。
「バスは世界各国どこへ行っても人が多くてごみごみしている印象だったのですが、日本のバスはスッキリしてますし、静かですし実にいいものですね!!」
「まあ土日とはいえ、この辺の人間は大体車持ってるからな。田舎だしこんなもんだ。」
隼人は、静かに窓の外を覗き込むハトホルを横目に保護者の気分に浸りながら、しばらくバスに揺られているとバス停を3つほど越えた辺りで、中学生程の年頃の少女が乗り込んできた。
肩に触れないくらいの溶かしたバターのような淡いクリーム色のショートヘアーの少女は、赤と黒のボーダーのカットソーの袖から指先をのぞかせ、肩にかけた大き目のギターケースを座席にぶつけながらコツコツと厚底ブーツの音を響かせる。
彼女は、ハトホルの前の席に腰掛けると、ギターケースを横の座席に放り、デニム地のショートパンツから紫色のコードを耳に伸ばすと、こちらにも聞こえるほどの大音量で音楽を聴き始めた。
 うわぁ…こんな田舎にすげえロックなやつがいたもんだ。
隼人は苦笑しつつ、ハトホルに視線をやると、彼女は俯き、身体を小刻みに震わせていた。
「隼人、この国ではこのような不協和音を周りにジャカジャカと響かせるのはマナー違反ではないのですか…?」
ハトホルは顔をしかめ、目の前の少女に怒りを露わにした視線を向ける。
「まあ都会に行けばこんなんばっかだしあんまり目くじら立てんなよ。 俺らしかいないんだし大目にみようぜ?」
ハトホルを必死になだめる隼人だったが、更にバス停を2つほど過ぎた辺りでハトホルの怒りは最高潮に達した。
「もう我慢できません! 間違いを正すことは神の務めでしょう!! 注意します!」
ハトホルは、細く長い指を生やした傷一つない艶やかな手で少女の肩を叩く。
肩を叩かれた少女は翡翠に似た輝きを持った瞳をハトホルに向ける。
「なぁに?? 僕に何か用でもあるのかな??」
不思議そうに小首を傾げる少女に、柔らかな笑顔を向けると彼女は口を開いた。
「音楽を聴くことは構いません。 ただ、他の方の迷惑になるようではいけません。もう少し音量を落として聞いた方がよいと思いますよ?」
隼人は、思った10倍は優しく注意するハトホルに胸をそっと撫で下ろすが、少女の青白い肌とは対照的な、熟れたイチゴのような赤い唇を開き、少女は少し不機嫌そうに答える。
「ごめん!何言ってるか聞こえないんだけど!」
あ、これは爆弾だな…めんどくせえ…
隼人は恐る恐るハトホルに目をやる。
ふわふわとした青紫の髪に覆われていたためによく見えないが、こめかみに一瞬青筋が走ったように見えた。
ハトホルはそのまま柔らかな笑顔で先ほどよりも少し大きめの声で続けて言う。 
「話をする時は音楽を止めないと相手の声が聞こえませんよ? さ、音量を落としてください。 他の方のご迷惑ですよ?」
思ったより大人でよかったぜ……これで平和的解決だろう……
自分よりも、遥かに年上である彼女に対してそんな無礼な事を考えていると、少女はクリーム色の頭を掻きながら、特徴的な八重歯を剥き出しにニィと笑う。
「ほんっとうにごめん!何言ってるかわかんないやぁ!」
隼人の耳に、座席の横からブチっと何かが弾け飛ぶ音が飛び込んでくる。
はぁ、と大きなため息をつくと、次の瞬間、怒号が飛ぶ。
「いい加減にしなさい!! 他の人の迷惑になるから大音量で音楽を聴くのはやめなさい!! あと、話をする時くらいイヤホンを取ったらどうですか!?」
ようやく声が届いたのか、イヤホンを耳から外すと、少女は困ったように笑いながら、頭に血が上り、逆上しているハトホルに言いづらそうに呟く。
「あのさあ…おばさん。さすがに公共の場で大声上げるのはダメだと思うんだよねえ…」 
「なっ!! おばさんとは失礼な!! 私はーー」
「ははは! 悪りぃ悪りぃ!! こいつ、頭に血がのぼるとすぐこうなるんだ!! 許してやってくれよ!!」
隼人は、完全に思考能力を失ったハトホルの口に手を当てると、少女に謝罪をする。
「いいよ! 今回はお兄さんに免じて許してあげよー!」
少女は両手を空中に伸ばし、無邪気に言うと、何か思い出したかのように少女は口を開いた。 
「あ、ここで出会ったのも何かの縁だと思うんだよね!! もしよかったら今日13時からモールでライブをやるんだよ!! 2人で来てくれたら嬉しいな!!」
隼人はスマホを取り出すと、電源ボタンを押し時間を確認する。
「11時か…うん、全然大丈夫だ!」
「むむぅ…むう!!」
異議を唱えるが如く、必死振りほどこうとするハトホルを抑え込み、隼人は返事をする。
「そしたら決まりだね!めっちゃ待ってるから!!」
少女が八重歯を輝かせ、親指を立てるとバスはピンク色の看板のショッピングモールの前に停車した。
「あ、降りなきゃだ!! じゃあね!」
ギターケースを肩にかけ、素早く立ち上がると、少女は、降車口に駆け出したが、ピタッと動きを止めて振り返ると隼人に向かって口を開く。
「そういや名前聞くの忘れてたや! お兄さんお名前なんてーの!?」
「隼人だ! 善知鳥 隼人!」
「おっけー!隼人さんねー!私は來花!來花 トニトゥルスだよ!かっこいいっしょ!」
來花と名乗った少女は、兎のように跳ねながら降車口に姿を消した。
バスを降りると、足早に、ショッピングモールへと向かいながら、來花は、丸い毛玉のような大きなキーホルダーのついたスマホを取り出し電話をかける。
「もしもし、おっさん?  とりあえず接触できたよー。 うん、来てくれるってさ。 早いとこ打ち合わせしようよ。 うん、じゃあね。」
通話終了をタッチすると、先ほどの明るい表情は消え、ゾッとするほど冷ややかな笑みを浮かべ、カラカラと音を立てるギターケースを撫でながら呟く。
「ライブ、盛り上がるといいなあ…」
黒のテラードジャケットに、西洋の街並みがプリントされた白のTシャツ、カーキのカーゴパンツを身につけた隼人は心地よい陽気に目を細め、大きくあくびをする。
昨日と変わらない白のワンピースに身を包んだハトホルは唐突に問い掛ける。
「隼人、1つ聞きたいことがあったのですが、貴方は左目が見えていないのですか?」
「ああ、産まれた時から見えてない。気味悪がられるから普段はカラコンで隠してるんだよ。なんでそんなこと聞くんだ?」
「いえ、一宿一飯の恩がありますので、その目を私の権能で治して差し上げようかと思ったのですが…先天的なものだとお手上げです。申し訳ありません。」
「あんたそんなことできんのか!? てか権能ってなんだ??」
隼人は驚きを隠せない表情でハトホルに目をやると、彼女は顔を上げて答える。
「権能とは世界創生の時、自らが創生に携わった事象や物を操る神の能力です。 私は美と豊穣に携わったのですが、医療にも多少関わりがあったので傷を癒すができるのですよ」
ちなみに私は美を司っていますので美しいのですよ。美の女神なので。と付け加え、ハトホルはふーっと強く鼻息を吹き出し、胸を張る。
「へえ、やっぱり神様ってすげえんだな。」
隼人は軽く流すと、ハトホルは頰膨らませる。
「そういえば出会った時から不敬ですよ!!私は神な…」
「おー、きたきた!ほら、乗るぞ!」
プシューと、大きな音を立て、扉が開くと隼人は不機嫌そうな顔をしたハトホルを無視して乗り込む。
「まだ私の話は終わっていませんよ!」
ハトホルも隼人の後に続き乗り込む。
バスの中は幸いにも誰もおらず、席も選び放題だったため、1番後ろにある4人がけを2人で独占した。
「バスは世界各国どこへ行っても人が多くてごみごみしている印象だったのですが、日本のバスはスッキリしてますし、静かですし実にいいものですね!!」
「まあ土日とはいえ、この辺の人間は大体車持ってるからな。田舎だしこんなもんだ。」
隼人は、静かに窓の外を覗き込むハトホルを横目に保護者の気分に浸りながら、しばらくバスに揺られているとバス停を3つほど越えた辺りで、中学生程の年頃の少女が乗り込んできた。
肩に触れないくらいの溶かしたバターのような淡いクリーム色のショートヘアーの少女は、赤と黒のボーダーのカットソーの袖から指先をのぞかせ、肩にかけた大き目のギターケースを座席にぶつけながらコツコツと厚底ブーツの音を響かせる。
彼女は、ハトホルの前の席に腰掛けると、ギターケースを横の座席に放り、デニム地のショートパンツから紫色のコードを耳に伸ばすと、こちらにも聞こえるほどの大音量で音楽を聴き始めた。
 うわぁ…こんな田舎にすげえロックなやつがいたもんだ。
隼人は苦笑しつつ、ハトホルに視線をやると、彼女は俯き、身体を小刻みに震わせていた。
「隼人、この国ではこのような不協和音を周りにジャカジャカと響かせるのはマナー違反ではないのですか…?」
ハトホルは顔をしかめ、目の前の少女に怒りを露わにした視線を向ける。
「まあ都会に行けばこんなんばっかだしあんまり目くじら立てんなよ。 俺らしかいないんだし大目にみようぜ?」
ハトホルを必死になだめる隼人だったが、更にバス停を2つほど過ぎた辺りでハトホルの怒りは最高潮に達した。
「もう我慢できません! 間違いを正すことは神の務めでしょう!! 注意します!」
ハトホルは、細く長い指を生やした傷一つない艶やかな手で少女の肩を叩く。
肩を叩かれた少女は翡翠に似た輝きを持った瞳をハトホルに向ける。
「なぁに?? 僕に何か用でもあるのかな??」
不思議そうに小首を傾げる少女に、柔らかな笑顔を向けると彼女は口を開いた。
「音楽を聴くことは構いません。 ただ、他の方の迷惑になるようではいけません。もう少し音量を落として聞いた方がよいと思いますよ?」
隼人は、思った10倍は優しく注意するハトホルに胸をそっと撫で下ろすが、少女の青白い肌とは対照的な、熟れたイチゴのような赤い唇を開き、少女は少し不機嫌そうに答える。
「ごめん!何言ってるか聞こえないんだけど!」
あ、これは爆弾だな…めんどくせえ…
隼人は恐る恐るハトホルに目をやる。
ふわふわとした青紫の髪に覆われていたためによく見えないが、こめかみに一瞬青筋が走ったように見えた。
ハトホルはそのまま柔らかな笑顔で先ほどよりも少し大きめの声で続けて言う。 
「話をする時は音楽を止めないと相手の声が聞こえませんよ? さ、音量を落としてください。 他の方のご迷惑ですよ?」
思ったより大人でよかったぜ……これで平和的解決だろう……
自分よりも、遥かに年上である彼女に対してそんな無礼な事を考えていると、少女はクリーム色の頭を掻きながら、特徴的な八重歯を剥き出しにニィと笑う。
「ほんっとうにごめん!何言ってるかわかんないやぁ!」
隼人の耳に、座席の横からブチっと何かが弾け飛ぶ音が飛び込んでくる。
はぁ、と大きなため息をつくと、次の瞬間、怒号が飛ぶ。
「いい加減にしなさい!! 他の人の迷惑になるから大音量で音楽を聴くのはやめなさい!! あと、話をする時くらいイヤホンを取ったらどうですか!?」
ようやく声が届いたのか、イヤホンを耳から外すと、少女は困ったように笑いながら、頭に血が上り、逆上しているハトホルに言いづらそうに呟く。
「あのさあ…おばさん。さすがに公共の場で大声上げるのはダメだと思うんだよねえ…」 
「なっ!! おばさんとは失礼な!! 私はーー」
「ははは! 悪りぃ悪りぃ!! こいつ、頭に血がのぼるとすぐこうなるんだ!! 許してやってくれよ!!」
隼人は、完全に思考能力を失ったハトホルの口に手を当てると、少女に謝罪をする。
「いいよ! 今回はお兄さんに免じて許してあげよー!」
少女は両手を空中に伸ばし、無邪気に言うと、何か思い出したかのように少女は口を開いた。 
「あ、ここで出会ったのも何かの縁だと思うんだよね!! もしよかったら今日13時からモールでライブをやるんだよ!! 2人で来てくれたら嬉しいな!!」
隼人はスマホを取り出すと、電源ボタンを押し時間を確認する。
「11時か…うん、全然大丈夫だ!」
「むむぅ…むう!!」
異議を唱えるが如く、必死振りほどこうとするハトホルを抑え込み、隼人は返事をする。
「そしたら決まりだね!めっちゃ待ってるから!!」
少女が八重歯を輝かせ、親指を立てるとバスはピンク色の看板のショッピングモールの前に停車した。
「あ、降りなきゃだ!! じゃあね!」
ギターケースを肩にかけ、素早く立ち上がると、少女は、降車口に駆け出したが、ピタッと動きを止めて振り返ると隼人に向かって口を開く。
「そういや名前聞くの忘れてたや! お兄さんお名前なんてーの!?」
「隼人だ! 善知鳥 隼人!」
「おっけー!隼人さんねー!私は來花!來花 トニトゥルスだよ!かっこいいっしょ!」
來花と名乗った少女は、兎のように跳ねながら降車口に姿を消した。
バスを降りると、足早に、ショッピングモールへと向かいながら、來花は、丸い毛玉のような大きなキーホルダーのついたスマホを取り出し電話をかける。
「もしもし、おっさん?  とりあえず接触できたよー。 うん、来てくれるってさ。 早いとこ打ち合わせしようよ。 うん、じゃあね。」
通話終了をタッチすると、先ほどの明るい表情は消え、ゾッとするほど冷ややかな笑みを浮かべ、カラカラと音を立てるギターケースを撫でながら呟く。
「ライブ、盛り上がるといいなあ…」
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